第18話

18


銀行組織が立ち上がる前に、商会がその機能を持ってしまったので、現状に合わせて計画を変更することになった。


○○局 大臣      → 下部組織


財務局 クレア     → 税務部、商会管理部


銀行院をなくして商会管理部へ変更。

商会が不正なく銀行機能を維持しているかを管理する部門だ。

金を預かると臨時に資金が増える形になるが、それを勝手に使い込まないとも限らない。

商会の会計をしっかり行っているかを監視し、健全な運営をが行われているかを管理する事にもなる。

今は、税務部職員にやらせているが、いずれ別部門として独立させる予定だ。

似たようなことは他の局でも起きているが、今のところ、既存の部門にやらせる方式で対応している。


それから、木炭の製作。

試行錯誤を重ねて一定の品質までは作れるようになってきたので、成形炭の製造に着手し始める。

一応ドヴェルグも手先は器用なのだが、これはトムテの職人たちに振った。

ドヴェルグは機械製作に専念できるように。

トムテは電球製作以外にも職を持てるように。

スネグーラチカが配慮したのだった。

成型炭は徐々に国内で流通してゆくことになる。


「そういや炭って水の浄化とかできるんだっけ?」

「活性炭ですね」

静の問いかけに、マグダレナが答えた。

「もしかして、これ汚水処理に使えるんじゃないの?」

「……あ、そうですわね」

マグダレナは、はっとして静を見る。

「汚水処理の一歩として使えそうですね」

「活性炭は800℃以上の高温で炭と水蒸気を反応させるんだっけ?」

アレクサンドラが首を突っ込んでくる。

「また無駄知識もってんな」

クレアが呆れているが、

「今、役に立ちそうだから良いんだよ」

アレクサンドラが押し切ったので、

「ま、そうだね」

クレアは折れた。

「それに活性炭は蒸し焼きで作れるから、高品質木炭へのステップアップにもなるよ」

「薬品賦活はムリですから、必然的にそうなりますわね」

「石窯の出番だよ」

「目指せ、備長炭ッ」

アレクサンドラもマグダレナも乗り気である。

二人ともかなり好きなようである。

木炭作りにハマってしまったのだった。

「また脱線してますよ、お二人とも」

「はっ」

「はっ」

クレアが二人を現実へ引き戻した。

「そうだった、汚水処理の話だった」

「布、砂利、砂、石、活性炭を詰めた容器を用意しましょう」

「切り替え早いな、オマエラ」

「それでも細菌は死なないから、最後に煮沸すればいいかな」

「じゃあボイラーだね、冬の凍結にも対応できるし」

話がまとまったようである。


早速、濾過装置の試作が始まった。

「鉄道で忙しいんだから、こういうの持ってくるのやめれ!」

スカジが半ギレで叫ぶが、

「砂利はこのくらいでいいかな」

「布は消耗品だねぇ」

「いや全部消耗品だよ」

誰も聞いてなかった。

「おーい、大臣どもー?」

「そういや最近ニョルズさんみないけど、どこいってんだろ」

「いや、風紀の取り締まりでかり出されてただろ」

「あ、そっかー」

「スカジさん、さみしくない?」

「なんで、そういう話になるしッ」

スカジは少しだけ顔を赤くした。

「おー、赤くなった」

「あはは、図星ッ」

「うるさいなー、そういうんじゃないよ、もー」

ワイワイやりながら、結局はスカジも参加している。

「よし、泥水で試そう」

「汚物はムリかな」

「あー、汚物は沈殿槽がいるよ」

「確か、バクテリアが食ってんだよね」

「しらん」

言いながら、大臣どもは濁った水を容器へ流し込む。


だー。


濁って色の付いていた水が濾過されて透明な水になって出てくる。

「よし、こんなもんかな」

「あー、それ使えば風呂の残り水を流せるね」

スカジは納得した。

「うん、これをさらに煮沸して細菌を殺さないとね」

「なにそれ?」

「目に見えない小さい生き物」

「……精霊?」

「ん、まー、似たようなもんかな?」

「いや、違うっしょ」

「炭の用途が増えたし、下水設備も一歩前進だね」

「よかった、よかった」


木炭の導入で懸念事項が少し進んだ。


「この際、浄水場も作っちゃおうか」

「いや、まだそれは早いんじゃない?」

「うーん、凍結を解決できないからねぇ、水の長距離輸送ができないんだよね」

「今まで通り、建物毎に作るしかないか」


ということで、まずは館に浄水器を設置した。

今の季節は良いが、冬に凍結することを考えて、ボイラーの湯管を容器の外へ回した。

保温装置である。

最終的には煮沸して地面へ放出する。

濾過した汚れは濾材を定期的に交換することで対応。

汚れた濾材は廃棄。

そのうち再利用するやり方を考えるといいかもしれない。


「おお、懸念事項が少し前進じゃな」

スネグーラチカは喜んでいる。

そして、テーブルのお菓子をつまんだ。

「おっ、なんじゃこの菓子は?」

「フローラと私で作ったお菓子だよ」

「甘くて、うまーいッ」

スネグーラチカは某料理アニメのような感じで叫んだ。

「饅頭だね、作るの苦労したよ」

静は回想中だ。

蒸し器を作ったり、小麦粉を練ったり、豆を餡子にしたり、その苦労には並々ならぬものがあるらしいかった。

主にフローラが作ってたけども。

「こちらのお茶もどうぞ」

フローラがカップを勧める。

「おお、甘い菓子に合うのう」

スネグーラチカはカップに注がれた茶色の液体に口をつけて、感想を述べた。

「なんじゃ、これは?」

「麦茶です、大麦を炒って煎じたものです」

マグダレナが答える。

「お好みでハチミツや砂糖を入れたりしてください」

「それは邪道だ」

巴は頑なに麦茶+甘味料を否定している。

「これはこれで良いのう」

スネグーラチカは饅頭とお茶が気に入ったようだ。

「そういえば、マグダレナが作っておった茶はどうなのだ?」

「ぐっ…それはまだです」

マグダレナは悔しそうにうめく。

「そう怖い顔をするな、ガングに茶葉を見かけたら購入するように言ってある」

「それはありがとうございます」

マグダレナは素直に礼を言った。

「話を戻すが、近頃のアールヴ隊からの報告を見ると、ニール商会との関係が改善されてきたようじゃの」

「暗殺という手段は外すべきでしょうね」

「うむ、無駄な殺生はすべきではないからの」

スネグーラチカはうなずく。

「兵器開発についても保留じゃな」

「戦より、経済活動で攻めるべきだしねぇ」

クレアが言った。

「戦争は完全否定する気はないけど、金がかかる。人的資源も消耗するし、できるだけやらないに越したことはないよ」

「軍の肩身が狭いねぇ」

ジャンヌが冗談っぽく言う。

「いや、軍は必要だよ。どこかのアジアの国じゃあるまいし、周囲に敵性国家がいるのに軍縮しようとする人達がいるとかないわ」

「おっと日本の悪口はそこまでだ」

巴も悪ノリしている。

「ただ、まあ、今後そういう事がないとは限らないから開発はした方がいいとは思うけどね」

「優先順位は低いね」

アレクサンドラとパトラが言った。


「発電所は?」

「これもまだ早いような気がするねぇ」

「うん、電球しか使いどころがないからね」

「局地で使用する分にはボイラーと併設でいいからね」

「それもボイラーで事足りるからなぁ」

「電気は後回しでいいよ、需要が高まってきたら活用してゆけば」

クレアがまとめた。

「今現在でも技術を持ってるってことは有利なんだし」

「蒸気機関が普及した後、電気へ更新でいいね」

アレクサンドラもうなずいている。

「実際、ドヴェルグたちも蒸気機関に追いつくので精一杯だからね、これ以上やろうとしても追いつかないよ」

「なるほどな」

アレクサンドラがやっているのは、現場の意見の吸い上げである。

「あとは武官を増やして警察組織の増員をした方がいいですね」

パトラが提案した。

鉄道事業が進んでいて、労働者が多く町へやってきている。

労働者の多くは荒くれ者で、ケンカ沙汰を起こすことも多々ある。

「分った、増員をしよう」


「消防は?」

アレクサンドラが聞いた。

「火消しを組織するとか?」

「江戸時代か」

「解体が主体の消防はダメですよ」

静と巴がコントみたいな事を言ってると、マグダレナが突っ込んだ。

「よく知ってるな…」

「時代劇を見てましたから」

「こういう時こそ、蒸気自動車の出番だよ」

アレクサンドラが立ち上がって力説する。

「いや、アンタは車使いたいだけだろ」

「水を抱えたら重くなるんじゃないの?」

「それは電気で解決だ」

アレクサンドラは、ぐっと拳を握りしめる。

「前に蒸気+電気で車体の縮小化をしたけど、今度は大型化したいね」

蒸気の一部を発電に回して補助動力にするやり方だ。

アレクサンドラは、これを並列にして大型化したいと思っていたらしい。

「自動ポンプも開発済みだし、放水くらいできるはず」

「作りたいだけだろ」

「やるだけやってみたら良い」

スネグーラチカが許可をだした。

「開発を怠って後で後悔するのは嫌じゃからの」

「そうだね、暴徒鎮圧とか列車への移設とか応用も考えられるし、いいんじゃないの」

ジャンヌも賛成のようだ。

「あ、列車砲を作ろうとか考えてるな?」

「なんでバレたし」

アレクサンドラとジャンヌが笑い合っている。

「ゆくゆくはロケットだね」

「とこまで飛躍してるの?」

「なら火薬だな」

「硝石作るなら肥料からか」

「これも追々だね」


段々、脱線してきたのでミーティングお開き。



エルムトとギョッルは河川の側で発展した街である。

本来は河川の名前だが、それがそのまま街の名前として使われている。

河川を利用して物資を船で運ぶのというのが行われている。

水運の要所として知られる。

当然、水車も多く作られている。

距離的には他の街より近いので、ビフレストの噂はすぐに入ってきた。

水車小屋の権益が脅かされている。

ドヴェルグの持ち込んだ得たいの知れない機械で、粉挽きをしている。

そんなような話だ。

この世界の業界、結束は固い。

すぐに反発が起きた。

これを放っておけば、死活問題になる上に権力を失う。

権力がなくなれば、容易に攻撃を受け、貧民へ落下するという事すらあり得る。

なので、当然ながら必死になる。


ビフレスト太守のウンタモが放っている間者は、この動きをすぐに伝えてきた。

「ビフレストの連中はドヴェルグの持ち込んだ怪しげな術に冒されている」

「奇っ怪なものを使って伝統を破壊している」

などと、エスカレートしていた。

「勝手なことを言いおって…!」

ウンタモは間者の送ってきた書簡を握りしめた。

「上様、ここはしっかり訂正せねばいけませぬな」

「そのようなことは分っておる」

ピエトリに半ば八つ当たりをして、ウンタモは自室の中をウロウロとした。

「世迷い言をいう輩は仕置きするのが一番だ」

「いえ、それはいけません」

ピエトリは頭を振った。

「力に頼ればいらぬ戦を生みます」

「しかし、どうせよというのだ?」

「キチンと説明をして理解させるのが良いかと」

ピエトリは頑として主張した。

「ボイラー設備をエルムトやギョッルにも普及させましょう」

「それでは我が街の利点が失われるじゃろう?」

ウンタモは独占したいようだった。

「独占するのと、他へ販売するのは、儲けで言えばそれほど変わりませぬ」

「何を言っておるか、独占した方が儲かるだろう」

「それは一時的なものです、いずれ技術は漏れます。それより広く普及させることで初回販売の数を増やした方が得でござる」

ピエトリは言った。


独占:勿体ぶってチマチマと販売してるうちに、どこからか技術が漏れる。儲けが少ない。

普及:技術が広まるまでの間にとにかく販売数を稼ぐ。独占より儲けが増える。


ということを言いたいのだった。

タイムリミットまでにどれだけ稼げるか、という視点である。

「それに、ドヴェルグの技術者から仕組みを教わって、早めに自前で作れるようにすれば修理や設置の依頼が来てここでも儲けが見込めます。とにかく早く技術習得することです」

「……うーむ、そうか」

ウンタモは説明を聞いて、少し思い直したようだった。

損得勘定には敏感なのだ。

「しかしのう、どうやって説明したものか」

「ニール商会とフロストランドの連中を使えばよろしいでしょう」

ピエトリは表情を変えずに答えた。

「彼らも利益を追求したい訳ですから、普及には賛成でしょうね」

「なるほど、彼らに任せておけば自然と広めてくれるということじゃな」

ウンタモはうなずいた。

利益があると感じた瞬間に掌を返してしまったのだった。

「それから、できれば今後もフロストランドの技術は我々が窓口になるよう契約をかわすのが良いかと思います。いわば代理店契約のようなものですね」

「うむ、新技術がまた出てきても我らが一手に握ってしまえばいいという訳か」

「そうでございます」

ピエトリは主の性格をよく分っていた。

ウンタモは欲が強く利益に弱い。

「ですが、ただ独占するのではなく、他の街が不慣れな所を支えてゆけるよう体制を敷いてゆかねばなりませぬ」

「分った、皆まで申すな、我らが他の街に頼られるぐらい熟知してゆけばよいのだろう」

「はい、おっしゃる通りでございます」

「ふん、それならさっさと始めるべきじゃな」

ウンタモは儲かるとなると素早かった。

すぐに関係部所の担当官をよび、指示を出していった。


「エーリクから伝言が届いた」

スネグーラチカが言った。

「パック、頼む」

「はい」

パックはうなずいて、話し出した。

「ビフレスト太守から、エルムトとギョッルにもボイラーについての講釈をして欲しいという要請があったんだって。

 これには、二つの街の水車小屋業界がボイラー動力の粉挽き場に反発しているって背景があるらしいんだ。

 ボイラーを普及させるにはまたとない機会でもあるね」

「最後のはパックの願望じゃないの?」

「あ、そっか」

静に指摘されて、パックは「あはは」と頭をかいた。

「ま、販売数が増えるのはいいことだ」

「ビフレストの水車小屋業者と同じように安く販売してゆくって作戦だね」

クレアが言う。

「エーリクのヤツ、営業としては使えるじゃないの」

「嬉しい誤算ってやつかな」

「まあ、変にこじれて小競り合いが起きても困るからね、ビフレスト周辺にはもっと交易品を買ってもらわなきゃ」

商売人のクレアはかなり割り切っている。

「その代わりに必需品とか備蓄をガンガン運び入れてゆかないと」

「備蓄は大切だね」

ヤンがニコニコとしている。

ため込むのが好きらしい。

「食糧の備蓄には生産力向上だけじゃ追いつかないから、どうしても輸入に頼らないといけないし」

「うん、国内の資源を使い続けるといずれ使い切ってしまうからね」

「そこで、奥さん」

「誰が奥さんじゃい!」

クレアのボケにアレクサンドラが突っ込んだ。

「成形炭ですよ、成形炭。お手軽に燃料になる炭を売りつけましょう」

「なんなら原料の木材を輸入してもいいしね」

クレアとアレクサンドラは二人して盛り上がっている。

「ボイラーの燃料には成形炭」

「トムテ印の成形炭」

なんだかよく分らないテンションになっていた。

「そういやトムテって靴職人なんだよね」

「ああ、そうだっけな」

「最近、電球とか座席のクッションとかばかり見てたから忘れてた」

「靴の製造販売とかはどうなの?」

「いや、そんなのどこでも手に入るでしょ」

「高級品として販売すればいいんじゃないの?」

「ビフレストの出張所に店をだすとかね」

「おいおい、また話が脱線しとる」

スネグーラチカは笑いながら、たしなめた。

「あ、そうでした」

静はぺろっと舌を出した。

「ボイラーが普及して国に金が落ちるのは良いことじゃ」

スネグーラチカは言った。

「しかし、そう簡単に投資をしてくれるとは限らぬじゃろう」

「あー、確かに、ビフレストでも投資者がいなくて困ってたもんね」

クレアがうなずいた。

「でも、その観点から言っても、水車小屋業者を巻き込んでいくのは良い方法だと思うよ。

 水車小屋業者は新技術に乗り遅れるのは死活問題だと思うし」

「理屈の上ではそうじゃが、ヒトというのは理屈では動かぬ時がある。

 水車小屋業者がすぐに投資をするとは思えぬのじゃ」

「つまり、もう一押ししないとダメということ?」

クレアにはスネグーラチカの心情が分ったようだった。

事業を手がけた事のある者だからだろうか、一般大衆というのはおいそれと新たな物には金を出さない。

「そうなるな」

「じゃあ、何かもう一押しになるアイディアを出せとエーリクに伝えるか」

「なんかブラック企業みたい」

「企業なんてそんなもんよ」

クレアは肩をすくめる。

「認めちゃったよ、この人…」

「あんまりエーリクを酷使すんなよ」

巴が見かねて口を出した。

「代わりを探すの面倒だからな」

「それも酷い良い草だねぇ」

パトラが呆れている。

「いくら諜報要員だからといって、あまりに酷い雇用形態は違法だよ?」

「でた、鉄の女」

「誰がサッ○ャーだ!」

「英国の悪口はやめてくれます?」

フローラも参入してきた。

「だーかーらー、脱線すなというておるのに!」

スネグーラチカが叫んだ。



ボイラー設備の設置が少し増えてきたようだった。

浄水器の開発が普及してしまった後でなくて良かったといえる。

「おふれを出して浄水器の設置を義務づけましょう」

マグダレナが提案する。

要するに条例だ。

この場合は環境保護条例だろうか。

「普及速度が落ちない、それ?」

クレアが心配しているが、

「でも汚水を垂れ流すのは後々困りますよ」

マグダレナは、ぷぅっと頬を膨らませる。

「ボイラーを導入しようと思うのは十分な金を持っている者なので、それはないと思います」

フローラが言った。

「身近に運用されている実例があって、費用対効果を見込まれる場合、投資が行われるんです」

「なるほど」

「なので、既に実例が多く見られるフロストランドでは投資は進みますね」

「ということは、他所でも同じ事が言えると?」

スネグーラチカが訪ねると、

「はい、そう言えると思います。ビフレスト、エルムト、ギョッルでも先に実物を設置して宣伝をしてゆくのが良いかと思います」

フローラは淀みなく答える。

「さすが、名家のお嬢様」

「いえ、それは関係ありません」

クレアが茶化すが、フローラは嫌がっているようだった。

「では、エーリクにはそのように指示しよう」

言って、ジャンヌはパックを探しに行った。


「館から伝言が来たよ」

カット・イヤーが言った。

「精霊って便利だな」

エーリクがどこか上の空でやってくる。

「『先手を打ってエルムトやギョッルにも実物を設置して宣伝してくれ』だって」

「うへー、勝手なことばっか言ってくるなぁ」

エーリクは渋い顔をしたが、

「じゃあ、エルムトとかギョッルにも行けるね」

カット・イヤーは喜んでいる。

「ビフレストの水車小屋業者に売るのもままならねーのに、そこまで進まねーよ」

「今んとこヘルッコ、イルッポの粉挽き場しかないもんね」

「まだ宣伝が足りねえんだろうなぁ」

「ニール商会もあんまり動きがないみたいだし」

カット・イヤーはあくびをしている。

「売るのに苦労してるんだね」

「大口叩いても現実は変わらねえからな…」

口先で相手を言い負かしても、実際の金の動きは変わらない。

「……他に何ができるんだっけ?」

「ボイラーでってこと?」

カット・イヤーは聞き返した。

「そうだ」

「暖房、自動ポンプ、発電かな」

「湯を供給するってものあったよな」

「うん、ポンプで湯を送って浴槽に溜めるヤツだね、あれは良いもんだよ」

「だがこの辺じゃサウナで事足りるからなぁ」

「まあ、あんまり考えても仕方ないよ」

カット・イヤーは肩をすくめた。

「それより、ダメ元でエルムトとかギョッルにボイラー作っちゃえば?」

「どっからそんな金出るんだよ」

「うーん、ボクらの溜めた給料をつぎ込めばできるんじゃない?」

カット・イヤーはあっけらかんとしている。

「貯金をつぎ込むのか…」

「そんで、自分たちで経営しちゃえばいいよ」

「しかしなあ、情報収集はどうすんだ?」

「ヘルッコ、イルッポの真似をして労働者を雇っちゃえばいいよ」

「うーん、じゃあ先にビフレストでやるか」

「そんでもいいよ」

カット・イヤーはうなずいた。

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