第31話 挑発

「そのままの格好で聞いてくれても構わないから。」


冬真は、俺が聞いた中で1番真面目そうな声で言った。

冬真にも、また何か言われるのだろうか・・。


「・・お前のその様子だと、、結梨ちゃんでもお前を立ち直らせることができなかったみたいだな。」


「・・・。」


「・・・でもな。俺、思うんだ。


別に無理をする必要なんかないんじゃないか?って。」


「え?」


意外だった。てっきり、男としてここでクヨクヨしてるのはクソ野郎だ。とか言われるかと思っていたのに。


冬真は、無理をする必要はないんじゃ。とそう言ったのだ。


「お前のその様子だと、きっと文香ちゃんは

手の届きそうにないところまで行ってしまったんだろう?

だったら、今更お前が行ったところで逆に身が危ない。


もしそうなったら、文香ちゃんの叔母さんが言っていたように責任なんて取れないしな。」


「・・・。」


「だから・・俺はもうこのまま文香ちゃんのことを忘れてもいいと思うんだ。」


「・・・っ!」


忘れる。という単語に、思わず身がビクッとする。


しかし、冬真は話を続ける。


「ぶっちゃけさ、あくまでお互い他人な訳だろ?


俺は逆に、どうしてそこまで頑張る必要があるんだ?って思う訳だ。


そこには確かに愛があるのかもしれないけど、結局は自分の体が1番大事なんだよな。


・・別に文香ちゃんも酷い扱い受けるとは限らないし、むしろいつかお前よりいい男と結ばれるかもしれない。」


冬真の話を聞いていると、なんとも言えない、ムズムズした感じになる。


・・・なんだか、文香がどんどん遠くなっていくような…。


「はははっ。もしそうならむしろ助けに行かない方が文香ちゃんにとっていいんじゃないか?」


・・・っ!




・・・なんだよ。


なんで、そんなこと言うんだ?



・・・どうして俺は、、、




「・・・まぁ、俺が言いたいのはこれだけだよ。


いつまでもそこで横になってて構わない。


そして、文香ちゃんのことをゆっくり忘れていけばいいさ。」


それだけ言って冬真はまた部屋を出て行った。



静かになった部屋で、俺は何を思っているんだろう。


色々な想いが、頭を駆け巡る。


文香と出会って今まで、俺はすごく楽しかった。



文香の笑顔を見るのが好きだし、サプライズに驚く顔も好きだ。


逆に、サプライズを考えてくれたり、叔母さんの為に頑張ってる姿も好きだ。


気づけば、俺の頭の中にはこれまで目にしてきた文香の好きな部分がどんどん溢れている。


本当に、運命を感じるレベルで。



・・・だが俺は、文香を助けに行くのが怖い。


また大きな男に押さえつけられて、次からは監視がつくようになるかもしれない。


結局何も出来ずに、俺の家族たちに影響が出る可能性が怖い。


だから俺は、結梨に俺の弱い部分を曝け出してしまった。




だけど、さっきの冬真の話を聞いて思った。


・・・


・・・姿


この二つの思いは、恐怖に勝る怖さがある。


ならば、俺はより怖いことから逃げてやる。


『責任が取れないって、責任を取らせないように何の問題もなく文香さんを連れ戻せばいいだけじゃない?』


か。


はは。ほんとに結梨はわかってるな。


・・・そうだよ。責任を背負わせなければいいんだ。


むしろ、ここで文香を諦めてしまったら

責任が取れなくなるからな。


よし。やってやるぞ。

もう一度、文香の笑顔を見る為に。


しかし、無策では二の舞になるだろう。

念入りに作戦を立てなければ。


やる気が満ち溢れ、俺は早速近くにあった冬真のメモ帳に作戦を書き綴っていった。








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