第39話 逃亡①

「……なぜあなたがここに…?」


文乃さんは、信じられないものを見るかのようにつぶやいた。


隣の文香も、何故??といった顔をしていたが、その表情の中に嬉しいという気持ちが現れていた。


「……!


…とりあえず、こっちに来なさい。」


どこからか足音が聞こえ、文乃さんは慌てたように先程まで俺がいた部屋に入る。


流石に俺の姿を他の参加者には見せられないという思いからだろう。


俺もその後に続いた。



「………で?


どうしてあなたはここにいるの?

…どうして、ここへ入れているの?」


「……なんとか、警備の目を盗んでここに侵入しました。」


将也さんの助けがあったとはとても言えない。

将也さんに責任が課されるのは、俺としても嫌だ。


「……あの警備たちは何をやっているの…?何のための警備なのよそれは。」


文乃さんは何かぶつぶつと呟いている。


「…宗則くん……!」


すると、その間に文香が俺の方へ駆け寄ってきた。


「…助けに、来てくれたの…?」


「…うん。

…色々あったけど、、、やっぱり文香が誰かに取られるのは嫌だなって思って。


………いや、それにしても、ものすごくきれいだ…。」


文香の身を包む純白のドレスは、文香の清楚な雰囲気を強調させ

薄く施されたメイクは、文香の持つ元々の可愛らしさに少しの大人っぽさを感じさせた。


「へへ・・・。ありがと。


自分でやったわけじゃないけどね・・・。」


文香は頬に手を当て、嬉しそうに微笑んだ。

久々にこんな文香を見ることができて、俺としてもうれしい。


しかし、そんな一瞬の幸せもある一声で現実に引き戻される。


「・・・ちょっと?二人の世界に入らないで。


・・・宗則君、、だったかしら、せっかくここまで来て貰っておいて悪いけれど、あなたにはここから出て行ってもらうから。」


文乃さんは着いてきていた男たちに指示を出し、男たちもそれに従おうと俺の方へ歩み寄ってくる。


いきなり詰みそうになり少し焦った。

そんな俺は、懇うように言った。


「ちょっ、ちょっと待ってください!!


せめてもう少し時間をいただけませんか?

俺がここに来たのは、あなたと話をするためでもあるんです!」


しかし、文乃さんの表情はかわらない。


「残念だけど、もう時間がないの。

ここまで侵入できたことだけは誉めてあげる。


だから大人しく帰りなさい?」


ダメか・・・。


なら、、、、逃げるしか無いよな!!


男たちが俺を捕まえようとする寸前、俺は部屋の出口へ向け走った。


「・・・!」


驚く文乃さんたちを置き去りに、文香も俺の後に続く。


文香の横に立っていた男たちが俺の方に近づいたことにより、文香も動くことができたのだ。


「・・・!もうっ!!

今すぐに捕まえなさいっ!!」


後方からイライラした声がしたが、俺たちは構わずに走る。


長い廊下を走って、角を曲がり、また走る。

それがなんだか、この状況なのに楽しく感じた。


まるで、同じような経験をしたことがあるように。

どこか懐かしさを感じるのだった。


〇〇〇〇〇〇〇〇


後ろからの追手の足音が聞こえなくなり、行ける!と思った時

進む先に複数の男たちがキョロキョロと俺たちを探していた。


すると文香がすぐそこの扉を開け、中に入る。


「・・・ちょっとここでやり過ごそっか。」


「・・ああ。そうしようか。」


気づかれぬよう、小さな声で会話する。


「・・・。」


ああ。少し落ち着いて改めて思う。


助けに来てよかった。と。


先日まで、姿を見ることができなかった文香が目の前にいる。

とても綺麗で、やっぱり好きだな。誰にも取られたくない。

そんな独占欲すら湧いてくる。


「・・・宗則くん。」


すると、扉の方を向きながら文香が声をかけてくる。


「・・・どうした?」


「さっきさ、色々あったって言ってたじゃん。


どんな事があったのかなって。」


そう聞く文香の表情は見る事ができない。


「・・・。」


俺は一度文香を助けに行くことを諦めていた。

そんな後ろめたさから、口を開く事ができない。


「・・・私ね、実は宗則くん助けに来ないかと思ってたの。」


心臓が跳ねる。


「というか、助けに来てほしくなかったって言うか。

・・・別に信用してなかったわけじゃないよ?


ただね、あの時すごく辛そうだったから。


宗則くんが気を失っちゃった時、もうこんな思いはして欲しくないって思ったの。


・・・でも・・・。」


すると文香がこっちに顔を向けた。

・・文香は、泣きそうな顔をしていた。


「私がお母さんに連れて行かれそうになって諦めてた時に、

宗則くんが目の前に現れて、すごく嬉しかった。


助けに来てくれたんだって。あんなに辛そうな顔してたのにって。」


そうやって、微笑んでくれるが俺は申し訳なさが込み上げてくる。

一回諦めた俺が感謝されていいものかと。


「……だからさ、宗則くんが助けに来てくれる前にあった色々なことが私に対して後ろめたいことなら、そんなの気にしないで欲しいな。


最終的に私の前に宗則くんは来てくれたんだから。結果論だよ。私にとっては助けに来てくれた事実の方が大事。」


それでも文香は嬉しいと笑ってくれた。


なんだか、俺が助けに来たはずなのに文香に

救われてばかりの気がする。


……なら俺は、どうすれば文香の力になれるのだろう。

それを考えながら、俺は感謝を伝えた。

信じてくれてありがとう。と。



「……足音、聞こえなくなったね。

そろそろ、出てみる?」


「あぁ。

…だけど、だいぶ時間も経ってしまったし出口付近は待ち伏せしてる可能性が高い。」


そして俺は、将也さんから教えてもらったマップを文香に見せた。


文香はどうしてこのデータを持ってるの?と驚いたような表情を見せたが、すぐにそのマップを覗き込んだ。


「どこか警備の薄そうな場所はある?

覚えてる限りでいいんだけど。」


「……う〜ん。私ちっちゃい時は基本的に自分の部屋にしかいなかったからあんまり……。」


ふむ……。まぁ、あればいいなと思っただけであまり影響はない。

なら、このマップ上でなんとか抜け道になりそうなところはないか……。


上から下へ、右から左へ、満遍なく目を運ぶ。


しかし、待ち伏せされていなさそうな出口は見つからなかった。

それでも、何かないかとマップを凝視していると、2箇所ほど違和感を感じる部分が見つかった。


基本、この会社は等間隔で部屋がある。

こんなに多くの部屋が必要なのか?というほどに。


きっとそのおかげで今も俺たちは見つかっていないのだと思う。


しかし、自分たちが今いる部屋から少し離れたところと、一階にあるトイレのすぐ横に不自然な「間」があるのだ。


まるでそこに何かがあることを表しているように。


それを文香に伝えると、


「……あ!

ここ私知ってる!」


しばらく考えた後、何かを思い出したかのように顔を輝かせた。


「ここね。私がお母さんから逃げる時によく使ってたの。


お父さんが教えてくれたんだけど、ここって

非常脱出口になってて……。

確かここに繋がってるはず!」


そうして文香は一階トイレのそばを指で示した。


……最悪トイレから脱出すれば…いける…?


いや、無理だとしてもこれが1番可能性としてはあるだろう。


階段は抑えられているだろうし、そもそも下の階へ行くことができない。


つまりもう下に行くにはこれに頼る他ない。


そうと決まれば、俺たちはこの目的地へ向けて静かにドアを開けてこっそり、ゆっくり進んでいった。


ただ気になることがあるとすれば、トイレと書かれた場所がやけに広いことだった。










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