第5話ばあちゃん
父方の祖父母は亡くなり、母のばあちゃんは98歳まで生きた。
優しいばあちゃんで、認知症なく80代までは畑で野菜を育てていた。
ばあちゃんは離れに住んでいたが、母屋には叔父さんと叔母さんが住んでいた。
ばあちゃん家は、農業で米、スイカ、ネギ、と栽培し農協に出していた。もともと、叔父さんがJA職員だったので、牛も飼っていた。
ばあちゃんちは牛小屋の臭いがして、印象的であった。
叔父さん達が高齢になると、畜産は止めて去年の88歳で農業も引退した。
これが、ばあちゃん家の大まかな説明である。
ばあちゃん家へ行くと必ず、
「もしもし、五十嵐さんですか?ラーメンを一つ」
と、必ず五十嵐ラーメンの出前を取ってくれるのだ。
五十嵐ラーメンは遠方からの客も多く、美味しいのだ。
そして、僕たち兄弟は川に魚釣りにいくのだ。
釣った魚は必ず、僕が鱗とハラワタを取り、ばあちゃん家の台所で素揚げにして、食べて骨は猫にあげた。
平日、身体の弱い僕は病院帰り、母の運転で、ばあちゃん家に行くと必ずばあちゃんは『笑っていいとも』を見ていた。
僕の顔を見るなり、
「もしもし、五十嵐さんですか?」
と、出前を取るのだ。そして、お小遣いをもらう。
それは、僕が高校を卒業するまで続いた。
僕が大学に進学し、久々に鹿児島に戻ると足が無くて、ばあちゃんに電話してみた。まだ、自動車免許をもってない頃だ。
「もしもし、ばあちゃん?元気にしてた?」
「……」
「もしもし?」
「……あ~、今ねテレビがせからしか(うるさい)で、聞こえんかった。もしもし、○坊ね?」
「そうだよ。ばあちゃん、テレビ買い換えたんだって?」
「うん、声がこまんかで(聞こえない)、あたらしかテレビをこうたど」
「どこの、製品なの?」
「日本、すごかどが!(いいでしょ!)」
「……メーカーは」
「メーカー……ヤンマー」
「ヤンマーって農機具のメーカーだがね」
電話では埒が明かないので、後日お土産を渡しがてら、テレビを見た。画面の下の枠には、TOSHIBAとあり納得した。
「もしもし、五十嵐ですか?ラーメンを一つ」
時間は15時半であったのだが、これが儀式だから。
ばあちゃん、天国で今、何してますか?
ヤンマー製のテレビあの世で、見つけましたか?
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