第2話 もちろん料理はできません

 買ったお掃除ロボットが美女になりました。



「じゃあ大家さんに話してくるから。お昼とか作れる?」


「はい! さっそく私の出番ですね! 任せてください!」


「あるもの使っていいから。じゃあまた後で」


 そう伝え、俺は一度部屋を出た。


***


「すいません。205号室の織井です」


「おお、織井君か。どうした」


 大家さんに同居人が増えることを伝えるため、アパートの管理室に来ていた。


「同居人が増えることを伝えに来たんですけど。許可って下りますか?」


「全然いいよ。書類とかも特にないから、家賃だけいつも通り払ってね」


「ありがとうございます」


 大家さんは快く承認してくれた。


「いやぁ、もしかして彼女かい? 」


 大家さんがニヤニヤしながら聞いてきた。


「えーっと、彼女というかメイドというかロボットというか……」


「ん???」


「とりあえず人間です。安心してください」


「そ、そうか。ならいいんだが」


「できればその人間には会わないでください。それでは」


「(何々?怖いよ織井君!)」


 用件を済ますと、驚く大家さんを片目に翔は自室に戻っていった。


「も、もしかしてヤバい人入居させちゃった?」


***


「ただいま」


「あ! おかえりなさい翔様!」


 部屋に戻ると、キッチンの方からメイの声が聞こえてきた。


 ん? なにやら香ばしい匂い……いやちょっと待て。

 なんか焦げ臭くね?


「まさか……」


 火事なのではと焦った俺は、急いでキッチンに向かった。


「あ!ちょうどご飯できましたよ!」


 そこには笑顔でフライパンを片手に持ったメイがいた。

 黒い煙を上げて。


***


「えーっと……これは一体」


 食事をするための机にメイが作った料理と思われるものが置かれている。

 自分が座る席と向かい合わせで、少し赤面しているメイが様子を伺っている。


「オ、オムライスです……」


 え? オムライスだったのかこれ?


「あれ……オムライスってこんな焦げ茶色だったっけ?」


「え!? いや~ちょっと焦げたぐらいが美味しいんですよ?」


 目めっちゃ泳いでるやん。

 絶対美味しくない……けどせっかく作ってくれたし、もしかしたら見た目がダメなだけまも知れないしな! きっと大丈夫だろう!


「じゃあいただきます」


 備え付けのスプーンで思いっきり口に頬張った。


「……」


 うん! 不味い!

 だがここで正直に言うほど俺はひどい男ではない。

 向こうが察してくれるようなリアクションをするのだ。


「よ、よく頑張ったな!」


 あえて味の感想を言わず、少し涙を流しながら満面の笑みを浮かべる。


 これなら流石に察してくれるはず。


「もしかして……私天才?」


 ダメだ伝わんなかった。


「元がお掃除ロボットだから、てっきり掃除しかとりえないと思っていましたけど、まさか泣くほど美味しいなんて……」


 美味しいとは言ってない。

 でも本人驚きすぎて、ここでカミングアウトは流石にかわいそう。


「これからは私が料理を作りますから! 楽しみにしててくださいね♪」


「……はい」


 次作る時から監視しよう。


「じゃあこの後はこの家のことを教えるわ」


「ルールのようなものですか?」


「そうそう。メイのことについても色々教えてほしいし」


 お掃除ロボットに充電式だったらどうしよう。


「そんな!わ、私のことを隅々まで知りたいだなんて……」


「言ってないです」


***


 とりあえず、我が家のルール的なものや、メイのこと、これから2人でどう暮らしていくかなどを話し合った。


「じゃあ食事や睡眠、体の構造は人間なんだな」


「はい。なんとなくですが」


「それも今度調べるか。ってか保険証とかも……考えるのやめよ。最悪お掃除ロボットですって言えばいっか(?)」


「?」


「いや何でもない。色々喋っていたらもう夕方だな。飯の準備するか」


「それなら私が!」


「お前はするな座ってろ」


「まあ交代制ですし、明日の朝ご飯は私が作りますからね」


「分かってるって」


***


「美味い!」


 作った料理を2人で食べる。


「まあほぼ自炊で1人暮らししてたしな」


 同級生には振舞ったことはあるしな。


「と、特別に!私の料理とか手伝っていいですからね……」


 赤面した彼女は、もじもじしながらそう言った。


 自覚はあったんだ。

 俺の迫真の演技力返せ。


「そういえば服とかどうする?寝巻もないだろ?」


「今着ている服も含めて私なんで、問題はないんですけど」


「超便利じゃん」


「翔様がお望みとあればもっと攻めた格好を……」


「待て待て服を脱ぎだすな」


 どうして彼女はこんなに頭がお花畑なんだ。


「じゃあ、服とかの希望とかあれば言ってくれ。日用品はすぐ揃えるから」


「何から何までありがとうございます」


「いいっていいって。俺はもう食い終わったから、先風呂入ってるわ」


 いつの間にか、翔は夕ご飯を食べ終えていた。

 メイはまだ3分の1ほど残っている。


「もう入るんですか?」


 時刻を見ると、まだ7時を過ぎた辺りだった。


「今日はなんか疲れたからな。風呂入ってとっとと寝る。食べ終わったら流しに皿置いとけよ」


 そう言いながら自分も流しに皿を置く。

そのまま脱衣所に向かう。


「分かりました!私も食べ終わったらすぐに向かいますね!」


「ん???」


「え?私も入りますよ?」


「なんで当たり前のように言ってるの?頭の中真っピンクやん」


 その後、なんとか風呂に入ろうとするメイを止めたることができた。

 寝る時は、ベッドが1つしかないので、メイをそこに寝かせ、自分はソファで寝ることにした。

 添い寝すると駄々をこねていたが無視した。

 早く家具も揃えないとな。



続く

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