第18話 帰り道、笑う君が
文香と絶対に助けると約束をしてから、数分が経った。
「━━━ちょっと暗くなってきたね。そろそろ帰る?」
気付けば、太陽は半分程沈みかけ涼しい風も吹くようになって来た。
まったく、文香いる時間はあっという間に時間が過ぎる。
「それもそうだな。送っていくよ。暗くなるし。」
「えー?別に大丈夫だよ。お店までそんなに近くないし。宗則くんが帰るの遅くなっちゃう。」
しかし、文香を守ると決めた手前ここでわかった。じゃあバイバイとはならないわけだ。
「いや、何があるか分からないしできるだけ文香を1人にしたくないし、それに、俺が文香と少しでも長く一緒にいたい。」
・・・大丈夫かな。顔赤くなってないかな。
「わぁー!なかなかカッコいいこと言ってくれるじゃん!
文香と、少しでも長い一緒にいたいんだ。
だって!キャー!!」
こら、痛いからあんまり叩くんじゃありません。
めちゃくちゃ笑う文香を見て、しまった。余計なこと言ったかな。と少し後悔する俺に
「はー・・・。ふふふ。そんなの、私もに決まってるでしょ?」
そう言って手を繋いでくる文香。
「あはっ。また赤くなった。」
さらに、繋いでない方の手で俺の頬を突いてくる。
なんだか、前よりも文香が積極的になってきた気がする。
てか、赤くなってたのバレてたのかよ、、、。
すっかり文香のペースに乗せられて、でもそれも案外悪くないと思ってしまうのだった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
やがて太陽も完全に落ち切り、街灯がポツポツと光を灯し始める。
その道は何度も通ったことがあるはずなのに、暗いというだけでなんだか違う道のような気がして不思議だ。
例えるなら、学校の登校の道と帰り道の景色は違って見える。みたいな。わかるかな。
「でさー、そのお客さんがね?ほんとに面倒くさくてさ。」
文香は最近の客の愚痴を言っている。
「明らかにお金が足りないのに、ここへくるまではちゃんとあったんだ!俺の金をどこにやった!って。
いや、しらんわ!って思った。」
「はは。そんなん言われても困るよな。」
「そうなの!めちゃ困ってしまって。そしたら常連のおばあちゃんたちが助けてくれてね?それで━━」
文香はそれを楽しそうに話している。
よほど今の仕事が楽しく、やりがいを感じていると話を聞くだけで伝わってくる。
横顔を見ても、笑ったり、ふくれたり、時折こちらを見てやっぱりニコッと笑う。
「文香は仕事楽しい?」
「もちろん!たまにさっきみたいな面倒臭いお客さんも来るけど、それ以上にケーキを買う人たちが見せてくれる笑顔が大好き。」
だから、とっても楽しいと。
文香がそう思っていることを知ったら、文香の叔母さんも嬉しいだろうな。
「そういう宗則くんも、大学は楽しい?
ほら、なんか色々大変っていうじゃん?ちょっと気になってて。」
「うーん。楽しい時は楽しいし、レポートが大変な時もあるし、まあ、俺は楽しいと思ってる。」
実際、冬真たちと遊んだり話したりするのは楽しい。授業も色んなことが知れるし。
「そっか。やっぱり憧れるなぁ・・・。ケーキを売るのも楽しいけど、私もJDっていうものになってみたかったかも。」
これは紛れもなく本音だろう。俺の話を聞く文香はとても興味深そうにしていたからな。
でもそうか、もしかしたら文香が大学生になっていた可能性もあるわけで、、。
もし、文香と同じ大学へ通っていたならどうなってただろう。
大学生の文香かぁ・・・。
その姿を想像してみる。
あぁ、きっとモテるんだろうな。だって可愛いもん。キレイだし。優しいし。
「今、大学生の私を想像したでしょ。めちゃ顔に出てるからね。」
・・・バレてた。
でも、想像しちゃうでしょ。絶対。
「だけどね、憧れはするんだけど今の私はケーキ屋で働けて幸せだから。
その分、宗則くんには大学の話いっぱいしてもらわなきゃね!」
言葉の奥に、私の分まで大学生生活を楽しんでほしいという気持ちを感じ、任せておけ。と心の中で思った。
それからもしばらく会話をしながら、帰り道を歩く。
すると、暗い道筋の中にポツンと明るいお店が見えてくる。文香の働くケーキ屋だ。
「そうだ!せっかくならご飯食べていきなよ。ご飯代浮くよ?」
「え、いや。流石に悪いよ。いきなりだし。店の人も困るんじゃないか?」
ここで断ったら俺の晩御飯はビーフシチューですが。
3日連続の。
「えー?・・・私と少しでも長くいたいんじゃないの・・・?」
・・・それは反則だと思うんだ。
その時の熱が蘇る。思わず顔を隠してしまいそうだ。
「・・・わかったよ。でも許可はちゃんと取ってくれ。オッケーだったらご馳走になります。」
「わかった!すぐ聞いてくるね!!裏口で待ってて!!」
そう言って、すごい勢いで中へ入って行った。
ほんとに、出会った時から文香の色んな面を知ることができるな。意外と破天荒なところとか。
少しだけ待っていると
「オッケーだって!」
思ったより早く、許可を得て戻ってきた。
でも、そうか。何気に初めましてなんだよな。
無礼のないようにしないと。
文香に招かれるまま、中へ入ろうとした瞬間。
俺は見つけてしまった。こんなに暗いのに、サングラスをかけてこちらを見つめる男に。
〇〇〇〇〇〇〇〇
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