第15話 初めてのはずのこの場所が

あれから俺たちは秘密基地の中で、古くなった漫画を読んで懐かしいねと語りあったり、大学ってどんなところかなどの質問に答えたり、兄妹ならではの時間を過ごした。


昼過ぎ、唐突に結梨が行きたいところがある。と言い出した。


どこか聞いても教えてくれない。ひとまず歩き出した結梨について行くことにした。


「兄さんは覚えてないかな?この道とか。よく行ってたんだけど。」


道の途中、追いついた俺にそう言ってきた。


「悪いけど覚えがないな。一体どこに向かっているか見当もつかない。」


結梨はそっか。と、あとは何も言わなかった。


急にどうしたんだろう。まぁそれは目的のところについてから分かることか。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


林の中を抜け、しばらく歩く。しかし、やはりその道に覚えはなかった。


結構歩いてるんだけどな。


「なぁ結梨。まだ着かないのか?結構歩いた気がするぞ?」


「あとちょっとだから頑張って。あと少しあと少し!」


あと少し、か。ここまで来るとちょっと楽しみだな。


「あ、ほら!見えてきたよ。」


指された方を見ると、確かに何かの入口が見える。


しかしそれは大分坂道を登った場所にあった。


「ほらほら!競争だよ!兄さん!」


と、いきなり結梨が走り出す。


どこまでも勝負にするんだから全く。


程なくして俺も走り出した。




「ハァ、ハァ、ハァ。」


いや坂道きっつ。普通に疲れた。こんなに走ったのはいつぶりか。


対する結梨は多少の息切れはあるものの、全然平気そうな顔をしていた。これが大学生帰宅部と、高校生運動部の体力の違いだろうか。


「兄さん。こっちきて。」


招かれるままに、結梨の隣へ並んだ。


そこには何か祠みたいなものがあった。


すると結梨はその祠らしきものの前にしゃがみ込み、手を合わせて目を閉じた。


何かを祈っているのだろうか。その横顔は真剣そのものだった。


しばらくそうしていると、やがて目を開けた結梨は


「・・やっぱり、ここに覚えはない?」


と聞いてくる。


・・・・・俺はここを知らない。幼い頃に訪れているのかもしれないが、全く自分の記憶と結びつかない。


「・・・そうみたいだな。」


俺は正直に答えた。


それを聞いた結梨は、特に気にした様子もなく


「そっか。ならしょうがないね。・・でも一応何かお願いしておいた方がいいかもよ。」


と言ってきた。


確かにここへ来たのもなんとやら。願っといて損はないだろう。


俺も結梨に倣い、しゃがみ込んで手を合わせた。


「━━━━!」


次の瞬間、俺の脳裏に一瞬だけ何かがよぎった。


それが何かは分からなかったが、とても重要なことだった気がする。


これは一体、、、。


「どうしたの?兄さん。何かあったの、、、?」


結梨が心配そうにこちらを覗き込んでくる。


「あぁ。大丈夫大丈夫。いきなり座ったせいで膝が痛くなったんだ。」


余計な心配をさせぬよう誤魔化したが、先程のことが気になってしょうがなかった。


「ここに来るまで結構歩いたりしたもんね。その前にはキャッチボールとかもしたし、疲れたのかも。今日はもう帰ろう?」


結梨はそう提案してくれたが、他にも何かしたいことがあったかもしれない。そう思うと心苦しい。


そんな思いを感じ取ったのか


「別に大丈夫だよ。一応やりたいことはできたし。

それより兄さんが何かを思い出せたなら、私はそれだけでいいし。」


言うと結梨は帰ろ?と手を差し出した。


俺はそれに従うことに決め、その手を掴み立ち上がった。


「・・・・その代わり、次帰ってくるときはここを覚えていてね。」


結梨はどこか寂しさと悲しみの混ざったような表情で俺の目を見ていた。


何故だか分からないがその表情を見た瞬間、先ほどの違和感に似たような現象がまた起きた。


今度は、先ほどよりもはっきりと。


そして・・・俺の脳裏に一度夢で見た、泣いている結梨の顔が浮かんだ。


・・・。


「どうしたの?もしかして、本当に膝痛くなっちゃったの?おぶる??」


「・・・ふっ。おぶるって。

妹におぶられるほどじゃねぇよ。」


いや、そのことについては置いておこう。


俺は今日、自分の家に帰るのだ。結梨といられる時間も限られている。


ならば、今この時だけは結梨との会話に集中したい。


だからせめて、さっき見た光景が現実になりませんように。

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