第18話 大司教に謁見しよう!
18.大司教に謁見しよう!
すぐにエリザベスがやってきた。
「げっ!?」
エリザベスはオレを見た途端に絶句。
そりゃそうだよな。
昨日まで男だったのが、また女になってるんだもん。
「えーと、なんか、また女になりました」
「……」
エリザベスは無言だった。しかも冷めた目。
あ、呆れられてる、オレ……(苦笑)
何はともあれ出発。
馬に乗って、噂に名高い『ヴァルハラ宮殿』へ向かう。
鐶は乗馬もできる。
オレは後部座席。
……がっくし。
いや、でも。
オレは気を取り直した。
ヴァルハラっつーくらいだから、ワルキューレちゃんたちが一杯仕えてるんだろうナ。ウハウハ。
とか幻想に浸りつつ、
「大司教ってどんな人です?」
「ん? フランクな人らしいな、バークレーが言うには。先の大司教だった方は厳格な御仁だったらしいから、ほっとしたとか漏らしていたことがあった」
エリザベスは言った。
あ、エリザベスも会ったことないんだ。
じゃあ、間に入ってる人がエリザベスに任務をふったんだな。
そりゃ恨むわな。
「ねえねえ、バークレーさんとエリザベスさんって、どうなの?」
鐶が、唐突に話の流れも何もぶち破った。
「なっ…どうって、私とバークレーは何もないが…」
エリザベスは、慌ててうつむいた。
なぜに今、ラブラブ話ですか、鐶さん。
エリザベスも自分にかかわる話になると、急に恥ずかしがり屋になるようだ。
オレの時は笑ってたくせにな。
「へーそうなんだ、でもバークレーさんは絶対、エリザベスさんにホの字よねー」
「そ、そんなことはないッ!」
エリザベスは力説した。
「私とバークレーは戦友でこそあれ、そのようなふしだらな関係ではないッ」
「そうかしら?」
鐶は引き下がる様子がない。
「バークレーさんの態度、絶対、違うもん。エリザベスさんと話す時だけ」
鐶はいたずらっぽく言った。
……エリザベスはオレんだい。
オレが心の中でつぶやくと、
「あ、蚊がッ!」
ベシィッ
鐶の掌がオレの頬をしこたま叩いた。
角度ついてた、脳が揺さぶられるだろ、脳がッ!
「あ、ごめんごめん、逃げられちゃった」
舌を出す、鐶。
でもなんで!?
顔に出た?
「そ、そんなはずは…」
エリザベスは、あたふたとしている。
「ない、ない、部下が上官に懸想するなどもっての他だ」
あ、ムリヤリ自分を納得させようとしている。
いや、確かにバークレーの態度はそれっぽい。傍から見てても感じる。
なぜ今この瞬間に、鐶がそんなことを言い出したかだが、
恋敵は蹴落とせ!
多分、そんなところだろう。
芽は摘んどけ早いうちに摘んどけ!
でも可。
「おい、無駄話はそれぐらいにしろよ」
オレが威厳を持って言うと、
「はーい」
鐶は一応引き下がった。
ほーっ
エリザベスは、そっとため息をついていた。
細かいところを再確認していると、宮殿に到着。
大司教は宮殿の隣にある神殿にいるとのこと。
神殿は結構大きなものだった。
司教クラス(多分)の人たちが出入りしており、警備も物々しいくらいに配置されている。
分類的には僧兵っていうんだろうか。
槍を手にしていた。
「おーい!」
入り口でバークレーが待っていた。
「大司教様がお待ちですよ。ささ、こちらへ」
「すまぬな」
エリザベスが言うと、
「何、他人行儀なことを言ってるんですか、早く行きましょう」
バークレーは笑い飛ばした。
……あ、鐶の策略が効いている。
陰険式誘導話術。
オレは勝手に術名をつけてやった。
しかし、エリザベスって、オクテだなー。
あの程度の事で、がちがちに意識している。中学生かよ?
ともかく、神殿に入っていった。
武装の有無を確認されてから、奥の一室に通された。
鐶が身に着けていた武器をぜんぶ取り出すと、警備の僧が驚きで目ん玉ひん剥いていた。
いや、オレも驚いた。
鉄甲
角手(指輪に角が付いたもの)
手裏剣(棒型と車型の二種)
星型鉄球付きロープ
なえし(紐の付いた短い棒)
隠し針
吹き矢
鉄扇
万力鎖
……どっちゃり。
鐶のヤツ、あんなに武器、持ち歩いてたんだ…。
くわばら、くわばら。
「大司教様、フェアリーテイル家のエリザベス様と、天の御使いの領導(リーダー)であるカイ殿をお連れしました」
「おお、そうか」
しわがれた声。
大司教は落語家のような爺さんだった。
頭に髪はなく、小柄で真ん丸い顔をしている。
意外に質素な台座に座っている。
「遠慮はいらん、こっちに寄れや」
ぶっきらぼうなようで温かみのある声だ。
確かにフランクだな。
「はい」
バークレーが一礼して、
「エリザベス様、カイ殿、どうぞこちらへ」
どうやら、バークレーが進行役を務めるらしい。
「エリザベス・フォン・フェアリーテイルでございます。以後お見知りおきを」
「カイです」
「鐶です」
オレたちは簡単に挨拶。
「エリザベス様については説明は不要ですね。カイ殿は領導で、タマキ殿はカイ殿の護衛役です」
バークレーが補足を入れる。
気配りの人だな、バークレーくんは。
「うむ。エリザベス。そなたが『天の御使い』を見つけ、連れ帰ったのだったな」
「はい、その通りです」
エリザベスは答える。
恐らく、確認と責任の所在をはっきりさせるために訊いているんだろう。
「カイとやら」
おっと、今度はこっちの番だ。
「はい」
オレは、できるだけハキハキと答える。
「天の御使いが本当に見つかった今、アスガルドの首脳はそなたらを手放さんぞ」
大司教は、何だか脅すように言った。
目が笑っている。
いたずら好きな爺さんなんだろうか。
ようするに、人権がないか制限を受けるってことの確認なんだろうな。
「それはもとより覚悟の上です」
オレは力強くうなずいた。
「そうか。天の御使いの御旗の元、首脳だけでなく、あらゆる者がそなたらを利用しようとするだろう」
「それも覚悟の上です」
「うむ」
大司教はうなずいた。
「そなたの意思、しかと確認したぞ」
たったこれだけの会話で、オレらは後戻りできなくなった。
でも、こんなのは想定内だ。
「ところで、私たちは何を求められるのでしょうか?」
オレが訊ねると、
「力だな」
大司教は即答。
「我らは現状を打破し、更なる発展が約束されることを望んでおる」
「それは、魔王の軍勢を破ることを指していますか?」
「うむ、最も優先的に求められる事項になるだろう」
大司教は目を閉じる。
魔王の軍勢については、かなり苦慮している様子だ。
「それには敵と真正面から戦うのを避け、戦う前に相手の体勢を崩してしまうのが良いかと思います。
戦わずして敵を瓦解させ、有益な部品を利用吸収してしまう、それが発展の一番の近道です。
つまり敵を殺してしまわず、生かして利用する共存共栄の道を取るのです。
これは相手が魔王の軍勢でも他国でも変わりありません」
オレは大司教が述べた望みに対する『基本戦略』を述べた。
共存共栄と言っても、仲良くするのではない。
政治力と謀略をもって相手を弱体化させ、弱ったところを少しずつ叩いてぶん盗って行くのである。
「その具体的な案はあるかね?」
大司教が訊ねる。
もちろん、大司教にその辺の戦略云々が分からないはずがない。
問題は具体案なのだ。
「はい、先ずは国を富ませることです。次に他国を弱らせなくてはなりません」
オレは簡潔に述べた。
「先日、エリザベス殿にアスガルド及びミッドガルドの情勢を教わりました。
今行っている貿易を振興して外貨を稼ぎ、他国への影響力を強めてゆくことが必要です」
「なるほど、商品は選んだのか?」
「アクアヴィットです」
「北方への輸出か」
「はい。北方は小麦が取れません。
アスガルド及びミッドガルドへの依存度が高く、酒造だけでなく、恐らく農耕技術にも問題があります。
それを手助けし、また生殺与奪権を握ってしまうことで友好関係を保つことが出来ます」
「北方よりの侵攻の憂いがなくなるということだな」
「その通りです」
ほとんどツーカーの勢いで話が進んだ。
これが目的のうちの一つだ。
大司教にオレの力を認めさせるためには、是非とも大司教にオレが凄いっていう印象を持ってもらう必要がある。
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