第四章

◇ 未来/4 ◇


 いつの間にか彼女は一人で外に出ていってしまった。


 この雪が降りそうな寒空の下、記憶喪失きおくそうしつによって一人ではまともに過ごすことが出来なくなった人間が、薄着うすぎで街中を彷徨さまようのは危険だった。


 警察にも連絡し捜索願そうさくねがいを出した。


 もちろん自分も走り回って街中を探し回った。


 彼女が自ら命を断とうとする前に、自らの未来の出来事を伝えてしまったのは誤りだった。


 どうして記憶の奥底にしずんだと思った記憶のうち、この部分だけ浮かんできてしまったのだろう。


 彼女に伝えた未来の出来事は、記憶を失った彼女にはそれだけが焼印やきいんのようにこびりついてしまったのだろうか。


 彼女を助けようと思って行動したことが、自らの命を絶とうとさせてしまい、要らない記憶だけ焼き付けてしまった。


 もしもこの映像をおくるなら、日付だけではなく、この後悔も過去におくろう。


■■ 4 ■■


 ピンポーン。


 イマイの部屋のインターホンの音が部屋に響き渡る。


「誰だ……、こんな時間に……」


 イマイが玄関のモニター映像を確認すると、そこには黒と赤のゴシックロリータの服を着た小柄な女性が微笑ほほえみながら立っていた。


「本当に誰だよコイツ……」


 イマイが困惑こんわくしていると、何度もインターホンを押す音が部屋中に響き渡った。


「お知り合いの方かしら?」


「そんなわけないだろ!」


 インターホンが鳴り止んだと思うと、カチャっと施錠せじょうされていたはずのドアが開けられたされた音がした。


「嘘だろ……」


 イマイが呆然ぼうぜんとしていると、ゴシックロリータの服の女性は土足どそくのまま早歩きで室内に入り、帯刀たいとうしていた日本刀を抜いた。


「どうして何度殺しても生き延びる未来が出来るのかしら。死神の手をわずらわせないで欲しいわ」


 ゴシックロリータの服の女性は刀でミライの心臓を一突きした。


 刀を抜くとミライの胸から血液がほとばしり、更に手慣れた動作で刀を一振りすると、ミライの首が重い音を鳴らして床に落ちた。


 ものの十数秒の出来事を、イマイはただ立ち尽くして見ることしか出来なかった。

明らかに今まで見てきた映像とは異質で、救い方が思いつかない光景であったからだ。


 しかし、イマイはその光景を己の眼に焼き付けるとともに、部屋に飾ってある日めくりカレンダーを凝視した。

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