第32話 親友のお前が
━━なんだか、ぽわぽわとした感じがする。
だが、正直俺はこれがなんなのかわかってる。
そう。これも夢だ。
今まで何度も何度もこの体験をしてきた。
そしてその度に、このようなぽわぽわした感覚を感じていたのだ。
おおかた、作戦を考えているうちに眠ってしまったらしい。
さて、今回はどんな夢なんだろう━━━
「━━━?どうしたの?のりくん。
何か言いかけていたみたいだけど。」
なるほど。これは冬真の部屋に運び込まれた時に見た夢の続きか。
・・・うん。やっぱりこの子を誰にも取られたくないな。
「・・・いや、なんでもない。
ただ、、俺は文香のことが大好きなんだなって思っただけだよ。」
「え?!
ちょ、急にそんな事言うのやめてよ!」
頬に手を当て、自らを仰ぐ文香の姿はとてもキュートだった。
「・・・・でもありがとう、、、。
私も……私ものりくんが大好きっ!」
そう言って間も無く文香は恥ずかくなったのか、先に走り出してしまった。
そして大分進んだ先でこちらを振り返り、
手を振っていた。
・・・まるで、遠くに行ってしまった文香が『私を迎えに来て』と言っているように。
・・・文香。一度は諦めようとしてごめん。
そして、待ってて。
すぐに迎えに行くからね━━━
━━━━。
やっぱり、夢だった。
けれど、この夢のおかげで俺は覚悟をしっかり決めることができたと思う。
いつか、この夢を現実にすることができるように。
そして俺は冬真に一言、お礼を言ってから色々と準備をしに帰ろうと思ったのだが、冬真は家にいなかった。
どこか買い物にでも行っているのだろうか。
流石に鍵を開けたまま帰るのも悪いかなと、
冬真が来るのを待つことにする。きっとすぐに帰ってくるだろう。
一応、メールだけ送っておいて待つ間は暇になるだろうから、冬真の部屋を色々見て回った。
思えば、あの日以来だな。冬真の部屋に入るのは。
卵粥を作ってやったっけ。
あ、これは俺と行った千葉ダズニーの写真だ。
改めて見てみると、グッズやら思い出の写真などが多く飾られている。
・・・ん?これはなんだ?
しばらく写真などを眺めていると、何故か一枚だけ大切そうに写真カバーがつけられた物を見つけた。
裏を見てもカバーの裏がそもそも白いので見ることはできない。
少し気になった俺は好奇心から写真を取り出してみてしまった。
「・・・これは…。」
そして、そこにはなんと満面の笑みでピースをする冬真と、その隣で微かに笑う文香の姿が写っていた。
「・・そういえば、文香のオススメの店に行った時、久しぶり。とか言ってたな。」
あの時は、2人の関係について詳しく聞くことはできなかったけど、こうしてツーショットを撮るくらいには仲が良いのかな。
それにしては、2人とも気まずそうだったけど・・・。
すると、玄関の方から音がする。
冬真が帰ってきたのだろうか。
足音がどんどん近づいてきて、部屋の扉が開けられる。
そこにいたのはやっぱり冬真だった。
「おっ?
・・・やけにスッキリした顔してるな。
まさか、助けに行くとか言わないよな?」
開口一番、俺の顔を一点に見つめ聞いてくる。
それに対して俺は
「・・・あぁ。行くよ。
あんなに情けない姿を見せて、何を今更って感じだよな。
でも、冬真に言われて気づいたんだよ。
・・・やっぱり俺は、、文香を誰にも取られたくない。
文香が、、金持ちの、俺よりも良い男に貰われるのが悔しい。
文香は、俺が幸せにしたい。」
自分の気持ちを冬真に伝えた。
「だから、それに気付かせてくれてありがとう。
体を動かすきっかけを作ってくれて、ありがとう。」
頭を下げたので、冬真がどんな顔をしてるのか分からない。
今更なんだよって、怒ってるかもしれない。
よく決意したと笑っているかもしれない。
当の冬真は、何も言わない。
・・・い、いつまで頭下げてよう、、、。
すると
「・・・まぁ、お前ならそうなるよな。」
「え…?」
「いや、なんでもない。
俺、感謝されるようなことはしてないよ。
最終的に決めたのは宗則だ。そこは自分を誇るべきだよ。
・・・それに、俺は別に良い奴なんかじゃないからさ。
ありがとうなんて言わないでくれよな。」
そう言った冬真は、笑っていた。
「ほら、行くんなら早く行ってやれよ。
あと、感謝するなら結梨ちゃんにな。
俺の手が必要になったらすぐに言ってくれ。」
そのまま急げ急げと、俺の背を押してくれた。
・・・マジで、ありがとな。冬真。お前はやっぱり良い奴だわ。
心の中でそう呟き、俺は走り出した。
○〇〇〇〇〇〇〇〇
「・・・・行った、、か。」
宗則は、一度決めたことをなかなか曲げないタイプだからな。
あのまま、ずっと横になるのかとヒヤヒヤした。
・・・でも、そうか。
そこまで、あいつにとって文香ちゃんの存在は大きいんだな。
部屋に戻り、宗則が寝ていた場所の片付けをする。
その合間、机の上に写真が出されていた。
「へー。懐かしいな。あいつも、これを見て懐かしいとか思ってたんかな。」
その中に、カバーのついた写真を見つける。
……あぁ。これは。
『━━━ 冬真に言われて気づいたんだよ。
━━━気付かせてくれて、ありがとう。』
・・・宗則。俺は本当に良い奴なんかじゃないよ。
あの時、お前にかけた俺の言葉は、慰めるために言ったんじゃない。
なんなら、俺はお前に、ずっと諦めたままでいて欲しかった。
横になったままの、かっこ悪い宗則でいてほしかった。
・・・そうしたら、俺にもまだチャンスがあったんじゃないかって。
でも、宗則は立ち上がった。
文香ちゃんを誰にも渡さない。と、宣言した。
その瞬間、思ってしまった。
・・ははは。
きっと、こういうところなんだろうな。
俺がこいつに勝てないところは。
だから俺は背中を押すことにした。
俺の分まで頼むって。
お前の知らない、俺の想いを託すように。
ごめんな。宗則。
俺も、文香ちゃんが好きだったよ。
けど、俺じゃ本当の意味で文香ちゃんを救えない。
だから、頑張れよ。宗則。
俺の親友。
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