第21話 石炭について調べよう!

21.石炭について調べよう!


 その後、エリザベスと一緒にマイヤー家を訪ねた。


「ようこそ、みなさんんん!」

 アルブレヒトはやっぱりオペラ調で、オレらを出迎えた。

 なんか、気力ゲージを削られてる気がするのはオレだけですか?

 ……精神攻撃?

 ともかく用件を伝える。


 でも、新たな石炭の産地開発だけは伝えなかった。

 これは機密事項だからな。

 極秘裏に進めないと意味がない。

 ということになってるし。


「ほほう、石炭ですとな!」

 アルブレヒトはやっぱり無駄に声が大きい。

「石炭と言えば、『ニダヴェリール』ですよっ」

 アルブレヒトは巻き舌発音だった。

 あんた、どこ出身だよ?

「ニダヴェリールは、ミッドガルド南端にある地域でして、元は小人族や矮人族の住む土地ですよぉっ」

 アルブレヒトは続けた。

 疲れないみたいですね、この人。

 ちなみに矮人族ってのは、太っちょでヒゲ生やしてて大酒のみで大食らいで頑固で、炭鉱やら金鉱やらで働くのが大好きな種族だとか。

 それって、ドワーフじゃん。

 じゃあエルフもいるのかね?

「昔は炭鉱があったのですが、今はその跡しかありませんな」

「では、やはり南から輸入してるんですか?」

「そうです。ムスペルヘイムから細々と輸入しているはずですよ。

 ま、細々と言っても昔に比べてのことで、今でも我らの北方への輸出以上の数量がありますがね」

 それって結構な量だよな。

 あ、でも、ミッドガルド全体へ行き渡る量ではないのか。

 となると、高級品として金持ち連中に行き渡ってるってとこだな。

 ヒルデに聞いてみるのがいいかも、金持ちの令嬢っぽいし。

「その石炭に関わっていて、国政にも食い込んでいる方は?」

「……うむ、ロンドヒル公爵だな」

 アルブレヒトは急に声を潜めた。

「公爵は元を正せば王族の血筋に行き着く由緒正しい家柄だ。

 ニダヴェリールの北、アスガルドの南に位置する都市である『ドラシール』を治める地方統治者の一人でもある。

 ヴァルハラ、ビフレストの多くの商人が石炭を買い求めに行く場所ですな。

 公爵も多くの商人を抱え、利権を握っている」

「へー」

 オレは先を促した。

 王・侯・貴族で言えば『侯』族か。

「だが、公爵には黒い噂が付きまとっている」

「どんな噂ですか?」

「何でも、領地内の美しい女性を集め、その生き血を啜っているのだとか」

 ドラキュラですか。

 いや、ジル・ド・レーだっけか。

「わははは、噂にしては低俗な部類だな」

 エリザベスが笑い飛ばした。

「わたしも昔、部下の兵士たちを頭からバリバリ食うとか言われたことがあったぞ」

 ……やりそう。

 オレは周囲をチラと見たが、

 みんなの表情が、

 うん、やりそう。

 うん、やりそう。

 と言っていた。

「なんだ、軽い冗談ではないか」

 エリザベスはぶすくれた。

 そんな些細なことで機嫌悪くならないでください。

「敵が狙うとしたら、公爵閣下ですね」

 オレはエリザベスに耳打ちする。

「石炭がなければ死活問題になるし、石炭を増やすことを条件に何らかのミッドガルドに不利益な事を飲ませることができそうだ」

「なんと!」

 アルブレヒトは地獄耳だった。

 あんた、何者?

「それは天下の一大事ではないか」

「あー、アルブレヒトさんも混ぜて欲しいんですね?」

「うん、そう」


 ぱああっ。


 アルブレヒトは、さわやかな表情でうなずいた。


「でも、国事に関わっている人がそう簡単に敵に通じるかな?」

 鐶が珍しく意見を述べた。

 もっともな考えだ。

「ま、バレたら地位がやばいだろうからな」

 オレはうなずくものの、

「でも、それもやり方次第だ。逆に考えてみろ、地位が保たれるんであれば、やるだろ?」

「そうだけど…」

「これは勘だけど、魔王の軍勢というか、ムスペルヘイムと和平を結ぼうって考える諸侯もいるんじゃないのか?」

「……うむ。いるだろうな」

 アルブレヒトはうなずく。

「戦争などしても我ら商売人は一文にもならん。死の商人なら別だが。

 恐らく公爵もそう考えるだろう。同業者としてはそう思う」

「だが、それは認識が甘いと言わざるを得ないな」

 エリザベスが断言した。

「魔王の軍勢は端から和平を望んでいない。ヤツらがそういう提案をしているのであれば、それは罠だ」

「同感ですね」

 オレはその後を継いだ。

「魔王が搦め手を使ってくるのは、ミッドガルドの弱体化が目的だからです。

 間違っても貿易を振興して共に発展しようなんて考えてません」

 演説をぶって見たものの、

 ぶっちゃけ、それでも良いと考える諸侯はいるだろう。

 ミッドガルドが瓦解しても、ムスペルヘイムに尻尾を振ればよいと考えるのもアリだ。

 でも、オレの立場からはその結論は出せない。

 天の御使いは、アスガルドとミッドガルドの振興を求められるのだから。

「ロンドヒル公爵が石炭の輸入と国事を両立するとしたら?」

 オレはみんなに問うてみた。

「うむ、和平路線を選ぶな」

 エリザベスは、しかめっ面。

 気に食わないのだ。

「うむ、大司教殿に事実確認すればよろしいのでは?」

 アルブレヒトは、いつの間にか、オレらに取り込まれた様子だ。

 ……こいつ敵の間者じゃないだろうな?

 ま、それはそれで貴重な人物だが。

 間者を見つけた時は、寝返らせるか、泳がしてスピーカーとして利用するのが吉だ。

 間違っても即刻始末してはいけない。

 敵を警戒させるだけで、有益な情報は一つたりとも入ってこない。

 それより、相手に情報を流し、それに反応したところを叩くのが上策だ。

 ま、その辺はおいおい分かってくるだろうし、今はいいか。

「オーケー、アルブレヒトさんの案を頂こう」

「よっしゃぁっ!」

 オレが言うと、アルブレヒトは子供のようにはしゃいだ。


 *


 オレらは一旦、エリザベス宅へ戻った。

 バークレーの帰りを待ち、大司教へ事実確認を依頼した。

「人使い荒いですね、もう…」

 バークレーは結構疲れているようだったが、

「そこを頼む、お前だけが頼りだ」

 エリザベスが懇願すると、

「はい、すぐ行きます。今、行きます」

 バークレーは惚れた弱みからか、喜んで出てった。

 エリザベスは意外に人を使うのが上手いですね。

「いや、カイ殿の真似だ」

「バークレーさん戻ってきてないといいけどね」

 オレは外を見やったが、舞い上がったバークレーはすっ飛んで行ったようだった。

 つーか、オレの真似? ええー?

「マイヤー氏がいるところでは話せなかったが、新たな石炭の産地の調査はどうする?」

 エリザベスが辺りをはばかるようにして言う。

「明日、大司教か、王の前で相談します。秘密裏にやらないとパーですからね」

 オレは即答。

 でも、本当はそれを餌に魔王の軍勢の出方を待ってるのさ。

 策略に気づいているなら、誰でもそうするからね。

 それを逆手に取って、出てきたところを挫くと。

「パーって何だ?」

 エリザベスは聞き返す。

 そこですか、あなたが気になったのは!?

「えーと、無駄になるとか、終わりだって意味ですね」

「解説ありがとう!」

 エリザベスは、段々オレらにノリが近くなってきてるね。

 慣れって恐ろしい。


 あれ、気づいたらもう一日が終わってた。


 *


 夕方。

 宿に帰ると、庭でロン毛が彫り物をしていた。

 いや、無視だろ?

「無視すんなよ! 悲しいだろ!?」

「あ、ごめん、気づかなかった」

 オレはわざとらしく言ってみた。

「イヂメるなよ~」

「いや、そういうつもりはないんだけどね」

 見ると、なかなかいい線言ってるが、作品としては平凡だなー。

「いいね、今度マイヤー商隊に見に来てもらうよ」


「先輩、今日、マイヤーさんの使いの人たちが来たッスよ」

 割雄はオレを待っていたようだ。

 う~ん、持てる男/女は辛いぜ。ただいま性転換中。

「サンプルとして樽1本持ってかれましたよ」

「ああ、打ち合わせどおりだから大丈夫」

「あ、そっすか」

「それより、教会から建築士の司祭が来るから、そん時は一緒に立ち会ってくれ」

「あ、それって新設備の設置ですね」

「そう」

 割雄とも結構ツーカーになってきたな。


「カイ君、これ見て~」

 美紀が『日中、カイ君いなくて寂しかったの~』てな感じで擦り寄ってきた。

 手作りの刺繍だった。

 月と兎の図柄だ。

 和風だなあ。

 女子みんなで作ってたんだろうな。

「おっ、いいじゃんか、マイヤー氏に見てもらうよ」

「良かった、これ苦労したんだぁ」

 美紀は喜んでいる。

 やはり可愛い。

 怒るとその筋の姉御だが、それはそれ。


「鐶も今日はご苦労様」

 オレは鐶の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。

「うん、カイ君のためならお安い御用だよ」

 鐶は、ごろにゃんとオレに擦り寄ってくる。

 やはり可愛い。

 たまに黒いが、それはそれ。


 サウナ上がりに鐶と美紀がやってきて、いちゃつく。

 その後、サウナに入ってから、

 ヒルデとどんなふうにいちゃつこうかと考えながら部屋に戻る途中、

 

 ドス。


 背後から、何かがオレの背中に突き刺さった。

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