第28話 私は本当にあなたが嫌い。
私の、運命が決まる日。
私の望みはずっとちーちゃんのお店で働いて、自分でもケーキを作れるようになって、
また宗則くんにいらっしゃいませ。って、
好きだよ。って伝えたい。
だけど、私一人じゃお母さんには勝てない。
また、お母さんの道具として使われるこのになってしまう。
だから、本当は嫌だけど多くの人の協力をもらわないといけない。
みんなごめんね。そしてありがとう。私の為に。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
今日、俺は大学を休んだ。
冬真に体調が悪いと伝えておいてくれと伝言を残し、朝早くから文香の元へと赴いた。
俺が着いた時は、まだ誰も来ていなかった。
さすがに朝早くということはなかったか。
少し安堵していると、文香がお店の後ろから出て来た。
「おはよう。宗則くん。
朝早くにわざわざ来てもらってごめんね。
さ、入って。」
「おはよう。でも、文香も早く起きたんだな。かなり早く来ちゃったから近くで待ってようと思ってたんだけど。」
「うん。やっぱり眠れなくてさ。
そしたら外から音がして、覗いてみたら
宗則くんがいたの。」
だよなぁ。実の母が連れ戻しに来るって宣告されてる当日だもんな。
俺でも眠れないかもしれない。実際あんま眠れてないし。
「なら、ちょうど良かったな。お邪魔します。」
そしてそのまま開店時間が来るまでを
文香の部屋で過ごした。
あーあ。こんな日じゃなかったらテンションも今より上がってたのにな。
しかし、開店時間になり文香がレジに立つことになっても、一向に姿を現さなかった。
さすがに営業中は来ないのかとも思ったが、油断はできない。
俺はずっと邪魔にならないようなところで、見張った。
だが、結局閉店時間になり、他のお客さんも帰ってしまった。
周りに家があるわけでもないので、シンと静まり返る。
すると、まさにそれが狙いだったかのように黒塗りの車が店の前で止まる。
さすがに大事にはしたくなかったようだな。
千紗さんも、文香も外に出てその車を見つめる。
後部座席のドアが開き、中から人が出てくる。
ピシッとしたスーツに身を包み、やたら美人な女性だ。
「・・・っ!」
「・・・あの人が、文香の・・・。」
確かに、どこか面影がある。
すると、隣に立っていた文香が堪えきれなかったように、今まで聞いたことのない声で言った。
「今更なんのつもり!?
何なの?!あなたに2週間だけ猶予をあげるって!!
私はあんたの道具じゃない!!
来ないでって言ったじゃん!!」
しかし、文乃さんはその言葉を無視して
「久しぶりね、千紗。
今日まで文香のお世話をありがとう。
別れの挨拶は済んだかしら?」
千紗さんにそう言った。
「ほんと、久しぶりだね。姉さん。
今までろくに顔も見せなかったけど、どういう腹積もりかな?
残念だけどお別れをするつもりはないから。」
それに対して千紗さんも言い返す。
「そう。
まぁ、言っておけばいいわ。
・・・ところで、、あなたはもしかして、文香の彼氏さんかしら?」
といきなり俺にも視線を向けて来た。
「・・・はい。あなたの娘さんと、お付き合いさせていただいてます。」
「えぇ。聞いているわ。
初めまして、桜ヶ崎文乃です。」
と、俺に対し軽く礼をした。
そこだけ見れば、しっかりした人なんだ。
と思ってしまうのが、この人はちゃんと偉い
人物なのだと再確認させられる。
「・・・でもね、悪いのだけれど、今日を持ってお別れしてちょうだいね。
この子には大切な事が待っているから。」
それ対し、俺はすぐに反論しようとするが
「嫌!私絶対別れたくない!!
あんたの決めた人となんか付き合わないから!」
横から文香が叫んだ。
その言葉から察するに、文香は母から決められた人と結婚なんかをさせられそうになっていることが分かった。
「はぁ・・・。
・・文香。あなたに拒否権はないでしょう?
そもそも、私はあなたの為に言っているのよ?
私が選んだ殿方と結婚すれば、安定した暮らし、裕福な家庭が築けるの。
ほら、その為にあなたが幼い頃から、あなたを素敵な女性にしてあげようとしたんじゃない。」
うわ。出た。毒親あるあるの、あなたの為。とかいうやつ。本当に当てはまるんだ。
しかし、確かに内容を聞けば悪い話ではないのかもしれない。
「嘘つかないで!あんたのそれは私の為じゃない!
私をより大きな会社の御曹司と結婚させて、
あわよくばそこの会長に気に入られようとしてるんでしょ?!」
しかし、それを聞いてもし事実なのだとしたら
文香を利用しようとしてることになる。
「あら。心外ね。
例え気に入られたとしても私にメリットなんかないわ。
だから、これは私の為じゃなくて、本当にあなたの為なのよ。」
「今更あなたの為って言われても信じられる訳がないでしょ?!
本当に私の為だって言うのなら、あの時も伝えたけど、もう私に関わらないで。
あなたが私にしたことと・・・あの子にしたことは紛れもない事実なんだから。
・・私は自分で決めた人と結婚します。
だから、帰って。」
最初は声を荒げていた文香も、後半になるにつれて何かを思い出したのか勢いがなくなる。
そしてそのまま涙を流した。
「・・・ほら。文香もこう言ってるんだからさ。大人しく引き下がったら?
・・もし帰らないなら警察呼ぶよ?」
千紗さんが文香を抱き寄せ、姉に対して脅しをかける。
これで引き下がってくれたらありがたいんだけど・・・。
頼むからマジで帰ってくれ!
「・・・・・ふふふ。」
文乃さんはしばらく黙ったあと、口に手を与え小さく笑った。
「・・・残念ね。ええ。非常に残念。
・・・ねぇ。文香。千紗。私が帰れと言われて帰る女だと思ってる?
2人ならわかるわよね?
つまり答えはノーよ。」
文乃さんがそう言うと同時に背後から黒のスーツに身を包んだ男たちが、俺たちを羽交締めにした。
「ちょっ!離しなさいよ!」
「いや!辞めて!」
2人が嫌がって暴れている。
俺もどうにか脱出しないと!
「くそっ!離せ!このっ!このっ!」
精一杯暴れて、バックエルボーや足を思いっきり踏んづけたりするも、男はびくともしない。
しかし、一体どこから・・・?
・・・・はっ!そういえば。
以前文香たちの家に訪れた時、怪しい男がいたことを思い出した。
まさかその時に隠れておくところを探していたのか・・?!
クソっ!やられた・・・。
「あなたが素直に言うことを聞いて、着いてくると言うなら、手荒なマネはしないであげる。
・・・さぁ、どうするの?文香。」
ダメだ。文香、断ってくれ!
俺はどうなってもいいし、千紗さんにまで手荒なマネをするつもりはないだろう!多分!
「っ!
・・・・・嫌!もうあなたのところには行きたくないっ!!」
よし。
「・・・そう。
本当にいいのね?」
しかし、文乃さんの表情がより意地の悪いものに変わり・・・
「あの時のように、なってもいいのね?」
「・・・っ!」
そう言った途端、文香の顔が一気に暗くなった。
何だ。何が起きた?!
「いいの?文香。昔から言ってるわよね?
あまり人を待たせないのって。
ほら、早く決めなさい。」
「・・・。」
さっきまでの威勢が嘘のように、文香は黙ってしまった。
それに、文乃さんが言っていたあの子って━━
「もういいわ。
あなたたち、やってしまいなさい。」
「え?」
すると俺の視界が反転した。
次の瞬間、背中に強い痛みが生じた。
「いっづ、、、!」
同時に上から強い圧力で押さえつけられる。
「嫌!やめてぇ!」
「っ!あんた!それだけは本当に駄目よ!!」
文香と千紗さんが慌てている。
え、俺なにされんの?
そうしているうちに、どんどんかかる圧力は大きくなっていく。
「━━━ぐぇ。」
やば、息が、、、。
「━━━━!」
クソ、、、。段々、意識が、、守るって、、約束したのに、、まだ、、、なにも、、、。
薄れゆく意識の中で涙を流す文香を最後に、
俺の意識は完全に途絶えてしまうのだった。
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