第29.5話 何もできない、自分が嫌いだ②

・・・虚しい夜だ。


千紗さんに帰ってと言われ、ブラブラと目的もなく歩き続け、俺は公園に着いていた。


・・・いつの間に夜になったんだろう。


ベンチに腰を下ろし、そんなことを考える。


周りでは、未だに雨が降り続け騒がしい音を立てている。


「・・・・。」


どうにかして、迷惑をかけることなく文香を助けられないだろうか。


頭の中はそのことでいっぱいだった。


しかし


こうすればいいんじゃないか。


いや、それだとうまくいかない。


じゃあこうすれば。

・・・ダメだ。きっと逆効果だろう。


案を出しては却下して、また案を出しては却下するといったことの繰り返しになってしまう。


そんな俺自身に、自信が持てなくなった。


・・・・俺は、大切な人を守ることすらできないのか。


雨で濡れた体が、余計に心を冷たくする。


「・・・寒いなぁ・・・。」


〇〇〇〇〇〇〇〇



「━━━くん。」


・・・?


「━━━りくん。」


・・・なんだ?


この声、どこかで・・・


「のりくん。」


・・・え?


「もう、どうしたの?


いきなり倒れるように寝ちゃったけど。」


・・なんで、文香が・・・?


「・・・?本当にどうしたの?」


え・・。だって、文香は・・・


「・・・私がどうかしたの?」


い、いや。なんでもないんだ。


(なんでなんだ?文香って文乃さんに連れて行かれたはずじゃ・・・?)


「・・?変なのー。


ま、いいや。行こう?」


あ、ああ。


(・・・これはきっと夢だ。

文香に会いたいという俺の願望が夢となって現れただけだろう。


・・・ならせめて、夢の中でくらい、文香との時間をもう一度楽しみたい。


・・・守れなかった罪悪感を、少しでも和らげたい。)




「━━━ついたー!


花采かさいシーワールド!」


ここは、、、水族館?


「うん。私、海の生き物が大好きなの。


だから、のりくんと来れたらいいなってずっと思ってたんだ。」


な、なるほど。俺も文香と来れて嬉しいよ。


(この水族館、、以前文香と来たところと同じだよな。


夢でまた、文香と水族館に来たかったってことなのか?)


「・・・?どうしたの?早く行こうよ。」


お、おう。

ごめんごめん。



「見て。この大きな水槽。噂によるとジンベエザメがもうすぐここに来るらしいよ。」


そ、そうなんだ。

俺ジンベエザメ好きだから楽しみだよ。


「わかる!私も好き!のっぺりしてて可愛いよね!」


(・・・楽しそうだな。本来だったら、2人でこんな風に笑えていたのにな。)


「あ。見て!あっちでラッコの赤ちゃんが見れるらしいよ!行こ行こ!」


(・・・文香。

ごめんな。守ってやれなくて。現実のお前は

文乃さんに連れて行かれたんだ。

ごめん。ごめんな。)


「おーい。のりくーん?こっちおいでー?」


・・・文香。俺じゃお前を幸せにできないと思う。だから俺とはもう━━━





「━━━。」


見慣れない天井だな。


「・・・お?


なんだ?目、覚めたのか?」


「・・・冬真。


なんで、俺はここに?」


「そうだよ!お前どうしたんだ?いきなり大学休んだかと思えば、土砂降りの中公園のベンチで倒れてたんだから!


俺が雨宿りしようと公園に行かなかったらやばかったぞ絶対。」


なるほど。冬真が俺をここまで連れて来てくれたのか。


「なんか、訳があるのか?


ずぶ濡れで、あんなところに倒れるなんて宗則らしくないぞ。」


「・・・まぁ、色々あんだよ。」


文香とのことは話したくなかった。

詳しい話も、当時を思い出してしまいそうで話す気になれない。


「・・・何か事情があるのは分かったよ。

無理に聞こうとも思わない。


・・だけどよ。もし、1人で抱えきれなくなったら俺を頼れよな。」


「ああ。ありがとう。」


冬真はいいやつだな。


・・・もし、こいつが文香の彼氏だったらあんな状況でも文香を助けることができたのだろうか。


力だけは強い男だ。もしかするかもしれない。


あーあ。ダメだ。比較しちゃ。どんどん自分が惨めになる。


「・・・悪い。ちょっと電話。」


そんな俺に気を使ったのか、冬真は部屋から出ていった。




・・・なんか、考えるのも嫌だから、もう一度夢へ逃げよう。


俺は再度布団に潜った。


しかし、目を瞑ると余計に考えてしまい文香を連れて行かれた現実は、どこまでも俺を逃さない。


情けない。瞳が熱くなってやがる。

やめろ。流れるんじゃねえ。

もっと惨めになってしまうだろ。


溢れた涙は止まらない。


流れた涙の数だけ、自分が嫌いになる。




そんな時、ふと俺の携帯が鳴った。


・・なんだよ。こんな時に。


そして、画面に表示されたのは



結梨ゆうり


の文字だった。





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