第27話 いつでも私を見守るあなたが


「よ。宗則。」


「おう。おはよう冬真。」


朝、大学にて昨日会った顔と今日も対面した。


「てかお前、いつの間にいい感じの子ができたんだよ。」


「あー。あの子な。

・・・サークルの後輩だよ。後輩。」


「あれ、お前サークル入ってたっけ。

遊んでるイメージしか無かったわ。」


「だろうな。ほぼ、出席してなかったし。」


「ん?ならなんで。最近は参加してんのか?」


「そういうことだな。」


へー。冬真ってサークル入ってたんだ。

俺と違っていいなぁ。


ま、俺は文香のところに行くという楽しみができたから全然入る気ないけど。


そこで俺は一つのことを思い出した。


「あ、それよりさ、文香とお前どこかで会ったことあるのか?なんかお互い知ったような口だったけど。」


その問いに対し


「え?・・・あー。なんて言えばいいのか、、、。


・・・・・難しいな。すまん。」


なんだか歯切れが悪い。

しかし、ここで深掘りしても意味はないと悟り


「そうか、、、。まぁ、いい。言葉にできるようになったら教えてくれよ。」


「おう。」


大切な友人だからこそ、無理に聞こうとも思わないけど、できれば隠し事も無しにしたい。

けど、誰だって秘密はあるから。


いつかおしえてくれればそれでいい。


「宗則。」


「ん?なんだ?」


「・・・いや、なんでもない。


じゃ、これから頑張れよ。」


そう言って、冬真は離れて行ってしまった。


これから頑張れよ?それが何に対することなのかわからなかったが、とにかくこれから起こる問題に向けてと捉えておくことにする。


〇〇〇〇〇〇〇〇


午後3時、大学が終わり俺はすぐに文香の元へ向かうことにした。


確か文乃さんが文香に与えた猶予が、もうすぐで終わる気がする。

ということは、直で連れ戻しに来る可能性があるからな。

それに、従者らしき者たちを最近目にする。


とにかく心配でしょうがない。 


早く向かわないと。



・・・今のところ、何の問題もなく着くことができた。


早速入店する。


心地よい鈴の音と共に、いらっしゃいませー!

と元気な声が聞こえてくる。


「こんにちは。」


「あ!こんにちは!宗則くん。いらっしゃいませ。」


俺の顔を見るや否や、嬉しそうに俺を迎えてくれた。


「今日はショートケーキにしようかな。

一つお願いします。

で、店内で食べます。」


とりあえず今日は、イートスペースで文香に近づく怪しい者がいないか監視することにした。

その際、違和感のないようにケーキも頼んでおく。

・・・まぁ、普通に食べたいのも事実だけど。


「はーい!かしこまりました!

でしたら、あちらのお好きな席でお待ちください!」

と、対応する。


なんだか出会う前に戻ったようで、ちょっと

エモくなった。


俺は1番レジが見える席に腰を下ろし、ケーキが来るのを待つ。


しばらくすると、文香がショートケーキと一緒にカフェラテを運んできた。


「お待たせしました。


・・・で、これはサービスね?結構甘くしておいたから、それでも足りなかったらそこの砂糖でも入れてね。」


と小声で言った。


甘党の俺の為に甘いカフェラテをサービスしてくれるなんて・・・おぉ、神よ、、。


「・・ありがとう。わざわざごめんな。」


「ううん。いいの。お客さんの足も少なくなってきたし。


・・それに、私のために来てくれたのが、申し訳ないと思いつつもやっぱり嬉しかったから。」


ありがとう。とだけ言い、文香は勤務に戻っていった。


俺が来たことで、少しでも気が楽になってくれたのだとしたら、来て良かったな。



あれからしばらく、様子を見ていたが今のところ目立った奴はいない。訪れるのは女子高生や、老夫婦ばかりで気になる人は現れない。


そんなことから、今日はもう大丈夫かな。と思っていた矢先に、スーツを見に纏った男が3人ほど、入店してきた。


こう言ったら偏見になるかもしれないが、こういうケーキ屋に、見た目の厳つい男が入店してくるとは思えない。それも、3人で。


流石に怪しいと思った俺はこそーっと近づいてみることにした。


「━━。━━━。」


何かを話しているようだが、よく聞こえない。


文香は強張った表情で対応している。


一体何を話しているんだ?もう少し近づいてみるか・・・?


しかし、そんな考えも3人の内の1人がこちらに睨みをきかせてきたことによって断念せざるを得ない。


しかし、見つかったならもうコソコソする必要はないだろう。

 

「すいません。追加を注文したいのですが。」


俺は真正面から向かっていった。


すると男たちは顔を見合わせ、何かを話し


「どうぞ。」


と言って去っていった。


その後、携帯を耳に当て誰かと連絡をする姿を最後に、男たちは消えた。


「・・・ありがとう。来てくれて。」


「うん。

それで、どんな話をされたんだ?」


「・・・えっと、お母さんからの伝言で、

今のうちに周りの人たちへ別れの挨拶を済ませておきなさい。

だって。」


「なんだって?もう連れ戻す気まんまんじゃないか。

いつ頃来るか分かるのか?」


「・・・明日、だって。

何時に来るかは分からない。」


「そうか。・・・なら、明日は俺も大学休むよ。」


「え?!それはダメだよ!宗則くんの将来に

関わることだし!」


「いや、別に大丈夫だよ。一日休んだくらいで置いていかれるような勉強はしてない。


それに、約束しただろ?文香を守るって。」


彼女を守る。と歯の浮くようなセリフに自分でも少し恥ずかしくなったが、それ以上に守りたいという気持ちは強かった。


「・・・ありがとう。私のために。

ごめんね。」


文香も申し訳なさそうな顔をしながらも、嬉しさを隠しきれていなかった。



その後、俺はそろそろいい時間ということで

プリンタルトをお土産に帰ることにした。


「それじゃ、また明日。」


「うん。また明日ね。おやすみ。」


すると


「あら?宗則くん帰っちゃうの?

明日休むなら泊まっていけばいいのに。」


千紗さんがひょこっと顔を出した。


「あ、こんにちは。


お気持ちはありがたいのですが、何も準備できていないので。」


「そう?そんなに気にしなくていいからね。


ごめんね。家のことなのに。

私もできるだけ抗いたいんだけどね。」


千紗さんはそう言いながら申し訳なさそうに頭を掻いた。


その雰囲気から、猫の手も借りたいような状況になっていることがわかる。


「いえ、気にしないでください。俺がやりたくてやることなんで。」


「うん。ありがとうね。じゃあせめて家まで送らせて。」


止める間も無くちょっと待ってて。とまた戻っていく。


「・・あはは。さっきバイバイしたのに。


でも、もう少しだけ一緒に居られるね。」


「お、おう。そうだな。」


明日が運命の日だというのに、文香と2人きりでお互い恥ずかしがるようにテレテレしてるこの瞬間は、なんの緊張もなく、ただただ幸せだった。


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