第14.75話 どこまでも元気な妹が

俺だって頑張ったさ。


結構試行錯誤して、この勝負に挑んだつもりだった。


しかし、結梨の魔球とそのキャッチ能力に俺は完敗した。


一体なんであんなにキャッチボールが強くなったんだろう。・・・いや、別に勝負するものじゃないんだけど。


「あれれ?大分心が折れてるような顔をしてるねー?もう辞めるー?」


こいつ・・・。勝ち誇った顔でこっちを見んじゃねえ。


だが、これ以上やっても勝てる気がしないので素直に負けを認めよう。


「・・悔しいけど・・・。参りました・・。」


俺がそう宣言した瞬間、結梨は遠くから見てもわかるほど目を輝かせて


「やっっっと!!兄さんから参りましたって言ってもらえたっ、、!」


と喜びを噛み締めていた。


そんなに嬉しいもんかな。俺が参ったって言うの。


まぁ、俺の記憶に残ってる限り一回勝負で一度も結梨に負けたことはなかったからな。結梨にしてみれば昔からの悲願が達成されたのうなものなんだろう。


「あーあ。今回ばかりは俺の完敗だわ。勝てる気がしなかった。」


「ふふふー。でしょ?さすがにこれは負けない!」


「なんだよ。結構ながら練習とかしたのか?ゴムボールとはいえ、えぐいフォークボール投げてたぞ?」


「え?・・・いや、練習というか、実戦というか、、投げてたらできた・・・みたいな?」


嘘だろ・・?感覚的な?もしかして、この子プロになるのも夢じゃないんじゃ・・・・。


それは結梨の意志によるので口に出すことはしなかったが。


「はーあ。ちょっと疲れちゃった。休もー。」


俺も少し疲れたし、ちょうどいいな。


そして俺たちは二人で基地の中に座った。


入り口から入ってくる風が心地いい。微かに、古くなった木の匂いもして雰囲気もばっちりだ。


結梨もその空気を味わうように、静かに目を閉じて微笑んでいた。


「・・・ねぇ、兄さん。文香さんとのことについてもっと教えてよ。恋バナしよ?恋バナ。」


「・・いきなりだな。」


恋バナ、、か。ついに妹とその話をする時がきたか。


「兄さんと文香さんってどっちから告白したの?」


「告白は、あっちからだな。・・一目惚れしたって言われた。」


自分で一目惚れされたって言うの、ちょっと恥ずかしいな。


「へー。そうだったんだ。じゃあ、なんで文香さんと付き合おうって思ったの?兄さんって顔がいいから。とか告白されたから。って理由で付き合ったりしないでしょ?」


いや、へーって。全然興味なさそうじゃん、、、。

しかし、さすがは妹だな。よくわかってるじゃないか。


「確かに、最初は断ったよ。友達から始めませんかって。」


「でもその後のデートで好きになったんでしょ?」


「・・・まぁ、そうなるな。


自分でも不思議なくらい。俺はこの子のことが好きだ!ってなった。」


今でも覚えてる。まるで好きになることが当たり前のように、俺は文香に恋をしたのだ。


「ほんとに変わんないね。兄さんって。」


結梨は呆れたような、それでいて嬉しそうに呟いた。


「変わんないって、何が?」


「ううん。こっちの話。なんか兄さんだなーって感じ。」


なになに、その感じ。俺ってどんなふうに思われてんの、、、?


しかし、俺ばっかりでもつまんないだろう。


・・・・・正直、聞きたくないが結梨についても聞いてみるか


「そう言う結梨はどうなんだよ。気になる人でもいないのか?」


「えーー?・・・・・あ。」


え。まさか


「いるいる。気になる人。いるよ。」


嘘だろ・・・誰だそいつ。〆る。


「・・へーー。結構いい感じなん?」


「私は結構攻めてるんだけどね。あんま答えてくれないかも。」


は?俺の妹から攻められてんなら無視してんじゃねぇよ。ふざけんな。


「まぁその子女の子なんだけど。」


・・・。・・・?


「大人しいのにすっごく可愛くて化粧品とか何使ってんのー?ってぐいぐいいってるけど、あわあわしちゃってさ。そこも可愛いんだよね。」


「・・・あー。そうなんだー。仲良くなれるといいなー。」


「ふふ。男の子かと思った?ねぇねぇ。男の子だと思った??」


やめろ。ニヤニヤしながら頬をつつくな。


「まー。私だって恋愛したいよ?兄さん見てると幸せそうだなーって思うし、文香さんもすっごく可愛くて素敵だし。そんな恋人が欲しいって思ったこともあるよ。」


でもね?と結梨は続ける。


「まだ、兄さんよりいいなって思える男の子がいないんだよね。」


そう言って笑う姿は大分大人びて見えた。


以前電話した時は『べ、別にそんなこと思ってないんだからね?』みたいなツンデレキャラみたいだったのに、

そんなことが嘘のようだ。


面と向かってなかなか恥ずかしいことを言ってくる。


「だからって、兄さんよりいい男が現れたら、私はその人にもうアタックするから。悲しまないでね。」


「ふん。それなら俺はもっといい男になって、お前に恋愛なんてさせてやらねぇから。ざんねんでした。」


「ふふふ。・・ならせいぜい頑張ってよね。


・・・兄離れ、、、させないでね。」


そんなこと、させてたまるか。こんなに俺を想ってくれる妹を離れさせたくない。


俺には文香がいるのに、こんなことを望むのは間違ってるだろう。


しかし、いつかそのときはくるから。だからせめて、そのときが来るまでは、俺にも妹離れをさせないでくれ。

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