第34話

34


ヘルッコとイルッポがメルクへ到着した。

遅れて来たのはどうしても外せない仕事があったからだった。

二人が経営する工場は順調に利益を出し続けているので、さらに事業拡大を考えている。

新たな事業として、蒸留酒を造ろうとしていた。

蒸留設備はボイラー技術を流用し、小麦、大麦、ライ麦を原料としている。

フロストランドでは芋を蒸留しているが、ビフレスト近辺では麦を蒸留したものが好まれるようだ。

その立ち上げに関して経営者・投資者の二人がいる必要があり、マネージャーのエーリクがメルクへ行かせなかったのである。


「いやー、まいっただよ」

「エーリク氏、強引すぐるだよ」

ヘルッコとイルッポは、やれやれといった感じで、ビールを飲んで寛いでいる。

「もう酒飲んでるのか」

巴が渋い顔をしている。

「トモエ殿は固いだなー」

「んだ、ビールなんぞ子供でも飲むだよ」

ヘルッコとイルッポは、ワハハと笑い飛ばした。

「そうかもしれんが、我々は子爵の屋敷にお世話になっているんだ、遠慮というものを知るべきだ」

巴は滔々と説教じみた事を言っている。

「はあ、トモエ殿がそういうなら…」

「分っただよ、屋敷の外で飲むだよ…」

「分ればよろしい」

トモエはうなずいた。

満足げであるが、

(……トモエ殿の顔、怖えぇ)

(……マジで、食い殺されるだよ)

ヘルッコとイルッポは、巴の形相に恐れおののいていたりする。


「蒸留酒ならフロストランドの芋アクアビットがあるのに」

「ビフレスト辺りじゃ、麦が好まれるだよ」

静がフロストランド製品を勧めるが、ヘルッコは頭を振った。

「んだ、芋はクセがあるだよ」

イルッポもうなずく。

「そんなもんかな?」

静は酒を飲まないので、その違いが分らなかった。

「酒はビール」

「ワインだ」

「ウイスキーですよ」

ヴァルトルーデ、ジャンヌ、フローラが主張する。

「おまえら、未成年だろ」

巴がジト目で言う。

かなり堅い性格らしい。

「酒を飲める年齢には達してますよ」

「今時、飲酒年齢とか古いなぁ」

「ビールとソーセージ」

三人は思い思いに返した。

「ソーセージは食べたいねぇ」

静はよだれがこぼれそうになっている。

「そんなことより、蒸気船を造るのに必要な資金を集めたい」

ヴァルトルーデは、はたと我に返った。

文化の話をすると急にドイツ押しになるのだった。

「オレら何をすればいいんだべ?」

「メルクの商人とパイプがあるだろ?」

「あー、商会から金を出させればいいんだべか」

「うん、そう」

ヴァルトルーデはうなずいた。

「んでも、そう簡単には金出さねーだよ」

「んだ、商人は財布の紐が固すぎるだよ」

ヘルッコとイルッポは、実体験があるのか、渋い顔。

「それでしたら、蒸気船でエルムト、ギョッル、それからフロストランド北部の港を回るルート開発をするという名目を使ってください」

フローラが割り込んでくる。

「これまでは、フロストランド北部には行くメリットがありませんでしたし、凍り付いた海を航海するのが困難でしたが、蒸気船のパワーをもってすればそれが可能になります」

「ふーん、なるほどなぁ」

ヘルッコが頭の中で算盤を弾いている。

「現在、フロストランド北部では海鮮物の缶詰めを生産しています。その他にも内陸の物資を鉄道で運べます」

フローラは説明した。

「フロストランド北部の港から、ビフレストを経由せずに直接海路で運べるのが利点ですね」

「フロストランドからビフレストの陸路が萎むだなぁ、それ」

イルッポが心配そうな顔をしている。

「エルムトからビフレストのルートがあるじゃありませんか。そもそも陸路を通るのは無駄が大きいのです」

フローラは口八丁、この辺から怪しくなるのだが、それを感じさせない。

「陸路と海路の運搬日数、人件費、経費、野盗に遭遇する危険性などなど。

 それらを比較するとわずかに海路の方が安く済みます」

「うーん、沈没する危険性はあるべ」

「それは船荷保険をかけることで回避できますよ。損害分が戻ってくれば問題ありません」

イルッポが言ったが、フローラは涼しい顔で言い抜ける。

決めつけであるが、堂々と言われると「そうかな?」と思ってしまう瞬間がある。


「……それに船便が定着してからでは乗り遅れる可能性があります。

 乗り遅れたら、それだけ稼げたはずの利益を失ってしまうことになります」

フローラは、イェンセン商会の商人に説明した。

ヘルッコ、イルッポにした話をそのまま繰り返しているのだが、イェンセン商会の商人は衝撃を受けたようであった。

「うーむ、ですが、私では判断がつきかねますので、しばらくお待ち頂きたいのですが…」

「では他の商会へこの話をしてもよろしいですか?」

フローラが言うと、

「はあ、それは、仕方ありませんね…」

商人は冷や汗をかきながら答えた。

そして、一呼吸置いてから、

「とにかく、商会へ話してみますので」

商人はこの話を持ち帰ることにした。


ヘルッコとイルッポは前回メルクを訪れた時に築いたパイプを用いて、イェンセン商会にこの話を持ち込んだ。

ボイラーやその他の技術的なものには興味はなくても、新たな船を用いて開発される海路には興味を持ったようだった。

ヴァルトルーデの伝手で、船大工の工房にある蒸気船を見てもらったり、ピーターの工房で作り始めたボイラーを見てもらったり、蒸気車を見てもらったり、とデモンストレーションも忘れない。

また、アナスタシアに話をして、メルクの中枢から後押しをしてもらう徹底ぶりだ。

これを主立った商会すべてに行った。


その甲斐あって資金が集まってきた。

商会だけでなく、上の貴族たちからも資金が提供された。

貴族たちからすれば投資だ。

落ち込んだ瀝青の利益を補うための悪あがきと言ってもいいだろう。


ヴァルトルーデはこの話とは別に蒸気船の製造を続けており、どんどん改良を行っている。

小型船から中型船までは問題なく動かせるようになっていた。

問題は大型船だ。

一から造らないといけない上にパワーないと船が動かない。

ボイラーを強化すれば重くなり、ますますパワーが必要になる。

重量と力のジレンマだ。

「ここは蒸気と電気、二つの動力を併用しよう」

ヴァルトルーデは、動力を二つにすることに決めた。

アレクサンドラ式の蒸気車では電力は補助だが、それを一歩推し進めて電動のウェイトを増やすつもりだ。


蒸気釜を増やした。

蒸気釜の60%を基幹動力とし、メイン外輪を動かす。

残り40%の蒸気釜は発電をする。

電動で補助外輪二つを動かす。

メイン外輪は船尾、補助外輪は両側面へ設置した。

そして、緊急時には電力を基幹部分へ回して動かせるようにする。

パワーは落ちるが、基幹部分が壊れても動くようにとの考えだ。

このお陰で居住スペースがグッと狭まった。

また燃料はすべて石炭なので、石炭がなくなれば動力に関わりなく動かなくなる。


「ホントは蒸気と電気のパワーを連動させたいんだけどね」

ヴァルトルーデは休憩している。

甘いパンと果実ジュースで、くつろいでいる。

「それをすると、修理が困難になるんだよなぁ」

「ああ、ヴァルトルーデ以外は誰も理解できないからねぇ」

静も果実ジュースを飲みながら相づちを打っている。

「そうなんだ、船を維持するには仕組みがハッキリしてないとダメなんだよな」

「高さがないよね、あの船」

「わざわざ不安定な形にする必要はないよ」

ヴァルトルーデは肩をすくめる。

「重心が低い方が転覆しにくいだろ」

「わかるー」

「棒読みだぞ、おまえ…」


そんな事をしている内に、大型船が完成した。

荷物を置くスペースを優先したので、居住スペースが更に狭くなった。

船室と客室が二つである。

後はすべて蒸気機関、電動機関のスペースだ。

「じゃあ試運転といこう」

海に投入。

メルクの港周辺を回遊してみる。


帆に風を受けて帆船が疾走している。

メルクからエルムトの辺りでは、大型の手漕ぎ船はまずお目にかかれない。

帆船や小型の手漕ぎ船が多い。

商船であれば帆船がほとんどだ。

速さが人力船とは比べものにならないので、商船のメインストリームとなっている。

ルーカスは商船の船長だ。

彼の帆船は速さが自慢である。

いつものように他の船を追い抜いてゆき、満足気にしていた。


ポーッ


大きな音が鳴り響き、

「うわっ!?」

ルーカスは思わず首をすくめた。

見れば、他の船員たちも同じようにしている。

汽笛だ。


ガッシュ、ガッシュ


一定のリズムを刻む音が響いてきて、奇妙な船が見えた。

煙突がついている不気味な形をしていて、船の外側に輪っかのようなものがついている。

それが回転していた。

もうもうと煙を吐いているので、この世の物とは思えない気持ち悪さだ。

ソイツは後方から現れて、すぐに帆船を追い抜いていった。


「……なんだい、ありゃあ」

ルーカスはつぶやいた。



動きは上々。

大きな船だけあって旋回は鈍いが、帆船を遥かに上回る速さである。

試運転は上手くいった。


それから近場の港町へ行ったり来たりして、損耗状態などを見る。

大きな問題はないようだった。


「そろそろ、メルクの物資をエルムトまで運ぼう」

ヴァルトルーデは次の目標を大きく掲げた。

「大丈夫かな?」

静は躊躇しているが、

「長旅をしてみないと欠点や問題点が浮かんでこない、躊躇している場合じゃないよ」

ヴァルトルーデは力説して譲らない。

船の乗組員は船大工の面々、技師としてヴァルトルーデ、護衛に静、ニョルズ、魔法要員としてレッド・ニーが乗ることになった。

船大工の面々は船乗りでもあるので、操船技術をもっている。


エルムトまでの帰りのルートを辿って行く。

行く先々で驚かれたが、それほど悪い印象は受けない。

蒸気車の噂が結構流れていて、そういうものもあるんだな、と住民たちが思っているのもあった。

電線が切れたり、シリンダーを動かしている部品が外れたり、というトラブルはあったが、概ね修理不能な事態にはなっていない。


エルムトまで無事にたどり着いた。


物資を売り買いして、エルムトの物資を購入する。

メルクの各商会が欲しい物をリスト化しているので、それに従って購入する。

もちろん、予算と相談して値切るのも忘れない。

この辺はレッド・ニーの担当であった。


行き帰りで1週間。

通常の半分まで短縮できた。

動力船というのはこれほどまでに強い。

人力でも頑張ればできないことはないだろうが、漕ぎ手が疲弊し、悪くすると死ぬ。


「ドヴェルグやアールヴたちは自分達のテリトリーで漁をするだけだから、大きな船が入れるような船着き場はないかも」

最初に気付いたのはレッド・ニーだった。

「そうか、その可能性があるのか…」

ヴァルトルーデは唸った。

ルートがないということは、普段、船が来ないということだ。

「ボートを積載するか」

最悪、蒸気船を沖に停泊させ、ボートを漕いで陸へ乗り付けることになる訳だ。

「スネグーラチカに言って、北の漁村に港を作らせるか」

「それには時間がかかるだろう」

巴が言うと、ヴァルトルーデは頭を振る。

「まるで黒船だな」

巴はため息。

「なんだ、黒船って?」

ヴァルトルーデが聞き返す。

「日本史の話だ。昔、日本が開国を迫られた時に蒸気船が来た、見た目黒かったから黒船だ」

「ふーん、港を作ったってことか」

「他にも色々起きたが、簡単に言うとそうだ」

巴は色々と端折った。

話すと長くなるし、よく覚えていないのもある。


エルムトまでのルートなら途中の港で食糧や生活用品を購入できるが、フロストランドへ入るとそれが出来ない可能性が高い。

なので、食糧や生活用品をエルムトで買い込んで持って行くことになる。

運べる物資が少なくなりそうだった。

「これはマズいな、港の設置は急務だな」

商人ではないヴァルトルーデでも、この問題には気付いた。

「ブラウン・ニーから伝言が届いたよ」

ちょうどその時、レッド・ニーがやってきた。

「アレクサンドラさんが蒸気船作ってるって」

「へ?」

ヴァルトルーデは驚いた。

「それから、港も開設中だって」

「フラー! さすがアレクサンドラ! よくやった!」

ヴァルトルーデは喜んだ。

その喜びようが凄かったので、

「驚いたり、喜んだり、忙しいねぇ」

レッド・ニーはドン引きしている。



「ヴァルトルーデ殿から返事きましたぞ」

ブラウン・ニーがアレクサンドラの所へやってきた。

「お、どりどり?」

アレクサンドラはスカジたちと一緒に船造りの最中で、全身煤にまみれている。

「大型蒸気船を作った。

 メルクからエルムトまでは行き来できている。

 そちらの港を早急に開設されたし」

「おおー! プリクラースナですよこいつはァ!」

「はいはい、グレート、グレート」

クレアがツッコミを入れる。


マグダレナ、クレア、アレクサンドラ、ヤスミンは北の集落を訪れていた。

スカジ率いるドヴェルグの職人たちも一緒に来ている。

先にパック集落へ行って、ブラウン・ニーに同行してもらっている。

パックは悔しがっていたが、講義があるので来ていない。

北の集落もボイラーや鉄道が入ってきて、大分生活水準が上がっていた。

トイレや風呂などの衛生面、郵便制度、蒸気車がどんどん普及してきて、一種の過渡期とも言える。

本来は、のんびりとした田舎だったのだろうが、活気とともにボイラーの煙が立ち上る忙しい集落になっている。

水産業が発展していて、既に缶詰工場が建っていた。

アールヴは思い立ったらすぐ行動する性格の者が多い。

その分、飽きも早いが。


工場が建ち、雇用が増える。

給料をもらって手持ちの金が増えた。

アールヴは手にした給料をすぐ消費する。

物が飛ぶように売れるようになった。

つまり経済の回るスピードが早い。

雪姫の町から運ばれてくる物資が増えた。


それに伴って港の開発をすることになった。

スネグーラチカも集落の長たちと話し合う事が増えた。

鉄道で頻繁にやってくる。

そうした事もあり、客を受け入れる施設などができた。

客が増えれば酒場などの娯楽施設ももできる。

アレクサンドラたちは宿泊施設へ泊まっていた。

海の幸が食べれるので、みな喜んでいる。

「あと、途中の漁村も開発しないといけませんね」

マグダレナが眼鏡のフレームを押し上げる。

「中継地点だね」

クレアが言った。

「だったら同じように鉄道を敷かないと」

「蒸気船で運んできた物資を鉄道で内陸部の各所へ運ぶんだね」

「ええ、それが後々補給線として役に立ちますわ」

「うわ、軍事転用のこと考えてるんだ」

アレクサンドラは茶化した。

「ロシア人に言われたくないですね」

「ナンノコトカナー」



「サイダーが飲みたい!」

「また静の病気が始まったか…」

静が言うと、巴がつぶやいた。

この発作を持ってるのは静とアレクサンドラの二人である。

突発的に何かを食べたくなったり作りたくなったりするのだ。

「サイダーいいね!」

ヤンが同調した。

「作り方分るのか?」

「分んない」

「知らない」

ジャンヌが聞くと静とヤンは即答。

「……炭酸水を作るのに重曹がいるんだったかな」

ジャンヌはおぼろげな知識を披露する。

「水、クエン酸、重曹、砂糖が必要だな」

見かねたヴァルトルーデが言った。

「クエン酸?」

「ないよ、そんなもんッ」

「えー!?」

静とヤンは落胆するが、

「柑橘類に含まれてるからレモン汁でいい」

ヴァルトルーデが代わりの物を示した。

「重曹は?」

「重曹を含む重炭酸ソーダ石があるだろ、それを精製すれば作れるはずだ」

「へー」


「え、重曹?」

アナスタシアは驚いた。

そんなことを聞かれるとは思わなかったからだ。

「またシズカの病気か」

パトラは苦笑している。

「病気とはなんだよ、サイダーが飲みたいってだけじゃん」

「サイダーってなんですか?」

「炭酸水ですね、砂糖が入っていて甘くしてある、レモン味が多いです」

アナスタシアが不思議そうにしているので、パトラは代わりに答えた。

「ほう…、それは面白そうな物ですね」

「面白そう?」

「いや、ただの飲み物だけど…」

静とヤンは困ったような顔をするが、

「我々は新たな商品を求めていまして、それにふさわしいかなと思ったのです」

アナスタシアは説明した。

ボイラーももちろん必要だが、それ以外の物もあった方がいいと考えているのだった。

「じゃあ、重炭……なんだっけ?」

「重炭酸ソーダ石」

静が素材名を覚えられずにいると、ヴァルトルーデが言った。

「そうそれ」

「重炭酸ソーダ石を取り寄せましょう」

アナスタシアはニッコリと微笑んだ。



シルリング王国。

ウィルヘルム。

中央というと、まずはここを差す。

多くの平民と貴族が住んでおり、貴族は固まって邸宅を構えている。

高級住宅地というヤツである。

アナセン伯爵をはじめとするメルクのダン族も、この高級住宅地に居を構えていた。

一族で固まって邸宅を建てている。

ヤコブセン邸はその一角にあって、大きくもなく垢抜けてもいない。

色使い、形、造園などなど。

どこかかしらモサッとしている。

つまり貴族たちの感覚ではダサい。


ニルスは知り合いの商人たちを通じて、帝国の商会についての情報を集めていた。

名目は石炭の購入だ。

南方産の石炭は、この世界では最も有名なものと言っていい。

石炭を求めるなら、まず南方産を求める。

ボイラーが実用化すれば石炭が今以上に必要になる。

メルクが石炭を購入しようとするのは自然な流れである。

それを隠れ蓑に帝国の情報を得ようというのだ。


グリフィス家は子飼いの商会を通じて南方産の石炭を取り扱っていた。

が、グリフィス家は急に石炭が購入できなくなったという。


どうして石炭が入手できなくなったのか。

価格が高くなったのか。

運送が困難になったのか。

そして、本当に石炭がでなくなったのか。


「南方産は出てこないですね」

「トラブルが発生してるようです」

「帝国の商会が関わっているようです」

商人たちは答えるが、肝心な所は濁していた。

「要するに誰かがせき止めているということかね?」

ニルスは聞いてみた。

言外に「おまえらとの取り引きがどうなってもしらんぞ?」と匂わせている。

「はあ、私の立場からはハッキリとは…」

「ええ、まあ、そういうこともありえますね…」

「うーむ、ええ、そうとも言えますね…」

商人たちは視線を逸らす。

影響力のある商会が何かをやっている。

商人たちは怖がっているのだ。

彼らに不利益な事をすれば睨まれる。

なので、濁しているのだ。

「まあいい」

ニルスは追求をやめた。


帝国の石炭を扱う商会が、南方の石炭を不当にため込んで、出さなくなったのだ。

その代わり、南方産の瀝青を出してきた。

明らかにメルクの商売を妨害する目的である。

(帝国の陰謀だろうか)

(…いや、違うな)

(帝国がこんなセコい手を使ってくる理由がない。なにかしら理由をつけて宣戦布告をしてくればいいのだ)

ニルスは思った。

(もっと別の何かがあるのではないか…?)

その何かは分らなかった。

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