保湿クリーム・秋の味覚

CHOPI

保湿クリーム・秋の味覚

 ドラッグストアの季節商品のコーナー。その一角が制汗剤や日焼け止めクリームの類から保湿クリームの類になっていて、『もうそんな季節になるのか』と、どこか他人事のように思った。棚の一番真ん中に鎮座している保湿クリームを手に取る。もうずっと前、私の子どもの頃からあるロングセラー商品。季節の移ろいを教えてくれる商品でもある。毎年お世話になっているそれに『今年もお世話になります』と心の内で挨拶して、会計のためにレジの方へと向かった。


 ついこの間まで『暑い』と嘆いていたように思うのに、気が付けば『寒い』と口にする日が増えてきた。カレンダーを見ればそれも当たり前のことで、もうあと数週間すれば、いよいよ年末も見えてくる。仕事も繁忙期を迎えるし、年末へ向け、ここまでのんびりした気持ちでいられるのも、もうあと数えられるくらいなのかもしれない。


 ドラッグストアから自宅へと戻り、何気なしにテレビをつける。たまたまついたバラエティ番組は『この秋 おすすめ! グルメ情報!!』などと題打って、秋の味覚を紹介しているようだった。ぼーっと流し見をしていると、秋の味覚の情報が次々と流れ込んできた。その中で一つだけ、鮮明に意識に引っかかった。


『こちらも、秋の味覚でおなじみですね』


 テレビの中の演者がそう言いながら紹介していたのは、脂がのって美味しそうな、きれいにこんがりと焼かれている秋刀魚だった。


 それを見て、『そう言えば、秋刀魚って最後、いつ食べたっけ』と思い返す。確か、実家にいたころが最後なはずだ。何故なら、一人暮らしを始めてからは、魚を焼いて食べる習慣が身につかなかったから。となると、すでに軽く二年は経つ。実家にいたころも、最後の数年間は『なかなか安くならない』と母がぼやくうちに季節が変わって食べられず……、なんてことがあったから、五年くらい食べていないんじゃないだろうか。


 一人暮らしを始めてから、食品の高騰などに敏感になったからよくわかる。秋刀魚はいつの間にか季節が来ると『安くて美味しい』という代表格ではなくなってしまった。どちらかと言えばそこそこの値段で売り買いされる、『ちょっといいお魚』の感じ。



 ――小学生の頃、担任のおじいちゃん先生が言っていた『鰯』の話を思い出す。


『鰯は、先生が子どもの頃は、獲れすぎる魚でね。だけど鮮度が命なのに今みたいに交通網が発達していなかったから、田舎では畑の肥料に大量に撒いていたんだよ。そんな鰯が、今では食卓にあがる頻度が少ないんだからなぁ……』


 社会人になって数年、そう言ってしみじみしていたおじいちゃん先生の言葉をようやく理解する。私にとっては秋刀魚が、そういうものになってしまったんだ。



 変わるものと、変わらないもの。また一つ、自分の中でそれらを見つけて少しだけ物悲しくなった、秋のとある日の事。

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