第29.0話 何もできない、自分が嫌いだ①

「━━━ん。」



ここはどこだ?


どうやら、女の子の部屋のようだが、、、。



・・・確か俺は、文香に会うためにケーキ屋を訪れたはず━━━━






━━━━っ!!


「文香はっ!?」


慌てて部屋から飛び出し、広い家を探し回る。


しかし、文香の姿はなかった。


「・・・宗則くん。」


「っ!


・・・千紗さん。文香は・・・?」


俺の問いに、千紗さんは無言で首を横に振った。


「そんな・・・。」


・・・守る。って、約束したのに。

大丈夫だ。って、俺がいるから。って、

伝えていたのに。


俺が何をした?


ただただその場にいて、無様に捕まり気絶させられ、情けないことこの上ない。


「・・・宗則くん。そんな顔をしないで?


・・・本当は私が守ってあげないといけなかったのに。

昨日、宗則くんをここに来てはダメだって、止めるべきだったのに。


・・巻き込んで、ごめんなさい。危険な思いをさせて、ごめんなさい。」


「いや、、、辞めてくださいよ。頭を下げないでください。

ここに来たのは僕の判断でしたし、文香を守ると誓っていたのに何もできませんでした。彼氏なのに、、、。」


クソ。自分で言ってて情けなくなるな。


しかし、千紗さんは頭を下げたまま


「・・・それと、ごめんなんだけど、



もう、私たちに構わない方がいい。

・・これ以上、宗則くんに迷惑をかけるわけにはいかない。」


と言ってきた。


「え。」


「これは私たちの問題だから。


私も私で文香をもう一度姉さんの手から解放してあげたいと思ってる。

だから心配しないで、宗則くんはいつものように大学へ通って、普通の生活をして?


もし文香を取り返せたら連絡するから。」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。


俺も、文香を解放させてあげたいです!

手伝わせてくださいよ!」


「・・いえ、これ以上宗則くんに何かあったら、あなたの親御さんに顔向けできない。


気持ちだけ受け取っておくから。ありがとうね。」


「っ!


納得できません。俺にも何か━━」


「━━もういいから!!」


大きな声が俺の耳に響く。


「これは私たちの問題だって

言ってるでしょ!?


赤の他人に何ができるって言うの!?


あなたが行っても、同じように男たちに捕まえられて突き返されるだけ!

それであなたに何かあったら責任なんて取れない!


あなただけの問題じゃないの!」


ハァ、ハァ、ハァ。と息切れをしながら、すごい剣幕で千紗さんが叫んだ。


「・・・怒鳴ってしまってごめんなさい・。


でも、本当にもうこの問題に関わらないで。


ここは大人に任せて、今日はもう帰りなさい。」


普段温厚な人が怒ると怖い。というのは本当で、俺はしぶしぶその言葉に従い、介抱してくれたお礼を言って、ケーキ屋を後にした。


空は灰色に染められ、俺たちの気持ちを表すようだった。


・・粘ることもせずに、千紗さんの言葉に従った理由は、単純に言い返すことができなかったからだ。


言われた言葉は全て俺に突き刺さり、反論の余地も与えなかった。



俺に何ができるんだ。

俺の力はこんなにもちっぽけだったのか。

甘くみすぎていたな。

何もできなかった。

弱い。

悔しい。



頭の中でネガティブな思いがぐるぐると回る。

しかし、そう思ってても文香は帰ってこない。


〇〇〇〇〇〇


・・・俺はどうすれば良かったのだろう。


単純な力では、全く歯が立たなかった。


なら、作戦をしっかり立てておくべきだった?


いや、きっと文乃さんの方が一枚も二枚も上手だっただろう。


実際、文乃さんはかなり前から従者を送り込み、淡々と作戦を練っていたに違いない。


いっそ警察にでも相談するか?


ダメだ。文乃さんは一応、桜ヶ崎の社長みたいなものだ。

一般人の俺が通報したところでどうにもならないだろう。


・・・もう、全てにおいて俺に勝ち目なんて無かった。

絶望だ。俺には何もできない。


・・・クソッ。


そんな俺の心を表すかのように、ザーザーと空が音を立て始める。


全身に降り注ぐ冷たい雨が、異様なまでに心地よかった。



「・・・・ここは大人しく、千紗さんが何かをしてくれることを祈るしかないのかな。」


自分の無力さが嫌になる。



降り注ぐ雨の中に、いつのまにか流れていた

俺の涙が混じった。





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