第6話 学校での戦闘、オレ覚醒しました

6.学校での戦闘、オレ覚醒しました


 ハーピーの一隊は去ったが、危機が去ったわけではない。

 そろそろ石弓の矢が尽きるのではないだろうか。

 階下で戦いが繰り広げているため、直接は見れないものの、暗黒の尖兵たちは仲間の死体を踏みつけ、これでもかというぐらいに吶喊してくるようだった。

 あちら側もそれだけ必死だということなのだろう。

 かくいうオレらも、新たな敵の部隊が現れないか目を光らせていなくてはならない。

 不意に尖兵と兵士たちが交戦する音がなくなった。

 攻撃の手が止んだのだった。

 ……まずいな。

 オレは心中、舌打ちした。

 ガスも同じように心配そうな表情。

「止んだみたいだね」

 マサオがお気楽そうに言ったが、


 おぉぉぉぉっ


 一呼吸遅れて、再び尖兵たちの雄たけびが聞こえてきた。

「総員、魔法に切り替えろ!」

 エリザベスの怒鳴り声がした。

 剣を抜き放つ音。

 何だろう?

 窓からグランドに殺到する尖兵たちを見下ろすと、なんと尖兵たちは大きな丸い盾を装備していた。

 続々と玄関へ集まってきている。

 ちっ。

 それを構えて突撃してきたのだろう。矢が刺さっても構わずに押し切れる。

 しかも木の盾だ。

 木の盾は、一見すると金属の盾より弱そうだが、そうではない。剣を叩き込んでも逆に刃が食い込んで抜けなくなる可能性がある。

 そこを盾で体当たりするなり、剣で切れば良い。

 一回こっきりの戦いと割り切れば、これほど便利な武具はない。

 それに対し、すぐ様、魔法に切り替えるべく指示を出したエリザベスの判断は見事といえる。

 木の盾は燃えやすい。稲妻にも弱いだろう。

 兵士たちが切り結ぶ音が鳴り響く。

 一瞬、送れて、


 ドドーン。


 稲妻(多分)の駆け抜ける音。


 わあーっ


 慌てた声が響き、尖兵たちはまた崩れた。

 何とか対応したようだな。

 でも何時まで持つか。

 ふと、オレは窓の外へ視線を戻した。

 なんだか見られてるように感じたのかもしれない。

 下で尖兵が何かを両手一杯引いているのが目に入った。

 なんだと思う間もなく、


 ひゅっ


 ドス。


 オレの肩に何かが刺さった。


 ぐっ…。


 な、なんだ……ッ!?


「危ない!」

 混乱するオレを、ガスが体当たりで突き飛ばした。

 ガスとオレはもみ合うかのように倒れた。

「みんな伏せろ!」

 ガスはさらにその状態で、指示を飛ばした。

 その場にいたみんなは、慌ててしゃがみこむ。

「矢だ。弓兵がいたな」

 ガスは、有無を言わさずオレの肩に刺さった矢を握り、


 ぼきっ


 矢を途中から折った。

 それによる痛みはない。

 いや、矢が刺さった痛みは徐々にしてきてはいるんだが。

 刺さった矢を短くしないと、後々何かにぶつけたりして傷口を広げかねない。

「大丈夫だ、後でバークレーが治してくれる」

 ガスは言って、オレの上から退いた。

 しゃがみこんだまま、窓枠からそっと顔を出そうとする。


 ケェーッ


 その瞬間、奇声がとどろき、ハーピーが舞い込んできた。

「うわっ!?」

 ガスは驚いて仰向けにひっくり返った。

 そこへハーピーが襲い掛かる。

「マサオッ! 鐶ッ!」

 オレは夢中で叫んでいた。

 オレは痛みで戦うどころじゃない。 

 マサオと鐶だけが頼りだ。

「うりゃあっ」

 マサオがモップを手に突っ込んだ。


 ぶん。


 空振りだが、


 ひゅん。


 ハーピーがかわしたところを鐶の鉄球が狙い討ちする。

 それをさらにかいくぐる芸当はなかったようだ。

 撃ち落されてしまう。

「この、鳥めが!」

 ガスが起き上がり、ハーピーを踏みつける。

 そこへ、また矢が打ち込まれた。

 矢は壁に当って跳ね返り、床へ落ちる。幸いにも外れた。

「うおぅ!?」

 ガスは慌ててしゃがみこむ。

 マサオ、鐶もそれに習った。

 そこへ再びハーピーが突入してきた。今度は2匹、いや3匹増えた。後から後からどんどん突入してくる。

「うわあーっ」

 生徒たちはパニックに陥った。

「屋上へ逃げろ!」

 誰かが叫び、数人が階段を駆け上がる。

「まて、屋上は危険だ!」

 オレは叫ぼうとしたが、痛みであまり声が出ない。

 ハーピーが大挙して屋上で待ち構えてるに違いない。

 今の突入はいぶりだすためのものだ。

「ぎゃあっ」

 オレの忠告もむなしく、屋上への扉を開けた生徒は、叫びを上げ、階段を転げ落ちた。

 何人かが巻き添えになり一緒に転げ落ちた。

「うろたえるな! 今はじっとしてるんだ!」

 オレは言ってから、

「マサオ、鐶、みんなにそう伝えろ!」

 気力を振り絞って叫ぶ。

 だが、二人はそんなことは聞こえていないかのようだった。しゃがんだまま駆け寄ってくる。

「おい!」

「カイ君!」

 二人は血相を変えていた。

 オレがどうかしたのか?

 そういや、声が出ないだけじゃない。

 何だか手足が冷たくなってきているようだ。

 ……毒か。

 オレは床に落ちた矢を見る。

 鏃から液体がこぼれ落ちている。

「オレは大丈夫」

「おい、しっかりしろ!」

「カイ君、カイ君!」

 二人の叫びが聞こえた。

 その声は、どこか遠い所から聞こえるかのようだった。

 酔っ払ったかのような感覚。

 意識が、ぼんやりとしてきている。

 それを認識しているのに、どうにもできない。

 視界が真っ暗になった。


 *


「どうした?」

「その程度でくたばるとはな」

 どこからか声がする。

 ああ、これは師匠の声だ。

 いつもながら、自分でそれだけの攻撃を加えておいて、その物言いはひどい。

 師匠はサディストだ。

 だが、一流だ。

 厳しい訓練を施さなければ、一流の弟子を育てられない。

 それに耐えられない、こちらが未熟なのだ。

 理屈は分かる。

 だが、このしごきは相当きつい。

 地面に這いつくばっているのすらつらい。

「死んでないなら、さっさと起きて戦え! 死ぬのを待つな! 楽しようとするな! 最後の一瞬まで相手に食らい付け!」

 ひどい。

 だが、直感的に理解できた。

 立たねば、師匠に容赦のない追い討ちを食らう。

 私は立ち上がろうとした。

「遅い!」

 その手足へ衝撃。

 私は再び地面へ突っ伏した。

 地面とキス。

 別にしたくない。そんなもの。

 怒りがこみ上げてきた。

 怒り。

 すべてに対する怒り。

 未熟な自分に。

 サディストな師匠に。

 自分を捨てた親兄弟に。

 ずるい兄弟弟子達に。

 先に死んだ友人達に。

 そして、憎き仇敵に。

 怒り。

 それだけが、私の原動力。

 それだけが、私の存在理由。

 それが、私の存在意義。

 すべてのものに怒れ、すべての不正を怒れ、そして正せ。


 くたばれ!!!


 私は立ち上がった。


 *


 オレは一瞬のうちに起き上がっていた。

 いや。

 起き上がったというよりは、浮き上がった?

 体が宙に浮いている。

 浮いてる?

 ……どんなスゴイ技だよ?!?

 自分で自分に突っ込み。

 怒りで脳内麻薬でも出ているのか、痛みを感じない。


 ケェーッ


 ハーピーたちが襲ってきた。

 オレは指をかざす。

 体が勝手に動いていた。

 否。

 体が覚えていた。

『突風よ』

 オレが言うと、廊下に風が巻き起こった。

 ハーピーたちは吹き飛ばされて壁にぶつかったり、窓から放り出される。

 ずげえ。

 オレは何者?

 みんなは、ぽかんと口を空けて、オレを見ていた。

「何、見てんだ!」

 オレは叱咤した。

 ハーピーたちは、全部吹き飛んだわけじゃない。

「早く、このバケモノ鳥どもをやっつけろ!」

 オレが言うと、みんな弾かれたように動き出した。

 さて。

 オレは三階の窓から外を見下ろした。


 しゅっ


 矢が射掛けられたが、

「ふっ」

 オレが息を吹きかけるマネをすると、


 ふわり。


 矢が勢いを失って宙に浮いた。


 てぇーっ!


 弓兵がどんどん矢を射掛けてくるが、無駄だ。

 同じように、矢は勢いを失って宙に浮く。

 弾丸をプレゼントしたようなものだ。

「それっ」

 オレは矢を風に乗せて送り返す。


 ドス

 ドス


 何匹かの弓兵が斃れた。

「面倒だな」

 オレは割れた窓から外へ出た。

 グランドの上空へ飛び、

『炎よ』

 心の中の怒りを叩きつけるように叫ぶ。

『敵を焼き尽くせ!』

 両腕からまぶしいくらいの光が現れ、瞬く間にグランドへ叩き込まれた。


 どごおおぉん!


 ごおぉっ


 ぎゃあああああっ


 尖兵たちは火あぶりの刑に処されたかのように焼かれた。

 火は消えない。

 オレの怒りが消えない限り。

 ……なんつって。

 バーベキューの出来上がり。

 暗黒の尖兵の黒焼き。野焼き風。

 それで、敵はほぼ全滅。

 壊走した。

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