第42話 逃走④
確認した周囲の状況を文香に共有するべく、足音を立てないように戻った。
「・・・文香、周りを見てきたけど、
出口の周辺は結構な数の見張りがいた。
その代わり、今いるここら辺は安全かも。」
「そか。ありがとう。」
お礼を言うと共に文香は何か思案を始めた。
解決策を考えているのだろう。俺もいい方法がないか探してみる。
その間も遠くの方でザリ、ザリ。と砂を蹴る音が聞こえる。
もしかしたらここも安全とは言えなくなるかも。
それでも解決策はなかなか出てこない。
絶対に文香を救ってみせるとカッコつけたくせに。情けない。
今のこの状況を見て、作戦の計画はうまくいかないことの方が多いと気付かされた。今気付いても遅いけど。
「・・・結局さ。あの壁を越えないと外に行けないよね。」
唐突に文香が指で周りを囲む壁を指した。
そこにそびえ立つ壁は、高く高くそびえ立っている。
俺たちの行方を阻むように、私は文乃の味方だと言うように。
途端に、不安が大きくなってくる。
果たして本当に脱出できるのか。
……やっぱり俺では文香を助けることができないのか。
……いや、こんなところで不安に思っている場合じゃない。ここに来る前に立てた作戦はあまりその通りにいかなかったけど、実際今俺の隣には文香がいる。
あと少しで、文香と笑って過ごせる日常が手に入るんだ。
そのために、急いで何か案を出さないと…!
そんな時、どこからか微かにだが複数の女性の声が聞こえてきた。
一瞬、バレたのか?!と背筋が凍る思いをしたが、すぐにこの換気口が女性用のトイレに繋がっていることを思い出す。
「━━━。またいなくなったらしいよ。今も男の従業員たちが探し回ってるみたい。」
「ひぇー。文乃さんも大変だねぇ。最近娘が戻ってきたっていうのに、まーた逃げられちゃうなんて。」
「まぁねー。
……でもしょうがないんじゃない?
私、昔からここで働いてるけど娘ちゃんに対する仕打ちみたいなのとか見てられなかったもん。」
「えぇー?!そんなにひどかったの?!」
「そうなの!あの時なんか━━━」
……話を聞く感じ、どうやらここの女性従業員らしい。
もしかしたら、何かわかるかもしれない!
あまり期待はできないが、できるだけ情報が欲しい今は非常にありがたかった。
「━━━。それにしても、全然見つからないみたいね。
もうパーティー始まってるのに、主役がいないんじゃ盛り上がらないからなぁ。」
「ね!このまま見つからなかったら中止になるかもしれないし、私たちの仕事も減るんじゃない?」
「え、もしそうなったら招待された方々をお見送りしたら今日はもう終わりってこと?!」
「うわぁ!それだとめっちゃいい!!」
「よーし!もうひと頑張りしますかー!!」
その言葉を最後に、声はだんだん遠ざかっていった。
文香はいないが、パーティーはすでに始まっている。か。
主役がいないのにも関わらず、むしろ今までよくもったなと思う。
しかし、これはいいことを聞いた。
やはり主役のいないパーティーは盛り上がりに欠けるようだ。
つまり、このまま隠れ続ければさっきの人たちが言うようにパーティーは終わり、招待客も帰るだろう。
それに乗じて、どうにか外に出られないだろうか。
………いや、無理だな。
文香がいない今、警備はより厳重になっているだろう。
これはむしろ、より状況が悪くなってるとしか言いようがない。
どうすればいいんだ。出口はあの門しかないし、周りの壁は高くて登るのが難しい。
正面突破をしようものなら、大きな男たちに捕まるだけだ。
……もしかしたら、ここから脱出する方法はないのかもしれない。
そこでふと、俺は無意識のうちに文香の顔を見ていた。
文香は、自分でもどうしようもないことに気づいてしまったのかもしれない。
その表情は、悲しみに満ち溢れている。
そして、俺の視線に気がつき、
『迷惑かけてごめんね。』
とでも言うように、悲痛な笑みを見せた。
……あぁ…。そんな顔をしたらダメだ。
いや、俺が、文香にこんな悲しい表情をさせたらいけない。
俺は誓っただろ?文香に笑顔でいてもらうって。
考えろ。まだ何かあるはずだ。なんでもいい。何か…!!文香が昔のような母親に支配されるのはダメだ……!
━━━━ん?昔みたいに?
そういえば、さっきの女性たちはなんと言っていた━━━?
『私、昔からここで働いてるけど娘ちゃんに対する仕打ちみたいなのとか見てられなかったもん』
━━はっ!
「文香……!今日の招待客ってどんな関係の人たちがいるんだ?」
「え?
えっと、、昔からお父さんたちと関わりがある人たちかな…?」
「なるほど。
それで、その人たちは昔の文香を知ってるのか?」
「ううん……。どうだろう。
少なくとも私はあまり面と向かって会ったことはないかな。」
「…わかった。教えてくれてありがとう。」
……文乃さんは、今日の招待客に昔の文香の姿を見せなかったのか。
それなのに、娘が主役のパーティーを開く理由がよく分からないが。
だけど、確率は高くないが、ここを出られる可能性が出てきた。
リスクは相当高いし、今までの行動が無駄になるかもしれない。
だが、俺たちにはもうこれしかない。
考えた案を文香にできるだけわかりやすいように伝えた。
「……っ!」
文香もそれにはだいぶ困惑したようだ。
しかし、次第にこれしか方法が見つからないことを理解したのか。決意したような表情を見せてくれた。
そうと決まった俺らは、通ってきた通気口を戻っていき、パーティーが行われている会場まで、歩いていくのだった。
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