第35話 希望

「話してくれないかな?」


優しい声で言ってくれた。


「はい。ありがとうございます。」


だからこそ、何の躊躇いもなく相談ができるというわけだ。


「・・・以前話していた、桜ヶ崎についてなんですけど。


近々パーティーが行われるのを知っていますか?」


「あぁ。知っているよ。


なにやら、娘さんが帰ってきたらしいね。」


ちくりと胸が痛む。


「・・・はい。そうなんです。


そして実は、僕はその娘さんとお付き合いをさせてもらっていました。」


「ほう。」


「その子は、、帰りたくなかったはずなのに無理やり連れて行かれたんです。


だから僕は、もう一度彼女を連れ戻したい。


もう一度、彼女の素敵な笑顔が見たいんです。」


願いを口にする。なんだかこの人なら、力になってくれる気がしたから。


俺の願いを聞いた男性は、しばらく顎に手を当て何かを考えていた。


「━━それで?君はどうやってその子を連れ戻すというのかな?」


顎に手を当てたまま、目線をこちらへ向けてくる。

なんだか面接を受けているような気分だ。


「はい。開催されるパーティーに乗り込んで、彼女を連れて一緒に逃げます。」


「ならば、計画は?」


「・・・まず、━━━━。」


言うべきかは悩んだが、俺は立てた作戦を伝えることにした。


「・・・君は本当にそれが可能だと思っているのかい?」


「・・・少なくとも、今の段階では無理でしょう。


何より、問題点が多すぎる。


だから今日、あなたに何か助言をいただきたくてこのカフェに来たんです。」


「ふむ。」


すると、また何かを考えるように黙ってしまった。


ありがたい話だ。


俺の為に、考える時間を作ってくれて。


まだ一度しか会ったことのない俺に、こんなにも真摯に対応してくれるなんて。


「・・・うむ。


まぁ、君の計画は悪くはないと思うよ。


・・・しかし、それは全てが上手くいったらの話だ。


むしろリスクの方が高いだろうね。


・・・それでも君は、これをやるのかな?」


「もちろんです。リスクを恐れていたら助かる者も助かりません。


それに、どうせ1発勝負ですから。

今の俺に、これ以上の作戦は思いつきませんよ。」


「・・・ふふ。

それは面白いな。


・・・わかった。ならば私も協力するとしよう。

できることは少ないだろうが、力にはなれるはずだ。」


「っ!


本当ですか?!ありがとうございます!」


これはとても嬉しい。


この人が味方になるのは、ものすごく心強い。


桜ヶ崎をよく知るこの人となら、文香を助けることができる確率が大幅に上昇する気がする。


「さて、助言をする前に、お互い名前を知らないだろう?せっかくだから自己紹介しないか?」


男性が言った。


「あ、はい。そういえばそうでした。


僕は榊宗則です。ええと、カフェラテが好きです。」


こんなもので良かったかな。


「うん。


私は将也まさやだ。よろしく頼むよ。」


将也さん、か。かっこいい名前だ。


「それじゃあ、私から宗則くんに、助言をしてあげよう。少しそのパソコンを貸してくれ。」


そう言って将也さんは俺からパソコンを借り、カタカタと打ち込み始めた。


しばらくして、将也さんはパソコンの画面をこちらに向ける。


そこには、大型ショッピングモールなどでよく見る、道案内の看板のようなものが映っている。


「・・これは、パーティーへ招待された方々へ向けた案内みたいな物だ。」


そのまま指でなぞりながら説明してくれる。


「ここが入り口。

まぁ、看板が立ててあるだろうからすぐにわかるよ。


そしたら━━」


将也さんはそこに配置されるであろう警備の数、そして万が一の隠れ場所、そして警備が薄い所を細かく丁寧に教えてくれた。


「━━後は君の立ち回り次第だね。」


すごい。問題点が次々に潰れていく。


「ありがとうございます。


これで大分スマーズに動けると思います!」


が、俺はどうしても疑問を持たざるを得なかった。


「・・・けど、、、。


一体どうして、将也さんはこんなにも桜ヶ崎に詳しいんですか?


普通、警備の数とかわからないはずでは。


それに、俺たちの為にそこまでしてくれる理由がわからないというか、、、。」


「・・・・ふふ。


どうしてだろうね。それは君の想像にお任せするよ。


けどね、ただ一つ言えることは

私は君たちの味方だということだ。」


「・・・それなら、とても心強いです。」


結局、詳しいことは教えてくれなかったが

少なくとも味方であると言ってくれたのはとても嬉しい。


「・・・さて、そろそろお暇させて貰おうかな。


私にも仕事があるのでね。」


「あ、すいません。時間を取らせてしまって。」


「いや、いいさ。


私も君と話せて久々に有意義な時間を過ごせたよ。


それじゃ。また会えるといいね。」


そう言って、将也さんは席を立った。


「あ!ちょっと待ってください。


今回話を聞いてくださったお礼にコーヒー代を払わせてください。」


「はは。


君は店員さんに、私のことを年下に奢らせるようなひどい男だと思わせるつもりかい?


ここは私にかっこをつけさせてくれたまえ。


この年になるとこれくらいでしか格好がつかないのでね。」


結局将也さんは俺の分まで代金を支払い、カフェを後にした。


・・・すごいなぁ。


話を聞いてもらうまで、不安でいっぱいだった気持ちが、今はなんだか成功する気しかしないんだから。


頼もしくて、余裕があって、優しい。


憧れるな。


それにしても、君の想像にお任せする。

か。


実は将也さんも招待されてるのでは?


くらいしか想像できないな。


「とにかく、ありがたい話も聞けたことだし後は俺にできることをやるだけだ。」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


彼は、以前出会った時よりも大きくなったような気がする。


あの時は、嬉しいことがあったのか浮かれた様子だった。


しかし、今日会ってみて色々な決意を読み取ることができた。


私は彼に、どこか自分に似た何かを感じ、


手を貸したくなってしまった。


私の立場的にはそれは望まれていないことなのだけれどね。


しかし、愛とは素晴らしい。


愛のためなら、人はなんだってできてしまう。


「・・・さあ、君は私からの情報を、アドバイスを、どう活かすかな?」


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