第16話 私はほんとに家族の兄が

あの後実家へ戻ってきた俺たちは、ゆっくりお菓子を食べながらアニメやネタ動画などを見ながら談笑していた。


最近はどのジャンルにハマっているか、この原作は面白かっただとか、この動画のここが好きだとか、こんな事をしながら、俺が帰る時が来るまで兄妹の時間を過ごした。

それが近づくにつれ、結梨の時計を見る回数が増え、次第に口数も減っていった。


それは俺も同じで、1日しかいなかったのにここを初めて出る時よりも、寂しさを感じた。


しかし、俺にはやるべきことが残っている。


文香と文乃さんの件が解決するまではまだまだ安心できない。先ほどの違和感を感じてから、それが気になってしょうがない。


確かに帰りたくないという気持ちもあるが、帰ろうと思えば時間とお金さえ惜しまなければ、帰ってこられる。


だからそんなに悲しい顔をしないでくれ。

一生の別れじゃないんだから。



ついに、家を出る時間がきた。


もう少し遅くても良かったが、明日は俺も講義がある。その準備をしなくてはならない。


帰る旨を両親にメッセージで送る。


『1日だけだったけど、お世話になりました。


久々に母さんと父さんの元気な姿が見れて良かった。


またすぐ帰ってくるから。そのときはもっとたくさん話そう。


じゃ。』


仕事中だからか、返事は来ないだろうが念のためな。


そして俺は、家を出て駅へと向かった。その隣には結梨もいる。


1人になると危ないから玄関まででいいと言ったのだが、「大丈夫だから。」と聞かなかった。


駅までの道中はそれは静かなものだった。2人して何を話すわけでもなく、草木が揺れる音だけが鼓膜を揺らしていた。

その空気に少し気まずさを感じつつも駅までの一歩一歩を踏み出していく。


結局何も話さずに駅に着いてしまうが、そこで結梨が口を開いた。


「兄さん。」


「・・なんだ?」


「・・・もうすぐだね。電車。」


「そうだな。」


「寂しい?」


「少しだけ、、、な。」


「そっか・・・。どのくらい?」


「めちゃくちゃ懐いている飼い主が仕事に行く時くらい。」


「ふふふ。なにそれ。意味がわかんない。」


「とにかく、寂しいよ。」


「うん。・・だったらさ、写真撮ろ。帰ってきた記念。」


「別にいいけど、どうせすぐに帰ってくるぞ?俺。」


「いいから。今、撮りたいの。」


譲らない結梨に、どうしてそこまでと思いつつも結梨の構えた携帯に向け、俺はポーズをとった。


「・・・ははは。全く同じポーズだ。」


写真を見てそう言う結梨は悲しそうに笑う。



どうしてそこまで悲しむんだ?



俺の中に疑問が生まれる。


思えば結梨は、時折このような表情を見せた。


寂しそうで悲しみも混じった笑顔。


俺も最初は、結梨が寂しく思ってくれている程度にしか思ってなかったが、ここまで悲しむか?と考えてしまうのだ。

結梨はそんなに寂しんぼでもないだろうし。


一体どうしてだろう。


そこまで考えたところで電車の汽笛が聞こえ、俺は思考を遮断した。


やがて、電車は俺の前で止まり、プシューと音を立てながらドアが開く。


「・・・・。」


結梨が何も言わずに俺を見ている。


「えと、じゃあな。すぐに帰ってくるからさ。それまで、バイバイ。母さんたちにも言っといて。」


そう言って電車へ乗り込む瞬間


「兄さん!絶対、帰ってきてね??ちゃんと、今日の話を、次に帰ってくるときに話そうね!!・・・またね。」


涙を目に浮かべながら、精一杯の笑顔で手を振ってくれた。


「ああ!すぐに帰ってきて、お前の頭をめちゃくちゃにしてやるよ。」


言って、俺は電車へ乗り込んだ。


〇〇〇〇〇〇〇〇


母さんから返信がきている。


『結局昨日の夜しか会えなかったねー。ごめんね。せっかく帰ってきてくれたのに。


お母さんとしては毎日帰ってきてもいいくらいだけど、それじゃあなたのためにならないもんね。しょうがないしょうがない。


はーあ。早く帰ってきて欲しいなー。』


なんというか、母さんは母さんだった。優しくて、俺たちのことが大好きな母さん。時には怖いこともあるけれど、これも1つの愛の形なのだ。


こんなメッセージを貰ったら、俺もすぐに帰りたくなってしまうな。


出発したばかりだというのに、そんなことを思いながら電車に揺られる。


目的の駅まではまだまだ時間がある。それまで少し、眠らせてもらおう。



あれから20分ほどが経ち、俺は目的の駅の一つ前で起きることができた。

電車通の人なら分かると思うが、何故か起きれるんだよね。


辺りもすっかり暗くなり、昼との気温差で心地の良い、涼しい風を浴びながら自宅へと帰った。


「ただいまーっと」


返事なんて返ってくるはずもない、静かで暗い我が家だ。


照明をつけ、上下ジャージに着替えとりあえず横になる。

そして俺は今日の違和感について考えはじめた。


最初に感じた違和感は、あまりにも一瞬過ぎてよくわからなかったが、あの時結梨の目を見た瞬間、実家で見た夢の内容である涙を流す結梨の姿が映像として、流れ込んできたのだ。


さらに、今回実家へ帰って結梨が悲しげな笑顔をしていることが多かった。

俺が実家を出るまではそんな子では無かったはずなのに、だ。


それが今回の違和感に繋がっているかは確信が持てないけれど、どうしても心配になってしまう。


もしかして、今まで俺が見てきた夢は予知夢なんじゃないか。もしそうなら、前に見た文香が文乃さんに連れて行かれるという夢も現実になってしまうかもしれない。


念のため、今まで以上に用心した方が良さそうだな・・・。


そうしていると、ぐぅーっ!と不意に腹の音が鳴った。


・・・とりあえず、一旦このことについては置いておくことにして、まずは腹ごしらえでもするか、、、。


早速、母さんに教えてもらったビーフシチューでも作ろうかな。

二日連続かよとなるかもしれないが、俺が食べたいんだからいいだろう。


確か母さんがレシピを送ってくれていたはず、、。


俺はそのレシピにかかれた材料を買いに行くことにした。





さて、腹ごしらえも済んだし、明日の準備もできた。寝るまで動画とか見ようかなと思っていた矢先、携帯の通知音がなった。

確認してみると、文香からだった。


『宗則くん、こんばんは!


実家はどうだったかな。少しはリラックスできたかな。


それで本題なんだけど、明日大学終わってからでいいから会えない?場所はどこでもいいから、ちょっと話したいことがあるの。』


お!久々に文香に会えるぞ。ちょうどいいし、昨日結梨と買った香水をプレゼントしよう。


それに話したいこと、か。もしこれが文乃さんに関係することなら、ますます予知夢説が濃厚になってくるぞ。

しかし、逆にこの謎に一歩近づくチャンスでもある。


『こんばんは。文香も仕事お疲れ様。


会う件だけど、俺も文香に会えることを嬉しく思うよ。


明日終わるのが多分15時くらいだから、それ以降なら大丈夫。場所もどこでもいいよ。』


と返信をした。するとすぐにまた返信がきた。


『良かった!


だったら時間はまた別示するとして、場所はいつも来てもらって悪いから私が近くまで行くよ。宗則君が住んでる地域も行ってみたいし。


宗則君が通ってる大学の近くにある、彩芽公園でいいかな。ケーキも焼いていくね。』


『別にまた俺が行っても良かったんだけど、文香が来たいならそうして!楽しみにしてる!』


プレゼントはサプライズで渡そう。


文香の『私も!』というスタンプを最後に、やりとりは終わった。


実家へ帰って一気にだらけてしまった気持ちも、しっかり明日から切り替えて大学生活を頑張ろう。


そうして俺は少し早いが、目を閉じた。


明日、トラブルが起きない事を祈りながら。

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