第23話 ころころ変わるあなたの表情が

ちゃんと後から写真を撮り直し、

今度はいい笑顔ですね〜!と店員さんの太鼓判を押されたことで、短い撮影会は終了した。


「さ、ちょっともったいないけど、食べよっか。」


「お、おう。

・・・ほんとにこれ、食べていいやつ?」


「当たり前じゃん!逆に食べないと!」


あまりにも完成されたケーキにフォークを通していいものかと心配になる。

ほんとにこれ食べ物か?芸術作品では?


「もう、じゃあ私から食べちゃうからね?」


そう言って文香は、慣れた手つきでケーキにフォークを通す。


一口サイズに切り分けてそれを口に運んだ。


「〜〜〜〜!」


すると、ぽわぁ〜〜とした空気が文香から

漂ってくる。

あまりにも美味しそうに食べるものだから、

俺も食べてみたくなってしまった。


文香に倣い、一口サイズに分けたケーキを口に運ぶ。


「ーーー!!」


・・・美味い。


見た目から、甘さが強いかもという想像を

いい意味で裏切り、甘さとカカオのほろ苦さが絶妙に合っていた。


今度は、この花を頂いてみようか。


ケーキから生えたピンク色の花は

全て一口サイズになっており、非常に食べやすいだろう。それなのに、一つ一つの生地がキレイな形を作られていて、製作者の腕の良さを感じさせられた。


パクリと一口で口に入れる。


・・・これは、ラズベリーだろうか。

わずかな酸味の中に、確かな甘みを感じた。


俺は元々酸味の強いラズベリーが苦手なのだが、これは美味しい。


しかし、俺の口から出た感想は


「めっちゃ美味い。」


めちゃくちゃシンプルなものだった。


「あ、ごめんね?シンプルすぎて」


「ううん。大丈夫。宗則くんの顔見てただけで、どれくらい美味しかったか伝わってきたから。」


文香は暖かな目で俺にそう言った。


正直、


せっかく私のオススメのお店なのに、感想がシンプル過ぎる!嫌い!


となるかと思ってたが、杞憂だったようだ。


「ふふ。何回見ても、美味しいものを食べた時の顔は見応えがあるね。

可愛い。」


そう言ってニコニコ笑う文香の方が可愛い。


「ほら、もっと食べてよ。そして、、、

もっとその顔を見せて?

・・・忘れないように。」


「いやぁ、どんな顔してるかわかんないけど、ちょっと恥ずかしい、、、。」


お互いに、このケーキの良いところを語り合い、文香のおすすめポイントを教わりながら

美味しいケーキを味わって食べた。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「あれ?ここで奢りじゃないの?」


ボウリング場で賭けに負けた俺は、文香に何かを奢る約束をしてた。てっきり、このお店で効力が発揮されるのかと思っていたのだが。


「違うよ?流石にここだと値段が高過ぎるし。」


確かに・・・。おしゃれなだけはある値段だった。まぁ、値段以上の味を感じさせてもらえたからいいけど。


結局2人で割り勘し、お店を出る。


「じゃあ、何を奢れば・・・?」


そのまま歩きながらそう尋ねる。


「うーん・・・。まだ、取っておこうかな?」


「お、おう。了解。」


一体いつになるやら、、、この貸しが大きく

なりすぎないといいが。


こうして少し歩いていると


「あれ?宗則?」


後ろから声をかけられる。


あ・・・こいつがいたことすっかり忘れてた。


「お前たちもここに来てたんだな。


デートか?」


「あぁ。もちろん。そうだ。


んで、お前は?その子、彼女?」


隣に立つ女性を見ながら聞いてみる。


「いや、彼女じゃない。

まだ、な。」


へー。いずれは、、ってことかな?


よく見たら、文香に雰囲気が似てるような、、。


「━━━で、えーと。」


すると冬真は、文香の方をちらっと見ると


「久しぶりだね、頼元よりもとくん。」


文香も気まずそうに話しかける。


「お、おお。久しぶり。今回はそんな感じね。」


なんだか冬真も気まずそうだ。


え?2人ってなんか絡みがあったのか?

こんな気まずそうな雰囲気を感じさせるほどの。


少し重い空気が流れたところで冬真が口を開く。


「まぁいいや。2人ともデート楽しめよ。邪魔して悪かったな。」


「あ、あぁ。お前もな。」


別れを告げると、冬真はほら、行こうぜと一緒にいた女性に声を掛けて、歩いていった。


・・・全然喋んなかったな。シャイなのかな。


「・・・。」


「・・?文香?」


「・・あっ。ご、ごめん。何?」


んー?明らかにおかしいよな。

それも冬真に会ってから、だ。


2人は昔何かあったのだろうか。

気になるが、多分聞いても話してくれないだろう。

俺はその聞きたい気持ちを胸の奥にしまい込んだ。



「宗則くん。これから、どうしよっか。」


あぁ。そうか。


2人のオススメ店をお互いに紹介し終わったのだから、一応目標は達成した。

しかし、帰る時間かと問われればまだ早いんじゃないかなとも思う。


どこかいいところはないだろうか。と記憶の中から良さげな場所を探す。


が、すぐに真剣な顔をした文香が


「あのさ、一緒に行きたいところがあるんだけど。着いてきてくれる?」


と言った。


もちろん、断る理由もないので俺はいいよと了承した。


それにしても、どこに行くんだろうな。


やけに思い詰めていたような気がしたのは、気のせいだろうか。






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