第33話 私の思う、あなたが

あれから家に帰った俺は、息も切れたままの状態でパソコンを開く。


冬真の部屋で考えた作戦の一部を、メモに書き出していった。


それに加えて以前カフェで話した老紳士がくれた情報や、自分で調べたことなどを用いてそれに次ぐ作戦を考えたり、さらに詳しく桜ヶ崎グループのことを調べたりもした。


その結果、本社の所在地や、警備の数といった情報を手に入れる事に成功した。


さらに、桜ヶ崎グループは建設会社の親会社にあたるらしい。

子会社もいくつかあるようで、これまで興味が無かったから分からなかったが、

案外大きな会社だったようだ。


しかし、


「だが、、、こんだけ大きな会社なのにも関わらず、どうして文乃さんは文香を

嫁がせようとしているんだ・・・?」


これだけがどうしても疑問だった。


何か理由があるのか、一般人の俺にはわかるはずもない。


「ま、考えてもしょうがないか。


あの人の命令で俺がひどい目にあったのは、紛れもない事実なのだ。きっとろくな理由じゃないだろ。」


そう考えることにして、作戦の完成度を高めていく。


だが、正直まだまだだと思う。


相手は一応、桜ヶ崎グループのトップにいるのだ。

生半可なことじゃ返り討ちにあうだけだろう。


つまり、これは一回勝負の可能性が高いのだ。


一度失敗すれば警備も多くつくだろうし、結婚なども早まるかもしれない。


だからこそ、失敗のないような作戦を立てたいのだ。


「・・・う〜ん。しかしどうすればいいんだ…。」


それでも、現実は厳しく考えは難航していた。


ある程度の動きは定まったのだが、どうしても難易度の高い箇所が3つほどある。


1つ目は、警備をどう攻略するかだ。


ネットの情報によると、敷地内の出入り口には多くの警備員が雇われているらしい。


そこを突破しなければ、文香の顔すら見ることができないというわけだ。


そして2つ目。 文香の居場所が分からない。


そう、連れて行かれた文香が一体どこにいるかが分からないのだ。


連れて行かれた時の口ぶりからするに、恐らく

建物内にいることは間違いないのだが、きっと部屋も多くて見分けがつかないだろう。


最後に、3つ目。  もし、文香を連れ戻すことに成功した後のことだ。


たとえ、成功したとしても今度は文乃さんの方が連れ戻しにくる可能性は非常に高い。


そうなるとしたら、今度こそ文香を守れるようにしたい。

だが、現状どうするかは思いついていない。



その後もこの3つについて、重点的に考えるのだが、なかなかいい案が思いつかない。


・・・やっぱ、俺には無理なのか、、、?


と考えてしまう気持ちに、気付かないふりをして頭を働かしていく。


そんな状況の中、ポケットから音がした。


ヴー!ヴー!ヴー!


誰かからの着信がきたようだ。


その相手は、、、もう案の定というか

結梨だった。


「・・・もしもし?」


『・・・何か言いたいこと、ある?』


・・・あー。


冬真のやつめ、ちくりやがったな。


まぁ、どうせ近いうちに言おうとは思っていたのだが、なんせあんな電話の切り方をしてしまった手前、ちょっと気まずさを感じてなかなかできていなかったから別にいいんだけど。



「いやー。その。


・・・あの時は、、かっこ悪いところをさらけ出して、悪かったよ。

酷いことも言ったかもしれない。


本当にごめん。」


とにかく、俺は謝った。声を荒げて結梨を不愉快にしたかもしれなかった。


しかし結梨は


『別に謝って欲しい訳じゃない。


兄さんに罵倒されたって全然傷つかないし。』


「あぁ……。そうなのね・・・。」


それは何というか、、複雑ですわ……。


『私が言って欲しい言葉は謝罪じゃないよ。


せっかく立ち直ってくれたんだもん。

だったら絶対文香さんを連れ戻さなきゃ。


・・・私の言いたいことわかる?』


・・ここでわかるって言ったら嘘になるなぁ。


いや、何となくはわかるつもりなんだけどさ。

確信が持てないというか。


『だから、、、私にも何かできることがあれば言って…?


私も、力になりたい。』


結梨は手伝いたいと言ってくれた。


しかし、兄としては妹を巻き込みたくないという気持ちももちろんある。


だが、俺はわかっている。結梨は関わるなと言って引くような女の子じゃない。


なら、素直に頼った方がこちらも結梨も嬉しいことだろう。


「あぁ。助かる。ありがとう。


……それに、あの電話の時も俺に怒ってくれてありがとう。


おかげで大事なことに気づけたよ。」


少しの照れを交えつつ、素直に感謝を伝えた。


それに対して結梨は


『うん!じゃんじゃん頼っちゃって!


私、任されたことはしっかりやる女だから!』


「はは。それは頼もしいよ。さすが俺の妹だ。」


『ふふん!でしょー?』


こうやって、笑いながら話すことができて良かった。

これも懐が深い結梨のおかげかな。


本当に俺は、周りの人に恵まれてるな。


『━━━じゃ、そろそろ切るね。


またなんかあったら兄さんの方から連絡して。

絶対だよ?絶対ね。』


「おう。

また連絡する。絶対にな。」


バイバイっ!の声と共に電話が切れる。


なんだか体が軽くなったような感覚だ。


やはりどこかで結梨に対する想いがあったのだろうか。


なにはともあれ、仲直りすることができてよかった。


今度こそは、結梨にかっこいい姿を見せてやりたいな。


そのために、問題点の対策をしないと。


〇〇〇〇〇〇〇〇


「バイバイっ!」


そう言って電話を切る。


兄さんは冬真さんの言った通り立ち直ってくれたみたいだ。


良かった。


…良かったけど、立ち直るきっかけを作ったのは冬真さんなんだよね。


やっぱり親友ってすごいな。あの兄さんを立ち直らせるなんて。


でもでも、私はわかってたよ?兄さんならやってくれるって。立ち上がってくれるって。


……ただ、そのきっかけが私じゃないだけ。


「ははは。何考えてんだろ。」


そんな時、あの時兄さんからもらったアイリスの香水が目に入った。


私はそれを手に取り、手の甲に軽く吹きかける。


優しくて、いい匂い。


……兄さん。兄さんはひどいことを言ってごめんって言ったよね。


そして、私は全然傷つかないしって言った。


兄さん、お前に何が分かる?!って言ってきたよね。


そんなの、から言ってたんだよ?


なんでかわかる?


兄さんは忘れっぽいから覚えてないだろうけど、昔兄さんは私に言ってくれたんだよ。


「━━俺、結梨が泣いてるの見るの嫌だ。


だから俺、結梨に悪口言わない。


泣かしたやつはぶっ飛ばす。」


って。


小さい頃の記憶かもしれないけど、私はちゃんと覚えてる。


だからあの時兄さんに言われた言葉は、私を貶す感情が感じられなかった。


まぁ、私がそう思っただけで実は貶してたりしてるかもだけど。


だとしたら、最後のは効いたかもね。

幻想を押し付けんなってやつ。


でもそんなの私な勝手だと思う。


妹というのは、やっぱり兄がかっこいい姿を見せてくれるのが嬉しいからね。


私のことが大事なら、それを行動で示してね。


お兄ちゃん。












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