第20話 美味しそうに食べる君が

ここは有名なケーキ屋の2階。

俺は今、彼女の文香と、その叔母さんの千紗しんとともに夜食を済ませた。


そして、話題は次のデートについて盛り上がる。


「やっぱりどこかに出かけたら良いんじゃない?普段行かないようなところとか。」


千紗さんが楽しそうに提案してくる。


「それいいかも!意外と行ったことない場所

とかあるだろうし!」


文香も乗り気でそれに答えた。

俺もそれは良い考えだと思った。


なんか、よくあるよね。ずっとその地域で過ごしてきたのに、一度も行ったことのないお店とか。


「いいですね。俺もここに来てからはそんなに多くのお店に行けてないので、良い機会でもあるかもしれません。」


それを聞いた千紗さんは


「そこまで決まれば、もうおばさんはいらないね。ここからは2人で決めないとねー。


決まったら教えてね。」


言いながら、席を立ちどこかへ行ってしまった。


しかし、行ったことのないところか。かなりあるんだよなー。


最近できたクレープ屋も男1人じゃ入りにくいし、居酒屋とかも入りにくい。

それに、文香もいることを考えるとやっぱりオシャレなところとか、デートで行くような店に限られる。さらに、文香が行ったことのないような所というのも条件だから、なかなか難しいな。


どこ行こ。あそこ?いや違う。という感じで模索していると文香が、ねぇ!とある提案をしてきた。


「この際、お互いおすすめの所に行ってみようよ。

宗則くんは自分の行きつけで、なおかつ女の子1人だと入りにくい場所。私は私で、行きつけで男の子だと入りにくい場所に案内するから。


どう?良い考えだと思わない?」


ドヤァと文香が胸を張る。はいはい可愛い可愛い。


しかし、文香の言ったことはあながち悪くないとも思った。


お互い、1人じゃ入りにくい場所に行くということは、必然的に行ったことのない店ということになる。

ならば、この案は採用してもいいんじゃないだろうか。


「うん。それめちゃくちゃいいな!そうしよう。」


「よかったー。なら、行く所決めとかないとね。」


デート場所の案が決まれば、あとはトントン拍子で決まっていき、あっという間にそろそろ帰らなければならない時間となっていた。


「おーい。そろそろ話は決まったー?宗則くんも遅くなったら明日起きれないよー。送ってあげるから準備しなさーい。」


離れたところから千紗さんの声が聞こえる.

どうやら車で送ってくださるようだ。ありがたい。


「もうこんな時間なんだね。でも、一緒にご飯食べたり、次のデートの約束ができて

良かった。


行こ?私もついてく。」


ひと足先に降りとくね。と文香は階段を降りて行った。


俺もそれに続こうと、帰り支度を済ませ、部屋を出ようとしたとき1枚の写真がひらりと落ちた。

せめてそれを元の位置に直してから行こう。と思い、その写真を見ると


写っていたのは文香と、俺の妹の結梨が抱き合っているというものだった。


あれ?いつの間に会っていたんだ?確かそんな時間は無かったはず、、、。


そんな時


「宗則くーーん??終わったーー??」


と声が聞こえたことで俺はこの疑問を考えることもせず、すぐ行く!と階段を降りるのだった。


〇〇〇〇〇〇〇〇


時は流れ、デート当日。


いつものようにおしゃれな衣服に身を包み、素敵な笑顔で俺を癒してくれた文香と共に、都内を歩き始めた。


しかも、今日は平日ということもあり人通りがいつもより少ない。そのため以前感じたような、

ちっ!カップルがいやがる。爆発しろ。


といった視線を気にせずに歩くことができた。

ま、俺も数ヶ月前はそっち側だったわけで、、、。

大丈夫。希望あるよ。


さて、まずは俺の行きつけの店なのだが、正直ギリギリまで悩んだ。


女の子はカロリーなどを気にするし、飲食店はあまり良くないかなと思いつつ、俺は飲食店以外お店に入らないので、仕方なくラーメン屋にすることにした。


それを文香に伝えると、「全然大丈夫だよ!」

と言ってくれる。

ごめんね。あんまりこの土地詳しくなくて、、、。


そのラーメン屋までの道中にも、俺の行ったことのない店はたくさんあった。どれも、最近の高校生とかが好きそうなおしゃれな外装でとても入ろうとは思えなかったが。


まぁ、文香だけなら映えるんだろうなぁ。

そんなことを考えながら文香を見ると


「ん?どうしたの?な、何かついてる?」

と顔をぺたぺたと触り始めた。可愛い。


「もう!ついてるならどこか言ってよ!恥ずかしいじゃん!」

ちょっと怒り始めたので、目の保養にする時間も終わりが来た。


「いや、何もついてないよ。強いて言えば目と鼻と口がついてるけどね。」


「何それ寒。」


・・・・くぅーー!今のは来たぜ!一瞬おじさんになった気がした。世のお父さんたち、お疲れ様ですマジで。


「もう、からかわないでよ。


・・・少しでも可愛いと思ってもらいたくておしゃれしてるんだから、何かついてたら意味ないじゃん・・・。」


・・・くぅーーー!これはクリティカルだわ。


てか、俺のためにそんなに頑張ってくれたという事実だけで萌える。最高。

それと同時にからかった罪悪感も出てきた。


「いや、ごめん。あたふたする文香が可愛くてつい、、、。」


「うん。顔にめっちゃ出てたからね。あ、絶対からかってるこれって思ったもん。」


相変わらずだねーと文香がクフフと笑う。


・・・まあ、機嫌が治ったならいいか。



しばらく歩き、俺たちは目的の場所へついた。


「おー。ここが宗則くんの行きつけのラーメン屋。」


少し、緊張したように文香がつぶやく。

それもそうだろう。


ここは、栄えたところから一気にこじんまりとした場所にある。まさに、穴場というやつだ。こんなところに若い女性が一人で来るわけがない。ちょっと怖いし。


俺だって冬真がいなかったらこんなところ、来ようと思わない。

しかし、ここのラーメンはものすごく美味しいのだ。それこそ、何度も通ってしまうくらいに。


先導するようにガララと扉を開き、入店する。


「らっしゃい。」


との声と共に、一気に濃ゆいスープの匂いが鼻腔をくすぐった。


周りには常連と見られるおじさん、おばさんが寡黙にラーメンを貪っている。


「なぁ文香。ほんとにここで良かったのか、、、?

今なら、出ることもできるぞ、、?」


静かな空気に、思わず小声になってしまう。

それに釣られるように、文香もニコりと笑い、小声で答えてきた。


「私が、宗則くんが普段よくいくお店に行きたいって言ったんだから、大丈夫だよ?

それに、私もここのラーメン食べてみたい!」


文香はワクワクしたような表情で席に座った。

それを見て、俺も安心して席につくことができた。


「さて、いつも宗則くんが食べてるのは何?私もそれにする。」


「あー。わかった。でも、麺の硬さとか全部同じでいいのか?」


意外とこういうのは好みが分かれるから念のため聞いておく。


「全部、同じで。」


ふむ。まぁ、食べきれなくなったら俺が食べてあげればいいかな。


「大将。


いつものを全部多めで。それを二つ。」


ちょっとカッコつけていつものとか言っちゃった。


大将はそれにうなづき、せっせと作り始めた。


「なんか、すごく通っぽい・・・。」


感心する文香の表情も楽しみながら完成を待つ。

作る過程が見れるっていうのも、ここのいいところなんだよなぁ。


文香もそれを見ながら静かに待っていた。


「どうぞ。」


お、きたな。


俺たちの目の前に頼んだラーメンが置かれる。


そう、いつものとは豚骨ラーメンのことで匂いが強烈なのだ。しかし、俺はこの豚骨ラーメンこそが一番美味いと思っている。


「すごい、、!めちゃ美味しそう!」


文香は匂いは全く気にする様子もなく、早く食べたい!という目をしていた。

・・文香って結構食べるの好きだよねこれ。

見かけによらんなぁ。


「よし。食べよう。」

しっかり手を合わせていただきますをする。


まずは、スープを一口。

あぁ、、、。これだよこれ。なんと言ってもこのスープが絶品なんだ、、、。わずか一口で天に召そうとしてくる、なんて罪深きスープなんだ、!!


文香の方を見ると


カァッ!!と目を開き、チュルチュルと麺を啜っていた。

その速さに、文香もこの美味しさに囚われたか。ふふふ。というなんとも言えない嬉しさが湧いた。


お互い、周りの空気に合わせるようにしっかり味わい、ラーメンを啜った。



「すっっっっごく!美味しかった!!ほんとに、こんな美味しいお店があるなんて思わなかったよ。」


見るからにテンションMAXの文香が俺の行きつけをベタ褒めする。

褒められてるのは俺じゃないのに、めちゃくちゃ嬉しいのは何故だろう。


大将、、。あなたのおかげでまた一人、ラーメン女子が生まれましたよっ、、、!


「喜んでもらえて良かった。ラーメン食べる文香も見れたし。」


「え?!・・・私、変な食べ方してなかった、、、?下品じゃなかった、、、?」



「いや、正直もっと下品に食っていいのにってくらい上品に食べてたよ。」


「そ、そっか、よかった。」


下品に食べる文香。見たくないと言えば嘘になります。


それは口に出さず、ひとまず俺の行きつけの店は案内できた。


次は、文香の番だ。

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