第11話
11
そして寒波がやってきた。
「さむさむ、さむくて死ぬっ」
静はギャーギャー騒いで暖房に走り寄った。
「静、この程度で騒ぐんじゃない」
巴はたしなめるように言うが、
「お姉ちゃんだって、なに、その格好?」
静はジト目で巴を見る。
部屋の中だというのに手袋、ブーツ、帽子、コートを着込んで全身モッフモフになっていて、暖炉の前に陣取っている。
「寒い…」
「この寒さはムリ…」
パトラとヤンも同じような格好で暖炉にピッタリと身を寄せていた。
「うっ…、こ、これはだなぁ」
「確かに寒いけど、そんなになるほどかねぇ」
静はジロジロと三人を見回す。
「ほ、ほっといてくれたまえ」
「我、嫌ウ、寒イノ、苦手」
パトラとヤンは静の方を身もしない。
(なんかそういう映画あったなぁ)
静は近い未来の氷河期映画を思い出した。
「なんだ、なんだ、この程度の寒さで!」
ドバアアン!
アレクサンドラがドアを開けて入ってくる。
「あんたみたいな氷魔人と一緒にスンナ!」
「寒いから閉めて」
「冷死我了(寒くて死ぬ)」
「アハハハ!」
三人がブルブル震えているが、アレクサンドラはアホみたいに笑っている。
「話が通じねぇこの女!」
「おい、何してる、昼食の時間だぞ」
クレアが開いたドアから顔をのぞかせた。
「アメ公も寒さには強いのな」
「はあ? 体動かせよ」
ロシアはもちろん、アメリカ、ヨーロッパ組も結構寒さに強いようだ。
マグダレナ、フローラ、ジャンヌもピンピンしている。
「こっちで食べるし」
「ねえ」
「そうだぬ」
三人は暖炉の前から動こうとしない。
*
ドヴェルグたちはこの寒さでも活動していた。
寒波であっても最低限のライフラインは維持しなければならないのだ。
フロストランド出身者は寒さに慣れていて、猛吹雪で身動きとれないくらいでなければ活動する。
もはや、するかしないか、だけの問題と言って良い。
「自動車の車輪に雪がこびりついて参ったよ」
「雪国あるあるだね」
「まあね」
アレクサンドラは元気に寒波をエンジョイしている。
静は体を動かしてれば元気って人間なので、寒さについて行けていた。
それがしばらくの間続いた。
寒波が去った。
「やっと暖かくなってきたなー」
「だねぇ、アハハハ」
静とアレクサンドラは蒸気自動車を乗り回していた。
ソリを連結させて荷物を運ぶテストをしているのだった。
蒸気自動車は構造が簡単な分、メンテさえ怠らなければ寒暖差にはあまり影響されないようだった。
「あーでもー、金属って、急に暖められると膨張するから、気をつけないと」
「水は雪を詰めればいいしね」
「今、一番の課題はブレーキだね」
アレクサンドラはサイドブレーキを掛けながら言った。
「雪上だと急に車輪がロックされるとそのまま滑ってしまう」
「スピードでないからいいんじゃないの?」
「今はそうだけど、今後はそうもいかないよ」
「あー、なるほど」
静はうなずくが、よく理解していない。
鉄道の模型が完成した。
蒸気で走るのだが、スカジはここでアイディアを思いついていた。
「電動モーターを補助として入れたらいいんじゃないか?」
蒸気オンリーよりかは出力が上がるだろうという考えだ。
モーターを駆動系にかませている。
今後、蒸気機関を脱却した後に、電動の機構を組む可能性がある。
それを見越しての事でもあった。
電動の駆動系を作るのに、モーターを弄って経験値を積んでおくのは有用との判断なのだ。
「あれ、これって自動車にも使えるんじゃん?」
静は気付いた。
「あー、そーかもね」
アレクサンドラはうなずいた。
「機関車と同じで、蒸気だけでも電気だけでもパワーが不足気味だから、両方つけちゃえばいい」
「あー、なるほど」
スカジは、ポンと手を打った。
「じゃあ電動モーターをくっつけてみようか」
「あと、バッテリーも欲しいねぇ」
「バッテリー?」
スカジが首を傾げた。
「電気を溜めておく装置だね」
「作り方はわかる?」
「えっとねぇ、銅板と鉛板を電解液に差して作るんだっけかな」
「はあ?」
スカジは呆けたような顔。
「あ、そっか、知識がないと分らないよね」
アレクサンドラは頬をかく。
「フローラ、出番だよー」
「あら、なにかしら?」
フローラがこちらへ来る。
飲み物をすすりながらまったりしていたようだ。
退屈しているとも言う。
「教科書もないところ悪いけど、充電池についてスカジさんに教えてくくれる?」
「ええ、喜んで」
フローラは微笑んだ。
「あ、ボクもボクも!」
パックが、だーっと走り寄ってくる。
大魔法使いの方だ。
毎日、製作所に入り浸っている。
ちなみに弟分のレッド・ニーはマグダレナとパトラにくっついてるようだっだ。
「生徒がここにもいたね」
静はふふっと笑うが、
「あら、シズカさんもちゃんと聞いてくださいね」
「う…、私、こういうの苦手なのに…」
強制的に生徒に入れられてしまった。
「イオンだとか電子だとか、チンプンカンプンだぜぇ」
静は頭の中がぐるぐる回ってるようだった。
「原理、法則を理解するのは大事ですよ」
フローラは言ったが、
「ギブアップだぜぇ」
静はテーブルに突っ伏す。
「実は私もよく分ってないんだが、充電池を使えば電動モーターで機械を動かせるってこと?」
スカジは何やら考えているようだ。
「そうだね。でも、私たちが作れる程度の充電池じゃ、パワーが弱いんだよねぇ」
アレクサンドラは飲み物をすすりながら言う。
「じゃあ、充電池をたくさんつなげれば?」
パックがお気楽な口調で言った。
「巨大化すると重すぎて動かすのが難しくなるよ」
「うーん、そっかあ…」
スカジはため息。
「やっぱり、蒸気機関から内燃機関へ移行させていって、同時に電動化もやってくのがいいんだと思うよ」
「あら、でも、石油が手に入らないと内燃機関を使うのは難しくないですか?」
アレクサンドラがまとめようとするところへ、フローラが指摘する。
「…あー、そうだった、そうだった」
「あー、例の燃ゆる水を使うヤツだっけ」
スカジが思い出したように言う。
「もっと南の方でないと出ないみたいな話を聞いた事があるけど」
パックも思い出しながら言った。
「ふーん、上手くいかないもんだねぇ」
静はどうでも良さそうに流してから、
「あっ、なんか便利な魔法とかあったりして?」
冗談交じりに言う。
「えー、そんなのあるわけ…」
パックは半ば反射的に答えようとして、そこで黙り込んだ。
「ん? なんか思いついたのか?」
スカジがパックを見る。
「いや、雷の精霊を充電池に入れたらどうなんのかなって思ってさ」
パックの話を聞いたところ、魔法使いが精霊を容れ物に入れておくのは、よくあることなのだそうだ。
精霊は天地自然の存在で、世界に遍在しているものだそうだが、それでも気候や風土により偏っている場合もあるのだという。
いつも手を借りたい精霊が都合良くその辺にいるとは限らない。
そういう場合に備えて、魔法使いは容器に精霊を保管しておくのだという。
「土の精霊なら金属や鉱石、水の精霊なら水筒、火の精霊なら火種とか関連のあるものにしか入らないけどね」
パックは説明をしている。
「実は、雷の精霊はよく分ってないところがあって、風の精霊と関係があるみたいなんだけど、いたりいなかったりだったり、容器も昔から伝わっている特別製のものだったりするんだ」
「いや、お前の説明がよく分らんのだが…」
スカジは苦笑している。
「雷の精霊を充電器に入れられたら普通より強いパワーが出せないか、ってこと?」
「うん、そう! アレクサンドラの言う通り!」
アレクサンドラが要約すると、パックは手を叩いて喜んでいる。
「んあー、でもそれって科学じゃなくね?」
スカジは気乗りしないようだった。
ドヴェルグは自身がファンタジーにも関わらず、合理的思考の持ち主が多い。
冶金や機械工学にその力が発揮されるのはそのせいなのだろう。
「魔法も仕組みが解明されたら科学と変わりないよ」
パックは断言した。
魔法使いのくせに、コイツも合理的思考の持ち主なのだった。
「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」
フローラがつぶやいた。
「なにそれ?」
静が聞くと、
「SF作家のアーサー・C・クラークの言葉です」
フローラは答えた。
*
「なるほど、外の世界の科学技術とやらに、我らの世界の魔法を組み合わせてゆこうという主旨じゃな」
スネグーラチカは、ちょっと驚いた様子である。
「そうですね」
フローラはうなずいた。
「正直、科学技術だけでは私たちの世界の後追いになります。
絶対に追い越せず、また諸処の条件から実現できる物に限界があります。
ならば、元々有している優勢技術を組み合わせた方が利口です」
「うむ、一理あるのう」
スネグーラチカは納得したようだった。
「フローラの方が回りくどくなくて分りやすい」
クレアがぷっと吹き出す。
「回りくどくて悪かったですわね!」
マグダレナが半ギレでそっぽを向いた。
「いや、ゴメン、ゴメン」
クレアは謝ってから、
「開発に掛けるコストもバカにならないからね、経営の視点から言ったら、できるだけ最小の投資で最大の利益を得たいわけだし」
「そうじゃな。
ただし、経費をケチり過ぎても開発がうまくいかぬからのう、その点、私は開発に掛けるコストを削減するつもりはないぞ。
無駄に浪費するのは許さぬがな」
「ハイ、雪姫様」
クレアはわざとお辞儀をしてみせる。
「ところで気になってたんだけど」
パトラが聞いた。
寒波が去り、暖かくなってきたので活動再開していた。
といっても景色は一面の雪だが。
「なんじゃ?」
スネグーラチカはパトラを見る。
「もう召喚はしないのですか?」
「9人までが限界じゃなあ」
スネグーラチカが残念そうに答える。
「いや、もう犠牲者増やすのやめた方がいいよ」
静は冗談交じりに言った。
「そうですか、可能なら諜報スキルのある人が欲しかったんですけどね」
「どこぞの人さらい国家みたいな事いうなし」
「ああ、ジャンヌが言ってたヤツね」
「そう」
パトラはうなずいた。
「法的には微妙なグレーゾーンなのですが、国家の安全を守るには情報機関、諜報機関は必須です」
「アールヴから選抜して人材を集めてみたじゃろ」
スネグーラチカは不思議そうな顔をした。
「それが、まとめる役の人がいないんですよね」
マグダレナが肩をすくめる。
(そっか、最近二人でそういう事をしてたのか…)
静は思った。
「ジャンヌがおるじゃろ」
「基本的な訓練や活動の指針は出せますが、一緒に情報収集したりとかになると難しいです」
マグダレナは答えた。
「ジャンヌさんは戦術や戦略を考えたり戦闘の指揮を執るのには長けてますが、情報活動とは違います」
「潜入とかはムリかなぁ」
ジャンヌは頭をかいている。
性格的に合わないのかもしれない。
「それにパックやその他の氏族から寄せ集めただけだし。
皆、悪戯好きってだけで、臆病な者が多いのよ」
「ふーむ、それは困ったの」
「とりあえず訓練はするけど、近いうちに適任者を探し出さないと」
「うむ、分った」
スネグーラチカはうなずいたが、その表情には不安の色が見えている。
(これ以上、召喚できないなら、他国から呼ぶのかな、でも信用できる人なんているのかね…?)
静は正直、難しいなと思った。
「あとねー、電気関係なんだけど、私じゃもうムリな所まできてるね、機械系も専門の技術者がいないと」
アレクサンドラも渋い顔をしながら言った。
「ま、だからこそ魔法と組み合わせようってことなんだけど」
「頭打ちかえ…」
スネグーラチカは一瞬黙った。
「ないものは仕方ない。できることをやってゆくだけじゃな」
「そう悲観したもんでもないよ」
なんとなく漂っていた空気を吹き飛ばしたのは、クレアだった。
「ローテクにはローテクの良さがある。
高度な技術は確かにあった方がいいけど、それを維持するには下地となる積み重ねがないといけなかったりするし」
「うん? 例えばどんなじゃ?」
スネグーラチカが聞いた。
「ローテクは過酷で劣悪な環境に強い。メンテが簡単だ。
これまで開発してきたものをフロストランドに普及させるのにこうした悪環境やメンテの問題は無視できない」
「ふむ、続けてくれ」
「例えばボイラーと発電機だけど、どっちが修理しやすいかはわかりきってるよね」
「あー、AKとM-16みたいなもんか」
アレクサンドラが言った。
「なんで銃の話に?」
マグダレナがツッコミを入れる。
「ゴ○ゴ13見てないのか?」
「私、マンガは異世界召喚ものばかりだったので」
「脱線させんな!」
クレアは強引に話を戻した。
「それに高度なものをいきなり与えられても戸惑うだけだよ。
スカジさんもそうだったけど電気とか実際に見るまでは、どういうものか分ってなかったじゃない。
分りやすい、環境に強い、メンテがしやすい、という利点を活用してゆくべきなんだよ」
「なるほど、そういう考え方もあるな」
スネグーラチカの表情が少し明るくなってきた。
「あと値段も安いからね、ローテクは」
「ふふふ、それは大事じゃな」
「開発は開発でやるべきだけど、技術を広めるには手順がある」
クレアはまるでプレゼンでもするようにテーブルの周囲を歩き回り、言った。
「この雪姫の町は技術の中心、色んなものを開発してゆく、その中には良いものも悪いものもあるだろう。
その中から良いものを国内へ普及させればいいんだ。
まずはボイラー、次に電気、生活や経済に馴染むよう計画を立ててゆけばいい」
「さすが、経営者。言いくるめるのだけは上手い」
静ははやし立てている。
「エッヘン」
「あ、調子に乗ってる」
「褒めてないぞー」
巴とヤンが野次を飛ばす。
「うむ、よく分った」
それでもスネグーラチカは満足そうだった。
「始めたものはもう止まらぬからのう。悲観している場合ではなかったわ」
「そうそう、その意気だよ」
静が言った。
雪はまだ残っているものの、天気が安定してきた。
スカジやニョルズたちに聞いたら、ちょっと崩れる時はあるものの、通常ならこのまま春まで安定してゆくらしい。
「年に数回だよ、寒波が来るのは」
スカジはやれやれ言いたげに手を振る。
「確か、9日毎に1期って数えていくんだ」
「あー、中国でも冬を1クール9日にして、9クールに分けて数えるよ」
ヤンが思い出したように言った。
「9×9で81日か。長いな」
巴がうーんとうなずいている。
「3ヶ月弱ってところだね」
「まあ、冬が12月から2月の3ヶ月間と考えたら大体あってる気がするなあ」
「ちなみにこの辺ではどういう暦を使ってるの?」
静がスカジに聞いた。
「ん? ああ、1年に12の月があるよ。1月はだいたい30日ぐらいかな?」
「うろ覚えだ、これ」
「めんどくさくて、よく覚えてない」
スカジはプイと顔を背けた。
「ニョルズさんは知ってる?」
「暦ですね、実はこの辺では暦を理解しているのは一部の知識人が多いんです」
ニョルズは肩をすくめる。
「ハイハイ!」
パックが後ろで手を上げた。
「ボク分るよ」
「はい、パック君」
「あのね、元々は月の満ち欠けを使ってたんだけど、ズレるから太陽が大地を一周する間に変えたんだ」
「太陰歴から太陽暦になったんだ」
ヤンがポンと手を打った。
「いや、太陰太陽歴だよ。暦は月の周期を元にしているから、実際の季節とズレてしまうんだ。毎年ズレが大きくなるから、何年かに1回、閏月を入れて調整するんだ」
「あー、中国と似たヤツか」
「毎年、10日くらいズレが出るってのが欠点なんだよねぇ」
「わかりゃん…」
静はアワアワと口に手を突っ込むようにしていた。
「太陽の周期ってのが季節の基準なんだよ。これが大体365日。
でも、月の周期は約29.5日だから、12ヶ月で354日、まあ365日だと考えるね。
365-354は10日、1年で10日ずつズレていくんだ」
パックは平べったい石にチョークで数字を書いてゆく。
元々、パックたちが使っていたものらしい。
「すると3年で30日のズレになるな」
巴が言った。
「そう、3年毎に30日つまり1月足してやると元に戻るワケ」
「……」
静はちょっと黙ったかと思うと、
「太陽歴に変えよう!」
急に叫んだ。
「いきなり変えるのはムリだよ」
「まあね、農作業は皆、これに慣れちゃってるからなー」
スカジが言った。
「話は戻るけど、9期の間に来る寒波はだいたい2期目、4期目、7期目の3回だから、これをしのげばいいんだ。もちろん年によっては変動するけどね」
「ふーん、大自然の力はスゴイネー」
静は最後の方はなぜか棒読みである。
「毎年、館の文官が観測をしていて、その結果で変わったりしますが、だいたいは2~4期は控えて、5~6期の間に活動します」
ニョルズが補足した。
「じゃあ、こないだの寒波は7期目だったのね」
「そうですね」
「春になれば商隊がもっと行き来しますよ」
その商隊がまたビフレストへ出発した。
交通網の整備をするなら今のタイミングだろう。
スネグーラチカはそう判断しており、ソリと馬車を作らせた。
どちらも荷物を運ぶ用のものである。
ソリはトナカイが運び、馬車は馬が運ぶ。
馬は現代のようなスラッとした体つきではなく、ズゴッとした短足の種である。
「ズ○ックと呼ぼう」
「そういうのはやめなさい」
クレアが静にツッコミを入れた。
「ソリや荷馬車を定期的に走らせる。この町と周辺の集落を行き来するコースじゃな」
スネグーラチカは、まずガング商隊と一緒に彼らの拠点集落へ足を運んだ。
静、巴、ジャンヌ、ヤンもそれに同行する。
拠点集落は、茜の丘と言った。
夕日が綺麗に見える丘というのが由来らしい。
なんでもこの地方に伝わる神話にそういう一説があるのだとか。
集落でガング商隊と別れ、ガング商会の拠点に厄介になる。
商会の伝手で集落の有力者たちに話をした。
雪姫であるスネグーラチカに逆らうドヴェルグはおらず、また物資や人が定期的に運べるということで反対する者はいなかった。
「今はソリや馬車だが、そのうち蒸気機関車というものに変わる予定じゃ」
「はー、なんだか分らねけんどスゴイ話だなや」
ガング商会の担当者はビックリするばかりだった。
「そのためにソリや馬車を置いておく場所を作ってほしいのじゃ」
「駅だね」
「うむ、金はこちらが出すゆえ頼んだぞ」
「はい、ご期待に添えるよう頑張りますだ」
とんとん拍子で話は進んだ。
ガング商会の路線は元々行き来があるので、すぐに運送ルートが確立された。
荷物を低賃金で運び、時には人も乗せてゆく。
御者を雇うので、雇用対策にもなっている。
運転資金は徴収した税から出ているので、安い運賃をキープできた。
そうしておいて、別のルートも開発してゆく。
雪姫の町を中心に周囲の集落への運送網ができあがった。
最も欲しいのは燃料となる薪や石炭だ。
ボイラーが普及してゆくにつれて、燃料の需要が高まる。
国内の各地で伐採、採掘される燃料を運ぶルートを作ってゆくのが当面の課題だ。
燃料の発注が増えれば伐採所、採掘所での仕事が増える。
燃料を運ぶことで運送業の仕事が増える。
さらに各集落へ設置した駅は、従来から活動している商隊にも解放していた。
駅に補助を出すことで、利用料金は安く抑える。
政治の中心である館の予算は拡大したが、その代わりに経済が活性化する。
活性化したところで税を取る。
経済が右肩上がりであれば可能だ。
「先に太らせてから頂くってことね」
クレアが悪そうな笑みを浮かべる。
「やっぱブラックじゃないか」
静が突っ込んだ。
「国外から燃料の輸入も進めておる。次の冬までにしっかり備蓄せんとな」
スネグーラチカは意気込んでいる。
なにかしてる時が楽しいようだった。
「泳ぎをやめたら死ぬ魚みたい」
静がその様子を言葉にする。
「誰がサメじゃ、ボケナス!」
「元気だなぁ」
「元気だけが取り柄じゃ」
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