第17話 久しぶりに会う君が


「おい。どうしたよそんな浮かれた顔して」


「なんだ、冬真か。」


今は、大学の講義の休憩時間だ。


まぁ浮かれるのも無理はないだろう。だって今日は彼女に会えるのだ。当たり前でしょ。


「全く・・。お前俺に感謝しろよ?あの時俺がお前にケーキ屋の券を渡したから。なんだからな?」


「あぁ。感謝してるよサンキューサンキュー。」


「うわ、ぜってー思ってねぇ。」


そんな苦虫を噛み潰したような顔をすんな。


「はーあ。お前にも彼女できんだなぁ。なんで俺にできないのかなぁ、、、。」


「そういう性格だからじゃないか?」


「いや、ひどくね・・・。」


しかし、実際冬真には感謝してる。言われた通り、あの時ケーキ屋へ行ってなかったらほんとに彼女ができてなかったかもしれない。

ま、それを言ったら調子乗るから絶対言わんけど。


冬真としばらく会話を続け、やがて次の授業が始まる前にお互い自分の席へ戻っていった。


〇〇〇〇〇〇〇〇


さて、結局集合時間は16:30となり、現在時は15:28。大分余裕がある。

とりあえずは彩芽公園に向かうとして、そこから何をしようかな。ま、それは着いてから考えるか。」



公園に着いた。今回も子供達の姿は見えなかった。

だったら人気のブランコを久々に漕いでみるかと腰をかける。


両端のチェーンを持ち、地面を蹴り勢いをつける。それを何度か繰り返すと後ろから前へ行く時の勢いがやはり気持ちよかった。


大きくなってもブランコは楽しい。そのことを実感した。


しばらくブランコを楽しみ、ある程度勢いがついたところで、今度はその勢いのまま前方へ飛んでみた。

なるほどこれは、男の子が好きそうなスリルがある。


しっかりと着地し、あとはベンチに座っていようとブランコから離れる。

先程まで俺が漕いでいたブランコが、余韻で動いていた。



ベンチに座り、携帯をいじり時間を潰す。SNSの漫画を読んだり、趣味のことを調べたりとそんなことをしていれば、約束の時間はすぐに来た。


「あ、こんにちは。宗則くん。待たせちゃったかな、、?」


白のブラウスに、茶色のスカートを着て、赤茶色のベレー帽のような物を被ったキレイな人物がそこにいた。



「・・・おう。こんにちは。ちょっと昔を思い出すいい機会になったから、全然大丈夫だぞ。」


昂る気持ちを抑えつつ、気を使わせまいとそう言うと、なら良かった。と嬉しそうに笑った。


「とりあえず、どこか座ろっか。」


そして俺らは近くの石でできた椅子に腰掛けた。

すると、文香は手に持った袋をこちらに手渡してきた。


「えと、まずはこれ。帰ってから食べてね。」


少し重みのある箱が、中に入っていた。

多分、昨日言ってたケーキをつくってきてくれたんだろう。


「ありがとう。いつも作ってきてくれることも合わせて、感謝するよ。」


「うん。宗則くん、いつも嬉しそうにお礼を言ってくれるから、ついつい何か作ってあげたくなっちゃうの。」


そう言ってクスクスと笑う。

なんだか、ペットに餌をあげる感覚に似てるのかな?と思いつつ、相変わらず笑顔が可愛いな〜と心の中でニヤニヤした。

むしろ文香のペットにならなってみたいまであるな。


ひとしきり笑ったあと、文香は意を決したような表情になり


「それでさ。話なんだけどね。お母さんについてなの。」


文乃さんの名前を聞いた途端、俺は思わずドキッとした。


以前見た夢の中に文乃さんがはっきりと出て来たこと。そして、その夢が正夢になるかもしれないということからだ。


俺は気を引き締めながら、続く文香の話に耳を傾けた。


「ついこの間、私たちのお店にお母さんの従者らしき人が尋ねて来たの。


何を買うでもなく、じっと私の方を見ながら誰かと連絡をしてた。その時に、お母さんの名前が聞こえて来たから間違いないと思う。」


めちゃくちゃ怪しいじゃねぇかそいつ。するならするでもうちょっとマシなやり方なかったのかよ。


でもそうか、ついに干渉してくるようになってしまったか。

どんどん俺の不安は募っていく。


「それで、私が宗則くんに言っておきたいことがあって、今日はそれを面と向かって言いたいから、時間を作ってもらいました。」


そう言うと、しばらく悩んだ末に文香は口を開いた。


「・・・しばらく、うちのケーキ屋に来ないで欲しいの。」


・・・・え?どうして、、、


「前も話したと思うけどわたし、お母さんと宗則くんを会わせたくないの。

理由は詳しく言えないけど、もうすぐあの日から2週間経つ。そしたら絶対、お母さんは私たちの店に来るはず。


・・・宗則くんを、また家のいざこざに巻き込みたく無い・・・。」


真剣な眼差しで訴えてくる。


俺を巻き込みたくない。その言葉から、俺のことを考えてそう言ってくれてるのがよく伝わってきた。


それはとても嬉しい。嬉しいのだが、やっぱり俺は文香のために行動したい。これが俺の本音なのだ。


「文香。

・・・文香が俺のことを考えて、そんなことを言ってくれてるのはちゃんと理解したよ。


だけど、俺はもう君の悲しんだ顔を見たくないんだ。実はさ━━」


そして、俺はあの日見た文香が泣きながら連れ去られていく夢を見たことを話した。

不安にさせてしまうかもしれないとも思ったが、文香を説得するためには話す他なかった。


「今でも、こっちに手を伸ばす文香の表情が忘れられない。


だからこそ。その夢の通りにならないようにしっかりと俺が文香のことを守りたい。もう2度と、あんな毒親の元へは帰らせない。」


「宗則くん・・・。」


それでも文香の不安そうな顔は晴れない。


まあ確かに、全然力のない俺が守ってやる!って言っても説得力なんて無いよな。


それでも、それでもなんだよ。文香のために、俺は頑張りたい。あの時そう決めたんだ。


「文香。お願いだ。力にならせてくれ、、!」


それを聞いた文香は悩んだ表情を見せる。


しかし、やがて観念したように


「・・・のりくんはやっぱり変わんないね。」


「のりくん?」


「ううん。なんでもないよ。ちょっと呼んでみたくなっただけ。」


そして


「わかったよ。そこまで言われたら断ることなんてできない。

・・・のりくん。私と一緒にお母さんと戦ってくれる?」


そう言って手を差し出してくる。


「・・・!


もちろん!絶対に文香の力になってみせるよ。」


その手を握った。


〇〇〇〇〇〇〇〇


「とは言っても、まだ期限はあるんだけどね。」


2人で熱い握手をしてから数分。お互い冷静になり、他愛ない話をしていた。


「そういえば、これ。帰った時に買ってきたんだ。結梨のお墨付きももらってる。」


俺は文香に香水のプレゼントをした。


ラッピングもされてない、まんまの香水だが


「わぁ!ありがとう!私の好きな花の匂いだ。」


文香はとても喜んでくれた。

ありがとう結梨。お兄ちゃんちゃんと渡せたよ、、、!



「そうだ!実家はどうだった?結梨ちゃんと喧嘩とかしなかった?」


「いやー。あいつとはほとんど遊んでばっかりだったな。ゲームしたり、キャッチボールしたり。」


「ははは。やっぱり趣味が似てるんだね。私も会いたいな。」


「それいいかも。結梨も絶対喜ぶわ。」


あぁ。楽しいな。この時間をこれからもずっと続けていくために、頑張らないとな。


より一層気合を入れつつ、今のこの幸せな時間を俺はたっぷりと堪能した。

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