第38話 2人は近づく②

暗かった廊下に微かな光が見えてきて、話し声が聞こえてくる。


そこの角を曲がれば、おそらくパーティー会場への入り口になっているだろう。


俺は角からひょこりと顔を出し、様子を窺った。


そこで見たものは、ビシッとスーツを着こなした男性や、彩りのあるドレスに身を包んだ女性たちの姿だった。


「…うっわぁ。

……わかっちゃいたけど、俺、めちゃくちゃ場違いな格好だな…。」


一応それっぽい格好をしてきたつもりだったが、いざそれを目の前にすると明らかに

華やかさに差があった。


まぁ、ここまで来たからには後に引けない。

あとはどのようにして文香に出会うかなんだが・・・。


あまり他の参加者に見つかりたくない俺は、

文香がこの会場に来る前に何とかしなければならない。


「だけど、文香はどこにいるんだ……?」


そこが問題だった。


会場の近くまでくれば文香の姿があるかもしれない。と考えていたのだが、残念なことにその姿は見えない。


……すでに会場に入っているのか?

いや、まだ開始時刻でもないしこのパーティーの主役は文香だ。遅れて登場するに違いない。


なら、控室が近くにあるはずだ。そこを探すしかないだろう。


確か将也さんが教えてくれた地図によると、控室になりうる部屋がたくさんあるのだ。


そこをしらみ潰しに探せばいつか会えるだろう。


そんな脳筋が過ぎる作戦も、何故かうまくいく気がして仕方がなかった。


〇〇〇〇〇〇〇〇


……それにしても、不思議なものだ。


さすがの俺でも、参加者の一人くらいにはばったり遭遇するかも。と考え、念のためそれっぽい格好をしてきたのだが、今のところ声をかけられることは一度もない。

それに、使用人や警備に見つからないのもどこかおかしい気がするのだ。


まぁ、それが一番いいんだけど。


ただ単に、会場の近くにその人たちが集中しているだけかもしれない。


「……うーん。」


しかしこの建物は本当に広い。


何よりも部屋の数が多いのだ。

これじゃ開始に間に合わない━━━


そう思った時、近くでエレベーターがこの階に着いた音が聞こえた。


やばっ!人が来る!


俺は近くの空いていた部屋へと急いで入った。

そのまま壁に背を預け、なんとかやり過ごそうとする。


「……危ねぇ危ねぇ…。間違ってもこの部屋に入らないでくれよ…?」


コツコツと足音が聞こえ、だんだんとこちらへ近づいてくる。


俺は息を潜めた。


「━━━。」


話し声がする。よく聞き取れない。


「━━━さい。━━━から。」


話し声も大きく聞こえ、内容もわかるようになってきた。


パーティーのことについて何かわかるかも。と俺も耳を澄ませてみる。


「━━━━━文香。」


「━━━うん。分かったよ。」


「……え?」


今、文香の声が聞こえたような。


いや、今のは絶対に文香の声だ。


俺はそれを認識した瞬間、隠れていることも忘れて部屋から飛び出してしまった。


「文香っ!!」


「・・・?!」


「……え?!宗則くん?!」


俺の登場に、文香と文乃さんは親子らしい、同じタイミングでよく似ている驚いた顔を見せた。。









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