第8話 敵が現れた

「けど、よく何者にも遭遇せずに森を抜けられたな」


「それは、森にはユーリア様の強力な結界が張ってあり、外敵からは見えない仕様になっているからですよ」


 そこに森があると無意識では認識しているのに、目には見えない為、攻められないらしい。


「ですから、ほら。森を抜ければ……ね?」


 ぞろぞろと群れをなした猪の魔物、モウシン達が現れた。あっという間に円を囲うようにして、道を塞がれてしまった。


「へへへ、活きの良さそうな奴らが3人いるぜっ!! まとめて倒し……ぐへえっ!!」


 雑魚の魔物が悦になって話す話ほど、退屈なものはない。戦隊もののセオリーを無視し、相手の話が聞き終わる前に、攻撃を開始したショコラ。


「そのおしゃべりな口を閉じなさい? お嬢様の耳が穢れますので。お嬢様、すみません」


 ユーリアに一言断って、彼女を地面に降ろす。


「構わん」


 了承の意を示し、ユーリアも戦闘態勢に入る。……といっても、手を前にだらりとした猫背姿だったのだが。


「野郎共っ、やっちまえー!!」


 ショコラにやられた猪の魔物、モウシンが尻餅を着いた格好で、ユーリア達を指差し、命令した。


 うおぉおおああーー!!


 仲間のモウシンが怒声を上げて、ユーリア、ショコラ、アザリそれぞれを狙って来る。


「この僕に挑むなんて、やれやれだね」


 アザリは不敵に笑い、両手を合掌し詠唱を始めた。


「モン、マカリ、ハウラ、ソワタ。モン、マカリ、ハウラ、ソワタ。モン、マカリ、ハウラ、ソワタ」


 アザリは光に包まれ周りには梵字が浮かび、それらが螺旋状に天へと渦巻いていく。呪文を唱えていく内に、光は轟音と共に強さを増し、辺りを照らす。


「なんだ、なんだ」


 戸惑うモウシン達にアザリは、とどめの一声を出す。


「モン、マカリ、ハウラ、ソワタっ!!」


 光の玉がモウシン達に向かい、凄まじい速さで飛んでいく。


「ぐわあぁあ!!」


 アザリを倒そうとした魔物達は、あっという間に塵と化した。

 彼の神仏習合寺院で最高位の男というのは、伊達ではない。


「このアザリ・アムテレスを舐めないで欲し……」


 最後まで言う前に、アザリは倒れた。

 急に体が言うことを利かなくなったのだ。彼は、体をわなつかせながらも、事態の把握の為、左右に視線を巡らした。


 そして。


「なんだこの蝶は!?」


 アザリの瞳に映ったのは、大量の蝶。

 青と緑のコントラストが美しい蝶が、鱗粉を振り撒き、大量に飛んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る