第35話

35


メルクの蒸気船は、メルクからエルムトの間を定期運行することになった。

「アナスタシア号にしよう」

ヴァルトルーデたちが面白半分に言ったところ、

「やめて、恥ずかしいから!」

アナスタシアが顔を真っ赤にして反対したので、「ワグナー号」になった。

「普通すぎてつまらん」

ヴァルトルーデは不満そうだったが、

「いいじゃん、開発者の名前がつくのが普通だよ」

静が言ったので、そこで落ち着いた。


船乗りと工房の職人に蒸気船の仕組みを教え込み、メンテナンス・修理に習熟させたので、ヴァルトルーデたちが乗り込む必要はない。

動けば動くほど石炭と水を消費するので、ひっきりなしに物資を運ばないといけない。

売り買いをするための荷物、輸送する荷物。

貨物は、大きく分けるとこの二つである。

商人などから欲しい物を依頼されて購入し、運んでくるヤツと、

売り買いが行われ、荷物の運送だけを依頼されるヤツだ。


前者は船自身が商人と言える。

運搬も自分で行う。

自分達の才覚によるものが大きく、責任は船が持つ。


後者は運送だけを行う。

これには船荷証を発行する。

船荷証を発行するのは、賊が受取人に成りすますのを防止するためである。

売り手、買い手、船の3者で共有し、受取人がこれを持っていない場合は荷を引き渡さない。


船荷保険については、必ず荷主に保険をかけてもらうようにした。

保険をかけない場合は荷を受けない。

船が沈没して荷を失った場合は、損害額が支払われる仕組みだ。


もっと細かくすると、船に荷を載せた所で売り手の責任が完了し、それ以後は買い手の責任になるとか、船が目的地に着いた時点で売り手の責任が完了するとか色々な取り決めがあるのだが、面倒なので単純化することにした。


①売り手の責任は船に載せるまで。

②買い手の責任は船が目的地に着いてから発生。

③運送中は船の責任。

④運送に際しては必ず保険を掛ける。

⑤保険を掛けたら①②③に該当する限り、どの場所にあっても損害額を払う。


「まずは基本形を作って、後は個別に調整すればいい」

パトラは、船荷運搬に関するルールを取り決めた。

外の世界における実際の海上輸送のルールを参考にしているようだ。


船の責任が少ないのは後者である。

昔は船会社が交易をしていたようだが、現代では船会社は運搬だけに徹している。


「いずれ、この世界でも船は運搬だけをするようになるだろうな…」

パトラはつぶやいた。


「なかなか良い手際ですね」

アナスタシアが感心していた。

「我々の船荷制度でも似たようなところまでは来ているのですが、これほどスッキリした形にまとまってるどうか…」

この手の外の世界の知識はアナスタシアにはない。

現在ある制度にプラスして何十年と船を運用してゆかないと到達しない完成形とも言える。

手漕ぎ船から帆船、帆船から蒸気船、蒸気船からディーゼル船などの内燃機関まで、人類の海上輸送の歴史は長い。

その過程で形成されたものだ。


「いえ、これを考えたのは私じゃなくて先人達ですよ」

パトラはちょっと照れた。

「ふふ、ご謙遜を」

アナスタシアは笑みを漏らしている。

「メルクの名物が一つ増えました」

「フロストランドでも蒸気船を作ってるようだから、相互に行き来すれば効率が良くなるな」

ヴァルトルーデが言った。

「定期航路ですね」

アナスタシアはうなずいた。


海上輸送は軍事的にもメリットが大きい。

海岸線上なら、どこへでも物資を届けられる。

現在、メルクがどこかと戦争をするなどというのはまずないので、想定の話になるが…。


また鉄道と組み合わせれば、港から港へ運び、港から鉄道で内陸へ運ぶというのが可能になる。

物流網だ。

物流網ができあがれば、ニーズに合わせて効率化された管理を行うようになる。

ロジスティクスだ。


アナスタシアの頭の中にはここまで高度化された考え方はない。

兵站の設置、補給が楽になるくらいの考えだ。


「蒸気船の武装は可能なの?」

アナスタシアは色々と考えた後、ヴァルトルーデに聞いた。

「大砲があるけど、これは火薬がないとダメだな」

ヴァルトルーデは答えた。

「確か、硝石と木炭を混ぜたものでしたっけ?」

「硝石、硫黄、木炭だな」

ヴァルトルーデは答えた。

「…まさか火薬を作る気か?」

「いえ、そんな大量の硝石や硫黄を入手する気はありませんよ」

アナスタシアは頭を振った。

「産地から購入するのは可能だけど、それを何に使うのか必ず疑問を持たれるわね。

 火薬として使うのがバレれば、各国が奪い合いを始めることになるわ。

 資源争奪の引き金を引いてしまうのが分りきってるのよ」

「前に言ってたヤツか」

ヴァルトルーデはフロストランドでの話を思い出した。

「だが、自力で発明するかもしれない」

「それは自然の成り行きだから仕方ないわね。そしたら私たちも乗るしかないわ」

「じゃあ、バネ銃か」

「バネ銃ですって?」

「大きく作れば銛を射出できるだろ」

ヴァルトルーデは言った。



「帝国には独立した大きい商会がいくつかあって、それらの商会が市場を支配しています」

「メルクやこの辺の都市のように、貴族や有力氏族がお抱えの商人をもつというのは少ないですね」

「大きな商会が何らかの目的のために物資の販売を操作しているのでしょう」

「こうした商会が何かと結託しているのではないでしょうか」

ニルスは手紙を送り続けた。

調査は進んでいて、帝国本体ではなく、帝国領内の商人が何かをしているということが分ってきた。

彼らが何を目的として、何とつながっているのかまでは分らない。

「カモンナップ、ニルス!」

ニルスは自分で自分を励ました。


南方のムスペルランドは、フロストランドとは異なるタイプのアールヴたちが住む地域だ。

ムスペルは「炎」を意味する古語であり、暑い地域なせいか火属性のアールヴがいる。

他の属性の種族も住んでいるが、それほど多くはない。

火属性の種族は、ウィスプ、クハシャ、そしてムスペルだ。

ムスペルはドヴェルグと同系統の種族で、ずんぐりした体型、黒い肌をしている。

やはり鉱石を採掘したり、鍛冶をしたり、工芸品を作ったり、酒を飲んで騒いだりという性格をしている。

違う点は商売に汚い、金に汚いという点だ。

人間と同様に、約束を反故にしたり、自分勝手なルールで相手を騙したりということを平気でやる。


石炭や瀝青の件は、こうした性格とマッチしているような気がする。

ニルスは直感していた。

フロストランドのドヴェルグ、ヨツン、ヴァン、アスは、おおらか過ぎてそういう発想が最初からない。

他の地域の者と比べたら、純朴で素直な連中なのだ。


(ムスペルランドの者が、帝国領の商会と結託してメルクを陥れようとしているのではないか?)

ニルスはそう思い始めた。

(そして、その動きは、我らダン族を邪魔にしている中央の貴族連中には都合が良い)

(グリフィス家が商売にかこつけて、メルクの経済を圧迫しようとしていると考えるべきか)

(この動きはグリフィス家だけでなく、他家も関与しているのでは…)

(メルクの力を削ぐのが目的、ムスペルと帝国商人と中央の貴族がつながっている)

(これは思っていたより大事のようだ)

ニルスはそこまで思いついた。

しかし、証拠がない。

しかも下手に騒げば難癖を付けられて粛正される可能性がある。


王国が帝国を追い出して、シルリング王国が平和になってからというもの、各家の財政は悪くなることはないが、ずっと平行線だ。

戦で戦利品を奪ったり、土地を報償として賜ったりということがなくなった。

多分、徐々に支出が増えていっており、ジリ貧になってきているのではないだろうか。


それを打開するのに躍起になっている?

メルクがその標的となったのでは?


経済が主軸になってはいるが、これでは戦争である。

昔日の戦とは形態が異なるだけだ。


ニルスは馬車のワゴンに乗って帰宅するところだった。

(早くこの考えをアナスタシア様へ伝えなければ)

(メルクは既に後手に回っている、一刻も早く……)


ヒヒーン!


馬車を引いていた馬がいなないた。

かと思うと、ワゴンが急停止した。

急に勢いが止められず、横へスリップする。

横転はしなかった。


「うわ、なんだ!?」

御者が叫ぶ。


ダダダダッ

足音が聞こえて、


「天誅!」


ドスッ


ドアを貫通する音。

長剣だ。

その切っ先は、ドアのすぐ側に座っていたニルスの腹部に吸い込まれている。


「うぐっ…」

ニルスはうめいた。

刃が内蔵に達している。

遅れて血が吹き出す。


(アナスタシア様、我らの領地にも鉄道を作りたいですな…)


ニルスの脳裏に浮かんだのは、その言葉だった。




「ヤコブセン卿が何者かに襲われました」

伝令が届いた。


「えっ…!?」

それを聞いた瞬間、アナスタシアが動きを止めた。

指からカップが落ちる。


パリン。


お茶が地面に広がった。


アナスタシアの表情が真っ青になっている。


「…そ、それで?」

固まっているアナスタシアの代わりに、ヴァルトルーデが聞いた。

「いえ、容態についてはまだ知らせはありませぬ」

伝令は答えた。

「まだ分らない、ってことは望みはある」

巴が励ますように言った。

「そ、そうですね、取り乱してすいません」

アナスタシアは少し落ち着きを取り戻したようだ。

しかしながら、指がカタカタと震えている。


一刻ほど経って、再び伝令が届いた。

「ヤコブセン卿、治療の甲斐なくお亡くなりになられたそうにござる」

それを聞いた途端、


「……ッ」


バタン


アナスタシアが床に倒れた。

気を失ったようだった。



ずっとダン族の者を見てきた。

気が遠くなるほどの時間を過ごしてきたアナスタシアは、何世代も経てゆく間、ダン族の者が生まれて死ぬまでを見てきた。

戦で死ぬ者、

事故で死ぬ者、

病気で死ぬ者、

どの場合でもアナスタシアは悲しみに暮れた。

子供の頃から見てきた者たちが、みな自分を置いて逝ってしまう。


(私はいつも一人置いて行かれる)

(ニルスも逝ってしまった)


憤怒。

慟哭。

悲哀。

激して噴出する負の感情は、やり場のない怒りと悲しみとなる。

やり場のない感情がアナスタシアの身を焦がした。

それが心の中に蓄積してゆく。


アナスタシアは死なない。

神の末裔として生まれたこの身が、これほどまでに疎ましいと思ったことはなかった。

どうしようもない。

怒りと悲しみが自身へ向かっても意味を成さない。

行き場を失った思いが復讐心へと変わる。


アナスタシアは、これまでずっと自制心を発揮してきた。

理知的、合理的であろうとする性格のせいだ。

ニルスの死にも、それは発揮され続けた。



「ご心配をおかけしました」

アナスタシアは皆に頭を下げた。

「ヤコブセン卿を失ったら、そうなって当たり前だよ」

ヴァルトルーデが慰めの言葉をかける。

(まるで子供のようにかわいがっていたからな…)


「ご心中お察しします」

巴が代表して言った。

「どうか元気を出してください」

静も心配そうにしている。

「ありがとう、私は大丈夫です」

アナスタシアはムリに笑顔を作って見せる。


(大丈夫じゃないヤツほど、大丈夫っていうんだ)

ヴァルトルーデは内心、歯がみしていた。



「つまり、ヤコブセン卿は探り過ぎたということか」

ジャンヌが言った。

別室でフロストランド勢だけで話している。

もちろんヴァルトルーデも入っている。

「まさか直接襲撃してくるとは思っていなかったのだろうな」

巴がうなずく。

「そんなヤツらを相手にするなんて…」

ヴァルトルーデはため息をつく。

「というか、君らは怖くはないのか?」

これまで思っていた疑問を吐き出す。

この娘たちは武術を身につけ、武器を携え、フロストランドのために戦闘をこなす。

多少国による違いはあるものの、自分と同じ現代の世に生まれた者のはずなのに。

そんな思いがある。


「……怖い」

静はためらいがちに答えた。

「けど、ここで踏ん張らなければ状況は悪くなる」

「そうだな、私も怖い」

巴が追随した。

「できれば戦いなどしない方がいい。でも、相手が仕掛けてくる場合は迎え討たなければ、こちらが死ぬ」

「同感だ」

ジャンヌがさも当然というふうに答える。

「いや、私は帰りたいけど」

ヤンが空気を読まず、言った。

「戦いなんてお腹減るだけだよ~、怖いし、痛いのやだよー」

「だから、そこで逃げてると後でもっと怖くて痛い思いをするんだってば」

ジャンヌが諭すように言った。

「そうそう、逃げた分だけ相手がそこへ入ってくるんだからな」

巴が脅すように言う。

「んぎぃーっ、それもヤダー!」

ヤンは目を白黒させていた。

「それに、私、フロストランドが好きだからね」

静は続けて言った。

「メルクもそうだけど、皆が悲惨な思いをするなんて耐えられない」

「うん、静も成長したな」

巴は、うんうんとうなずいている。

「だから、私たちは戦う、大切なものを守るためにな」

ジャンヌが締めた。

「……分った、それなら私も技術者として皆を守るために道具を作ろう」

ヴァルトルーデは微笑んだ。


「しかし、アナは精神的に不安定になりそうだ」

ヴァルトルーデは懸念事項を述べた。

「ヤコブセン卿のことを子供も同然にかわいがっていたからな」

「うーん、そうだよねぇ」

静がうなずいている。

「弔い合戦とかできればいいんだけど……」

「サイダー」

ヤンが唐突に言った。

「サイダーを作ろう」

「え? なんでそこでサイダー?」

「気が滅入ったら、おいしい物って昔から相場が決まってるよ」

ヤンは力説した。

「さすが中国人、食べ物にはうるさいな」

「フランス人ほどじゃないけどね」

ジャンヌがニヤニヤしていると、ヤンが不満そうに言った。



アナスタシアが既に重炭酸ソーダ石の手配をしていた。

重曹鉱石、トロナ石というらしい。

かんすいとしても使われる。

というか、本来の目的はこっちだ。

帝国の一部領域の草原地帯、乾燥地帯で採取されるらしい。


これを水に溶かして、かんすい溶液にする。

かんすい溶液を自然沈殿させ、濾過精製する。

精製したものを二酸化炭素ガスを通じて炭素化させ、重曹が生成されたら濃縮してゆく。

濃縮により重曹結晶ができるので、遠心分離して重曹を取る。

それを熱風乾燥してできる。


「七面倒くさい」

「しかたないだろ、化学の領域なんだから」

「化学ってめんどくさいよね」

静とヴァルトルーデが言ってると、ヤンが横から口を挟んだ。

「でも、これがあれば本物の麺が作れるよ」

「中華麺か、いいな」

巴も麺は好きなようだ。

「この辺の人達はみな肉を食べるから、スープ作りは容易だしね」

ジャンヌが言うと、

「混ぜソバの方がうまいんだけどね」

ヤンは仏頂面だ。

「てかピーナッツペーストが欲しい」

ヤンは麺に調味料としてピーナッツペーストを絡めるのが好きだった。

中国でも他の地域には見られない味付けだ。

「え? そんなの入れるの?」

皆、ドン引きである。

「旨いんだよー」

「いや、ピーナッツないぞ」

ヤンが力説しようとすると、ヴァルトルーデが言った。

水を浴びせかけるような声色だ。

「じゃがいも、トウモロコシ、ピーナッツなんかは皆、南米産だ」

「ん? じゃあ、そういうのが伝わってくる前は何を食べてたの? 中世ヨーロッパとか」

静が疑問を投げかける。

素朴な疑問というヤツだ。

「……小麦、大麦、ライ麦、燕麦、蕎麦、乳製品、肉などですね」

フローラが答える。

やや間があったところを見ると、あまり聞いて欲しくないのだろう。

「庶民は肉やパンを食べる機会は少なく、穀物を粥にして食べるのが一般的でした。

 小麦を食べれたら良い方で、ほとんどは大麦、ライ麦、燕麦、蕎麦などの雑穀しか食べれない場合が多かったんです。

 ちなみに野菜は裕福な身分では食べられず、農村などで食べられていたようです。

 果物もあまり食べられず、干して冬の非常食にされたり、肉と一緒に煮たりしてたとか」

「え、あ、そう…」

静が若干引きながら言うと、

「それにナイフとフォークもなかった」

ヴァルトルーデが割り込んでくる。

「各自携帯しているナイフで肉を切り分けて手づかみで食べていた。

 日本人が好きなナーロッパとは違うんだ。

 つまり我々の世界の中世ヨーロッパより、この世界の方が生活水準や文化レベルは高いかもしれない」

「えー、そうなんだー」

静は困惑しつつ、苦笑い。

「おいおい、あまりシズカを苛めるな」

ジャンヌが笑いながら言う。

「ヨーロッパにはそういう歴史的事実はあったが、今は文化水準も上がっている。

 フランスでは小麦があまり取れなかったので、蕎麦をよく食べるんだ」

「へー、日本と同じだね」

「食べ方は違うけどな」

ヴァルトルーデが言った。

「フランスじゃブルターニュ風ガレットという蕎麦粉で作るガレットがあるしな」

「ガレット?」

「クレープのもとになった料理だな」

ジャンヌが説明する。

「チーズや肉を載せたりするんだ、旨いぞ」


「蕎麦なんて、貧民が食べるもんだべ」

「あんなボソボソしたもん、食うヤツの気がしれんだなぁ」

ヘルッコとイルッポが言った。

「……」

ジャンヌが無言で腰の剣に手を掛ける。

「あ、いや、あれでなかなか旨いんだナ!」

「安くて良いんだよネ!」

ヘルッコとイルッポは慌てて言い直す。

掌を返すのにまったく抵抗がないようだ。

「フン、蕎麦が痩せた土地の作物なのは確かだ」

ジャンヌは舌打ちして、そっぽを向く。

「痩せた土地で育つ作物と言えば、蕎麦、空豆、燕麦の三つですね」

フローラが言った。

「蕎麦は十字軍より伝えられたと言われます。

 ヨーロッパ全体で、全粒または挽き割りで粥にして食べられてきました。

 ロシアにはカーシャという蕎麦で作った粥があります。

 ウクライナやポーランドでも食べられてるようですね。

 フランスのブルターニュ地方ではジャンヌさんが言ったように蕎麦粉を使ったガレットを食べます。

 イギリスのチロル地方では団子にして食べます。

 イタリアにはポレンタという蕎麦粥があるそうです」

「イギリスのは、そばがきだな」

巴が言った。

「日本にもある」

「この辺でも手に入るんなら、蕎麦料理を作ってみるといいかもね」

静は期待の籠もった目で、フローラを見た。

「ハイハイ、手伝いますよ」

フローラはため息を一つ。

しかし顔は笑っている。

「帰ったら、マグダレナに聞いてみよっか」

「だな」



「……蕎麦の話をしているわねッ!?」

マグダレナの眼鏡がキラリと光った。

「いや、誰もそんな話はしとらん」

スネグーラチカがジト目で言った。

「まあ、蕎麦は一応フロストランドにもあるが、貧乏人が食べる物と思われとるからな」

「……なんて勿体ない!」

「この辺じゃ、穀物では小麦が一番地位が高いからのう」

「まー、そうだよね」

クレアが同意する。

「まあ、ステイツじゃ健康ブームで蕎麦を食べる人が増えたけどね」

「小麦は旨いけど、栄養面じゃ雑穀の方が上だからね」

アレクサンドラが話に混ざってくる。

「ロシアにはカーシャっていう蕎麦のお粥があるよ」

「日本の蕎麦、旨いよな」

クレアが言ったが、

「あー、でもアレって作るの難しいんだっけか」

聞きかじりの知識を披露する。

「日本の蕎麦と言えばアニメでよく出てきますよね」

マグダレナは記憶を呼び起こしているようだ。

「作るのが難しいと言われると、余計に食べたくなってきますわね」

「うどんは作ったんだし、蕎麦も作ればいいよ」

アレクサンドラがお気楽に言った。

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