第17話 戦いが終わって

「んん……ん?」


 木の根元ですやすやとお休み中だったユーリアは、温かい毛皮の感触に目を覚ました。


「おはようございます、お嬢様」


 朝に掛ける第一声のように、にこやかにショコラが挨拶をする。


「戦いは終わったか?」


「はい、無事に終わりました」


 ショコラの視線に導かれ、ユーリアはそちらへと瞳を向けた。見ると、ミザデレールが鼻血を出して倒れている。


「少々手こずりまして。申し訳ありません」


「そうか。……こんな傷を負う程に、か」


 じっとショコラの体を見つめるユーリア。彼の体はユーリアを守る為に庇ったせいで、ボロボロだった。せっかくの貴族の服も台無しになっている。


「すまない。痛むか?」


「大丈夫です。ただ、私が油断してしまったのですよ。ちょっと遊んでしまいましたし、ね」


「……何があった」


 いつになく、ユーリアが真剣な声で尋ねるので、ショコラは申し訳なさそうに答えた。


「……私と戦う中でミザデレールは力に目覚めました。その力に驚きましたが、戦っている内に彼女は、鼻血を出すようになったのです」


 ちらりとミザデレールに視線を向けて、ユーリアの方に視線を戻す。


「そして考えました。『もしかしたら、キャパオーバーをしているのではないか』と。いきなりの覚醒でしたからね、強大な力に体が悲鳴を上げているのではないかと」


 ──だったら。


「だったら、もっと体に負荷をかけたらどうなるか?──まあ、あの男もいますし、瀕死の状態になっても治療出来るだろうと踏んで──最大限の力を使わせたのです」


 そろそろ、ですかね……。


 あの時にショコラが思ったのは、このことだった。


「そうか……ご苦労だった」


「ありがとうございます」


 ユーリアは立ち上がり、ミザデレールの元に行く。そして、彼女にかけられた魔術を解く。次いでミザデレールの傷を見て、思ったよりも軽いと考えた。


「アザリ、アザリ」


 ユーリアは気絶しているアザリに、声をかける。


「……あっ、ユーリア! 無事だったんだね!」


「よかったー」と、抱きつくアザリにユーリアは言う。


「アザリ、お願いだ。ショコラの傷を治してやってくれ」


「ええっ……」


「お断りします」


 アザリが何か言う前に、ショコラは断固拒否をした。


「お嬢様、この程度の傷、私は平気です」


「んだよ、かわいくないなぁー」


「……どうしてもイヤか?」


「この男に治療してもらうなど、一生の恥です」


「そこまで言うっ!?」


 ユーリアはしばし考え、ショコラに言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る