第三章

◇ 未来/3 ◇


 彼女は自宅で首をっていた。


 急いで救急車を呼び、心肺蘇生しんぱいそせい人工呼吸じんこうこきゅうを行った。


 それでも手遅れだった。


 この部屋なら彼女を守れると思っていたが、そんなことはなかった。


 首をるという行為は何も高いところにひもを結ばなくても、ドアノブを使ってでも出来ることを今日知った。


 自らが日付を確認する日が来ることがこんなに辛いとは思わなかった。


 そう思いながら自室にある日めくりカレンダーを確認した。


■■ 3 ■■


「彼女さんはどうして出ていってしまったの?」


 イマイがれたお茶を飲んでだんを取りながら、ミライが話しだした。


「なかなか聞きづらいことを聞いてくるんだね……」


「なんか気になっちゃって」


「そうだな……。俺は彼女にとって重い男だったからかな……」


 ミライはお茶を飲みながらあまり興味なさそうに話を聞く。


「ふーん、そうなんだ。私はあなたのこと悪い人には見えないけどね。でも、重かったってことは彼女さんは貰ってばかりでバランスが取れなくなって、重さに耐えられなかったのかもね」


「……そうだね、今後は気をつけることにするよ」


「そうすると良いと思うわ」


 ミライは暖かいうちにお茶を全て飲み終えた。


「暖かいわね」


「……凍死するつもりだったんじゃないのかい?」


「あぁ……そうだったわ……。あれ……? なんで私って凍死しようとしてたんだっけ……」


「未来が見えるって言ってたじゃないか」


 ミライはうつろな眼で天井を見つめる。


「私ってどうやって未来を見たの……? 何で知ったんだろう?」


◆ 過去/3 ◆


 彼女は自宅で首をっていた。


 急いで救急車を呼び、心肺蘇生しんぱいそせい人工呼吸じんこうこきゅうを行った。


 奇跡的に息を吹き返し、一生開かないと思っていたまぶたが再び開いた。


 しかし、彼女は一部の記憶が無くなっていた。


 忘れたいこと。苦しかったこと。その全てが記憶の奥底おくそこしずみ、再び浮き上がって来ないようにふうをされてしまった。


 彼女を守ろうと、救おうとして伝えていたことが……。


 彼女を苦しめてしまっていたのは、他でもない救おうとしていた本人だったのだ。


 彼女を助けようとすればするほど、彼女のおもしになってしまっていたのだ。

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