第40話 逃亡②

静かな廊下、聞こえるのは自分たちの微かな

足音だけ。


そのことから追手は近くにいないようだ。


きっと出口付近や階段、エレベーター周りで俺たちのことを待っているのだろう。


それは俺たちにとって都合が良かった。

警戒をすることに越したことはないが、すぐに捕まるかもしれないという緊張がいくらかマシになるのだ。


特に苦労することもなく目的の場所へ着く。

しかし、見る限り壁に扉みたいなものはなく

非常脱出口のようなものは見当たらなかった。


それでも文香は


「……ここだよ。お母さんも従者な人も知らない、私とお父さんだけが知ってるもの。」


そう言って壁のある部分に手を当てて、

そのままゆっくりと力を込めた。


すると、壁だった所がわずかに奥へ押し込まれ

る。


文香がそのまま何かを捻るような動きをすると、


目の前には人間一人が余裕をもって通れるくらいの扉が姿を見せ、文香もそこへ入り俺に対して手招きしてくる。


「……なにここ……。ロマンがありすぎる…。」


中は如何にもという感じで、無機質な狭い空間となっている。しかし、これこそがよく映画などで見る限られた人しか知らない場所なのだ。


結梨と秘密基地を作るくらいには、こういうものが好きな俺は、ただただテンションが上がっていた。


「ほら、宗則くん。こっちだよ。」


そんな俺に微笑み混じりに声をかける文香。

それにごめん。と軽く謝罪を入れ後をついていく。


コンコンコン……と軽い足音を鳴らしながら、文香はどんどん進んでいく。


中には微かな光しかなく、ほんの少し前しか見えない。

そんな道をしばらく進むと、文香が声をかけてきた。


「ここら辺からちょっと下りになったり少し斜めに進んだりするから気をつけてね。」


「おう。わかった。」


忠告ありがたい!と思いつつ、ここまで文香にリードしてもらってる事実にほんの少し恥ずかしさを覚えた。

しかしそれも、この会社の構造を理解してる文香に任せた方がいいということも事実なのだ。


という、言い訳をしておく。


それからは文香に言われた、若干下りになっている場所でコケそうになったり、壁にぶつかりながらもなんとか進んでいった。


まあまあな距離を進み、文香が声を出す。


「・・・ついたよ。


ここがあのマップにあった場所。

ここを出たらすぐ真横にお手洗いがある。」


そして俺たちはこの暗い空間から少しだけ明るい廊下へと出た。

素早く周囲に誰もいないことを確認し、トイレへと入る。


あとは男性用トイレか女性用トイレ、どちらから脱出するかなのだが、


「・・・宗則くん。悪いけど私男性のお手洗い入ったことなくて、どこに窓あるか分かんないからこっちで・・・。」


すぐに決まった。この際どうでもいいことなのだが。


恥ずかしさを捨て、女性用のトイレへと入った。


しかしこの会社はトイレまで豪華にしないと気が済まないのか。

豪華とは言っても別にシャラシャラしているわけではない。

ただ、バカみたいに広いのだ。


それこそトイレの個室が一つ一つ広めの感覚で配置され、言っちゃあれだが生理用品も完備されている。なんかもうすごいしか言えない。


驚く俺に対して、文香は少し恥ずかしそうに


「・・ここ、すごいでしょ。あっちも同じくらいすごいらしいよ。


・・・あと、、、あ、あんまりジロジロみないで・・・?」


頬を赤らめながらそう言った。


「わ、悪い!!」


流石に俺も恥ずかしさが勝り、こっちまで顔が熱い。


いや!顔を赤くしている場合じゃない。早く脱出しないと。


そして気持ちを切り替え、さあ外へ続く窓を探すぞ!

と言うときに、文香から驚きの真実が明かされた。


「・・・ちなみに、ここのお手洗いに窓はないよ?」







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