第27話

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「飲み物に使う香草は、どうやらエルダーフラワーやローズマリーのようですね」

マグダレナは言った。

ずっと草を一つ一つ調べていたようだ。

外の世界のハーブと同じものだ。

「ところで、フロストランド国内でも諜報活動は必要ですわね」

「おい、前後に脈絡ねーぞ」

クレアが突っ込んだ。

「じゃが、アールヴ隊はビフレストじゃぞ」

スネグーラチカは明らかに乗り気ではない。

「アールヴたちを新たに雇えばいいのです」

「それはやった方がいいね」

ジャンヌが賛成した。

国防担当としては無視できないのだった。

「でもさあ、アールヴって基本おポンチじゃん」

「ねえ、ドヴェルグとトムテはそうでもないけどねぇ」

「諜報活動いらねくない?」

「アールヴをバカにすんなよー」

「そーだ、そーだー」

パックとレッド・ニーが抗議している。

「いいえ、一口にアールヴといっても、性格は様々ですよ」

マグダレナは食い下がっている。

「うん、私も調べて見たが、ノッカー、プーカ、トロル、コバルト、シーオークなどのゴブリン族は口数が少なくて作業に打ち込む者が多いようだね」

パトラがメモを取り出している。

「ゴブリン族はドヴェルグに近いのかな」

「そうかも」

パックがうなずいている。

「話が逸れましたね、各地の情報をキチンと収集するのは必要なことです」

「でもさー、その土地に根付いたアールヴじゃないと難しくない?」

アレクサンドラが疑問を投げる。

「よそ者とか嫌われるでしょ?」

「そうじゃな、いかなアールヴといえど他所から来た者においそれと話はせんじゃろう」

スネグーラチカは、やはり渋い顔。

「ならば、土地土地で協力者を見つけてゆけばいいのです」

マグダレナは折れない。

「つなぎ役はこちらで雇った者を使えば」

「それって、商人にやってもらったらいいんじゃない?」

静が言った。

「それぞれの土地に産業があるんなら、商人が売り買いしに行くでしょ?」

「あ、そうか、馴染みのある商人なら情報を持っているだろうしな」

ジャンヌはうなずいている。

「いっそ郵便を噛ませたらいいんじゃん?」

アレクサンドラが提案した。

「郵便配達なら訪問理由にもなる、手紙を持っててもおかしくない、カモフラージュは完璧」

「郵便物があれば、だけどな」

巴が少し呆れて言った。

「まあいい、検討してみよう、それで良いな?」

「ええ、お願いいたしますわ」

スネグーラチカは不満げだったが、マグダレナは笑顔で答えた。



「ロボットを作りたい」

ヴァルトルーデは言った。

「はあ?」

「いや、ロボットというよりはパワードスーツかな」

ヴァルトルーデは紙に描いた図を見せる。

いかにもパワードスーツという、ロボロボしたメカが描いてある。

「リンク構造の組み合わせでいける、実際外の世界でも作っていたしね」

「へえ、スゴイね」

アレクサンドラは絵を見ながら言った。

「もしかして、ヴァルトルーデってロボット工学が専門なの?」

「うん、まあ、趣味でずっとやってたんだ」

ヴァルトルーデは頬をかいた。

照れくさいといった感じである。

「問題はパワー不足だったが、雷の精霊が強化する電動モーターならそれを解決できそうなんだ」

「なるほど、ロマンだね」

「ロボットってなに?」

スカジがまったく分らないという顔をしている。

「この世界風に言うなら、巨人ってヤツかな」

「へー」

スカジは図に見入っている。

「簡単に言うと兵器転用が可能だ」

「ふーん、新兵器ってヤツか」

「土木作業にも使える」

ヴァルトルーデは力説した。

「本来は、非力な人の補助、力仕事を楽にするといった目的で開発されたものだ」

「面白そうだけど、雪姫様にも言った方がいいね」

スカジは難しそうな顔をしている。

「もちろん、スネグーラチカにも伝えるさ」

「だね」

ヴァルトルーデとアレクサンドラは顔を見合わせる。



「どうやらメルクから迎えをよこしてきたみたいです」

アナスタシアが言った。

魔法の石というアイテムを使って通信している。

アナスタシアは、スネグーラチカにもそれは伝えてあり、それでも滞在を許可してもらっていた。

「私が戻らないので焦って迎えに来たようで…」

「そうですか、もっと滞在して頂きたかったのじゃが、残念じゃのう」

スネグーラチカは名残惜しそうに言った。

「そういって頂けるとありがたいです」

アナスタシアはしゅんとしている。

「うーん、アナスタシアさんにはもっと法律や制度について教わりたかったんだけどねぇ」

パトラが寂しそうな顔をしている。

「もう少し居られるよう話してみます」

アナスタシアは、帰る気があまりないようである。

「せっかくミシンの使い方を覚えたのに…」

裁縫にのめり込んでいて、パトラと話して居ないときは、ずっとミシンで作業をしていた。

「ミシンは差し上げます」

スネグーラチカは微笑んでいる。

「いっそ、ここに移住してくれば?」

アレクサンドラが言った。

「それは、大変ありがたい申し出なのですが……」

「アレクサンドラ、アナスタシア殿を困らせるでない」

「てへぺろ」

「表現が周回遅れだな」

「ほっとけ」


数日経って、メルクの使節が到着した。

使節は5人だった。

「ニルス!?」

アナスタシアは驚いている。

「アナスタシア様、お元気そうですな」

ニルス・ヤコブセンは笑顔で言った。

他の4人もヤコブセン家の者だ。

「いや、石で話しているでしょう?」

「そうですが、ご尊顔を拝見できるのとは違いますぞ」


ニルス・ヤコブセン率いるメルク使節一行は、すぐにスネグーラチカに挨拶をした。

貴族だけあって、そういう作法には通じているらしい。


「長旅でお疲れじゃろう、ごゆるりとしてくだされ」

スネグーラチカがにこやかに言うと、

「お気遣い痛み入ります。できましたら、この機に貴国の高い技術をお見せ頂けたらと思うのですが…」

ニルスは謙ってお願いした。

目的はアナスタシアの迎えだけではなかったようだ。

フロストランドの噂が、北域だけでなくメルクまで届いているということだ。

「構いませぬぞ、自由に見てくだされ」

スネグーラチカは太っ腹という感じでうなずく。

「ありがとうございます」

ニルスは会釈。


メルク使節の5人は館に逗留することになった。


「それにしても、あの鉄道というものはスゴイですな」

ニルスが言った。

使節一行は雪姫の町に繰り出している。

実際、ニルスたちは雪姫の町まで来るのに鉄道に乗っていた。

物珍しさと行程が楽になるのとで乗ってみたようだった。

「鉄道は国の動脈と言えます」

案内役はパックだ。

「平時に物資や人を輸送するだけでなく、有事には兵站を支える要ともなります」

「ふむ、それは怖いな」

パックの説明を聞いて、ニルスはちょっと神妙な顔になる。

現在の戦様式では補給は荷車や馬車が担っている。

補給線の脆弱さが未だ克服できずにいて、兵站が維持できずに撤退を余儀なくされると言うことが頻繁にある。

鉄道によって物資がひっきりなしに送られてくる、補給が切れない、となれば、防衛線が崩れないという答えが導き出される。

「外部からの侵攻に対する防御力が強化されますな」

「はい、国内に鉄道を張り巡らせてゆき、物流網を完備することで防衛力は格段に強くなります」

パックは包み隠さず言う。

アピールである。

フロストランドは強固な防衛力を有する、と国外に知らしめることで攻め込もうなどという気を削いでしまう効果を狙っているのだ。

抑止力。

「それから、まあ仮定の話で、まずありませんが、我が国が外へ侵攻する場合にも補給が容易になります」

「ううむ」

ニルスは唸っている。

「人員の輸送も可能と来ている、なんということだ…」

「まだ試用段階ですし、我々には外へ向かう理由もありませんよ」

パックは屈託無く笑っている。

「うむ、是非仲良くしたいところですな」

ニルスも笑っていた。

権謀術数の渦巻く貴族社会で生きているだけあって、胆力はあるようだ。

「おまたへー」

声がして、アレクサンドラとヴァルトルーデが蒸気自動車を運転してきた。

人数が多いので荷車を引いている。

「おお、これは蒸気自動車だな」

ニルスは目を輝かせた。

余興や見世物が好きな性質らしく、嬉しそうにしている。

「貴国の蒸気自動車には敵いませんが、我が国でも開発しております」

「ご謙遜を」

パックとニルスは顔を見合わせた。

「ヤコブセン卿」

ヴァルトルーデが車から降りてくる。

「おお、ヴァルトルーデ、元気でやっておるか?」

「はい、我が儘を聞いていただきありがとうございます」

「よいよい、私は太っ腹だからな」

ニルスは冗談っぽく言った。

基本的には気の良いおっさんのようである。


「今回の訪問で我らは少し考え直した。

 メルクはこれまで従来の体制維持に努めてきたが、鉄道のようなものができてしまえば我らには対応仕切れぬ」

「そうですね」

「メルクに戻る気はないか?」

「すみません、今は機械製作に没頭したいのです…」

「うーむ、今すぐにとはいわぬ、いずれは戻ってくれぬか。

 戻ったら頭の固い上の連中を説得する、従来の体制では技術の進歩に敵わぬのだからな」

「分りました」

ヴァルトルーデとニルスは話し込んでいた。


今回は、アナスタシアだけが戻るというところに落ち着いた。

「それでは皆さん、お世話になりました」

「雪姫様、どうかご健勝で」

「うむ、道中お気をつけて」

別れの挨拶をして、ニルス一行とアナスタシアは去って行った。


「アナスタシアさんが置いてったんだけど…」

パトラは石を手にしている。

魔法の石だ。

「あー、通信機になるんだっけ」

「いつでも話せるように、だって」

「アナスタシアさん、結構ここが気に入ってたみたいだね」

「しかし、ダン族にあまり情報を漏らしてしまうのはどうかと思いますが」

マグダレナが言った。

「うむ、気をつけるようにしよう」

スネグーラチカはうなずくが、その辺は守る気があまりないようである。



鉄が不足してきている。

鉄道の発展に伴い、既存の鉱山から産出される鉄ではまかないきれなくなってきたのだ。

「やはり、鉱山を多く抱える西のゴブリン族を取り込まなければいけません」

マグダレナは主張した。

「鉄など買えば良いではないか」

スネグーラチカは、やはり乗り気ではない。

「売買で購入するには金がかかりすぎます。館の資金も無限ではありません、私たちが来てからずっと支出ばかり拡大しているのですからねッ」

マグダレナはいつになく語気が強い。

「むぅ…」

スネグーラチカは唸った。

何も言い返す言葉がないようである。

「しかし、無理に取り込んでも反乱とか起こされたらたまりませんよ?」

フローラは言った。

反対のようだ。

「雇用を増やして生活レベルを少しずつあげて行くのが良いのでは…」

「財務大臣としても、収入…いや歳入が少ないのは頂けないな」

クレアが割って入ってくる。

「ここはやはり所得税を…」

「それが目的か」

アレクサンドラがツッコミを入れる。

「税の導入はまだ早い」

スネグーラチカは頭を振る。

「あ、なんか思いついちゃった」

突然、静が叫んだ。

「なんだ、良い案でもあるのか?」

巴が聞いてくる。

「ドリームをジャンボするヤツだよ、お姉ちゃん!」

「はあ?」


「宝くじだよ!」

静は言った。

「古い言い方だと富くじだったっけ?」

「フォーチュンクッキーみたいなヤツか?」

クレアが聞いた。

「いやいや、アレはおみくじでしょ」

「あ、そうか」

「アールヴとか好きそうじゃん?」

静はパックを見た。

「いや、まずその宝くじってのが分らないんですけど…」

パックはキョトンとしている。

「つまり、国は国民からお金を集められて、国民は国から夢を買う、三方一両損…」

「それは大岡裁きだ」

巴はピシャリと言った。

「それ、遡るとインドまでいくヤツだよ」

「いやいや、それは子供の腕を引くヤツの方だ」

アレクサンドラが言うと、パトラが訂正する。

「よく分らぬが、歳入が増えるだけじゃろう?」

スネグーラチカはあまり興味がないようだ。

ギャンブル的なものは嫌いなのかもしれない。

「娯楽を提供するのも国の仕事だよ、それに真面目に働いてる人でも時々は夢みたくなるし」

「確かに、経済を活性化する効果はあるかもな」

ヴァルトルーデが言った。

「娯楽が若者を引きつけるのはあるが、結局、生活水準が上がらないとダメだろ」

「それだ」

ジャンヌがポンと手を打つ。

「宝くじで増えた分の歳入を助成金にまわす、鉱山や漁業に助成金を出せばいいよ」

「助成金を出すから傘下に入れってヤツか」

ヴァルトルーデはジト目を向ける。

「悪い言い方をするとそうだね」

ジャンヌは悪びれもせずに言った。

「雇用は鉄道事業をメインに作り出せる、元々の稼業も助成金を出して負担を軽減させられる、優先的にこちらへ売ってもらえばいいよ」

「いやー、宝くじだけでそんだけの金を捻り出せるかなぁ」

「だから、宝くじってなに?」

パックは誰も説明しないので、段々イラついて来たようだった。


「番号が当選すれば、お金がもらえるってヤツだよ」

「へー、そんなものがあるんだね、静たちの世界じゃ」

パックはすぐに理解したようだ。

「皆がくじを買う、お金が集まる、その中から賞金をいくらか出す、って仕組みだね」

「うん、まだ国債はムリだろうから、もっと分りやすいくじ形式と」

アレクサンドラが言った。

「でも、そんなに買う人がいるかなぁ?」

ヤンが訝しんでいる。

「どんだけの人数が買うかだからね、できるだけ宣伝した方がいいだろうな」

クレアが、うーんと考えている。

「じゃあさ、郵便窓口で販売すればいいんじゃないの?」

パックが言った。

「ああ、そうか、そういう方法があるな」

「くじはどうやって印刷する?」

「木の札でいいんじゃないかな」

巴が言った。

紙が貴重なので、印刷技術はまだ確立させていない。

「箱に入った木札を錐で突いて抽選するんだよね」

静が言った案を採用することになった。


偽造を防ぐために木工匠に凝った細工を施した木札を作ってもらう。

同じ番号の物を対で作り、一方は販売し、一方は箱に入れる。

番号は、パトラとマグダレナが管理する。

「購入した者の名前を記入する」

「登記された者と名前が違う場合は賞金の額を減じる」

なんかドンドン細かいルールが増えていってる。

「私も買える?」

「私も買いたい」

「買う」

静とヤンとヤスミンが購入を希望したが、

「大臣はダメ、庶民のためのものだからね」

パトラは頑として認めない。

「ヤスミンとヴァルトルーデは買ってもいいよ」

「わーい」

ヤスミンはお小遣いをつぎ込むつもりだった。

「ヤスミン、代わりに買ってー!」

「ねえー!」

「ダメだっつってんだろ!」

静とヤンは小細工を弄しようとしたが、パトラに怒られて実現しなかった。

「私はギャンブルは嫌いだ」

ヴァルトルーデはというと全く興味を示さない。


「これって、当選者が狙われたりしない?」

「なくはないだろうなぁ」

アレクサンドラが疑問を言うと、ジャンヌがうなずく。

「そういうのが発覚したら重罪にしよう」

「ダメッ!」

パトラがダメ出しをする。

「これって、一種の富の再配分だよな」

「うん、まあいいんじゃないの?」

巴とクレアが言い合っている。

「娯楽はいつの世も必要だし、集めた金を助成金に回せば国民に還元できるし」

「一石二鳥ってヤツか」



郵便制度が馴染んできて、皆、郵便窓口を利用するようになってきた。

その頃合いを見計らって宝くじの販売を始める。

宣伝のポスターを貼っていた。

堅実な性格のドヴェルグ、トムテ、ゴブリン族はあまり購入していないようだったが、ピクシーやパックなどの種族には飛ぶように売れた。

吉日を選んで、抽選会を催す。

見物客に購入者と人が集まったので出店なども出てきた。

抽選会は大パックとレッド・ニーが仕切って、ニョルズら武官が見回りをした。

抽選で当選するのは4枚。

皆がよく知ってる地水火風を当てはめて、地の賞、水の賞、火の賞、風の賞というように設定。

抽選に当たったのは、コバルトのバルさん、ピクシーのセロさん、ドヴェルグのルグさん、パックのスプリングさんの4名だった。

「当選者、おめでとう!」

「わーい!」

「やっただ!」

「嬉しー!」

「貯金するだ」

4名が賞金をもらって、皆、拍手で送り出す。

もはや祭りである。

「ま、皆が楽しめればいいんじゃない」

アレクサンドラは出店で買ったお菓子を食べながら言った。

「経済効果もあるしね」

クレアがホクホク顔をしている。

歳入が増えるので、数字の上では気分がいいのだろう。

「ぐえー、外れたー」

ヤスミンは木札を握りしめて落胆。

ギャンブルにハマる性格かもしれない。

「宝くじってどのくらいの期間で催すの?」

「1年に1回でいいんじゃないか」

「えー、1年も待つのー?」

「ギャンブルは時々やるくらいがいいんだよ」

第1回フロストランド宝くじは、好評のまま終了。


「集めた金はすべて助成金へ回すことにしました」

マグダレナが収支報告を作成した。

スネグーラチカと大臣たちに回覧させた。

「私は大臣じゃないから見なくていいよな」

ヴァルトルーデは頭が固い。

「数字きらーい」

ヤスミンはそもそも勉強が足らないようである。

「好き勝手に宝くじを真似てギャンブルを催す輩が出るだろうから、宝くじ法を制定すべきだね」

パトラは早速、下書きを始めている。

完成したら、町中の掲示板に張り出す予定だ。

「助成金として還元するから大義名分が立つ、基本はこういう仕組みにしないと」

「パック、アールヴたちにも言っておけよ? 自分達でくじを作って儲けようとしたら逮捕されるってな!」

巴が釘を刺した。

「やだなー、ボクたちがそんなことする訳ないダロー!?」

パックは汗をかいている。

なんか捨てに行ったようだった。



漁業、鉱山業、工業、農業などに助成金を出す制度を実施し始めた。

経産大臣の静と農水大臣のヤンが担当である。

検地が進んでいて既にある畑は把握されている。

「作物によって助成金の額を変えてゆけば、こちらが欲しい作物へ誘導できるね」

静は珍しく提案をしている。

マグダレナに手伝ってもらって考えてきたのだった。

「さしあたって必要な作物はないじゃろ」

スネグーラチカは、それほど興味がないようである。

「じゃあ、従来通りの作物に助成金で」

「うむ」

「それから、これから開墾する場合はより高い助成金を出せば、畑が増えてゆくと思われます」

「なるほど、それは良いかも知れぬな」

「まずは自給分を確保してゆきますが、輸入ものと合わせて備蓄をしてゆきます」

ヤンがメモを片手に説明した。

すらすらとしゃべる。

プレゼンが結構上手い。

「現状はこのぐらいの生産量ですが、今後を見越して食糧倉庫を増設してゆきたく」

「うーむ、また金がかかるのか…」

スネグーラチカは渋い顔。

「投資だよ」

「後で倍になって返ってくるよ」

「なんぞ賭博みたいじゃから、そういう物言いは好かぬ」

スネグーラチカはそう言ったが、結局は食糧倉庫の増設に同意した。


鉱山においても同じように鉱石の産出に応じて助成金を出すようにした。

館が鉄を必要としているので、鉄に掛ける助成金は他より高い設定にしている。


漁業はどの魚であっても需要に差がないので一律。


助成金の告知や申し込みに関しても郵便窓口で行うことにした。

こうなると、もはや小型の役所である。

郵便を利用する客から口づてで助成金のことが広まってゆき、応募が増えてきた。

一カ所が助成金をもらえば、他も応募する流れが出来る。

「一応、実態調査で郵便職員を派遣して視察してもらいます」

「うむ、ウソをついて助成金をせしめる者がおるかもしれぬしのう」

「はい、キチンと罰則を設けて牽制します」

マグダレナはそこで一旦言葉を句切る。

「ここからが本題ですが、助成金に応募するのに制約を設けます」

「制約?」

「第一段階として、生産・採取した物は優先的に館が指定する商会に販売すること。

 第二段階として、館が指定する生産物、採取物を販売すること。

 第三段階として、館にだけ物を販売する、専売制にすること。

 段階が進む毎に助成金の額を増加させます」

「これでは侵略と変わらぬではないか」

スネグーラチカは反感を露わにした。

「はい、経済による侵略です」

マグダレナは悪びれもせずに言った。

「その代わり、勢力下へおさめた後は全員雇用をして収入増を確約し、必要なら投資を行って経営を支えることも考えます」

「うーむ、そういう事はしとうない」

「私もそう簡単に各地の種族が傘下に入るとは思っていません、なので実際にはただの助成金です」

「いや、いつでも侵略へ変貌する代物じゃろ!」

「お互いに利益が出ます」

「ダメじゃ」

「あのさ、相手に借金背負わせてがんじ絡めにするより、全然マシだよ?」

ジャンヌがさらっと酷い事を言う。

(ヨーロッパ人、怖えぇ…)

静は思わずゾッとした。

「そのようなことは元より許さぬッ!」

スネグーラチカは怒鳴った。

ダン!

とテーブルを叩いている。

「民を陥れるなど言語道断じゃッ」

「では、国防の必要上と言ったら?」

ジャンヌは動じない。

「国軍ができあがって、兵士を募集するとして、強制的に徴兵するのは反対だよね?」

「うむ、志願者を募る」

「志願兵は数が集まらないからね、志願者が集まらず、すぐに頭打ちになるんだ。

 雪姫の町の防衛、国境の防衛、各集落の防衛、全然人数が足りない。

 なら分母を広げるしかないよ」

「むむッ」

スネグーラチカは少し動揺したようだった。

「分母を広げるには土地を広げる、その中から志願者が出てくるだろうけどそれも微々たるもんだろう。

 だからできるだけ分母は大きくないといけない」

「ロシアが最強ということが分りますたw」

アレクサンドラが茶化した。

しかし誰も反応しない。

「双方に利益があり、先にルールを提示して、その上で合意してもらったのなら詐欺ではありません」

「相手が目先だけ見るのが分っていて、はめようとしておるではないか」

「それは相手の問題です」

スネグーラチカは反論するが、マグダレナは一歩も引かない。

「それに雪姫様がいくらお優しいからといって、民の生活全部を見るわけにはいきませんよ。これは自己責任の領分です」

「それ、合意した後でも、やっぱり嫌なら解約できるようにすればいいんじゃないの?」

ヴァルトルーデが横から援護射撃をする。

「クーリングオフですわね、もちろんそういう条項も入れましょう」

マグダレナは渋々といった感じで言う。

「スネグーラチカさん、国民を思いやる気持ちは大事だ。

 だが、マグダレナも国をよくするために言ってるんだろう。

 そのうち他国が大きくなってきたとして、今のままではフロストランドが生き残る確率は?」

ヴァルトルーデは淡々と述べた。

「……うーむ」

「確率論がすべてではないが、今のうちに勝率を上げる努力をしておくのも大事じゃないか」

「分った」

スネグーラチカは嘆息。

「じゃが、段階的に進めるのじゃぞ? 相手に十分に説明をして、ルールを理解してもらうこと、それが条件じゃ」

「もちろんですとも、雪姫様」

マグダレナは満面の笑顔をしてみせる。

腹黒い。

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