第6話 一緒にいて楽しい君が
文香が何よりも楽しみにしていた、ラッコの赤ちゃんに会いたいという小さな願い。それが叶えられずに今日のデートを終わらせるわけにはいかない。
そんな思いから、ついついあんなことを言ってしまったが、
果たして迷惑じゃなかっただろうか。
・ーーー
文香の母から電話がきて、約10分後。俺と文香は目的であったラッコの赤ちゃんと会える場所まで来ていた。
流石にニュースになっていたこともあって、人が多くしばらく待つことになりそうだ。
その間、俺はひとまず謝ることにした。
「・・・ごめんな。大事な用事があったかもしれないのに。無理を言ってしまって・・。」
「ううん。全然大丈夫だよ。・・・むしろ、宗則くんから誘ってきてくれて嬉しかった。」
そうして、ニコッと笑ってくれた。そのおかげか、文香に申し訳ないと思う気持ちも少しだけ和らいだ。
「それに、私とお母さんそんなに仲良くないから・・・できれば帰りたくないんだよね。」
うん。そうだよね。さっきすっごく怒ってたもんね。
正直、訳を聞きたい気持ちがあるが、聞いても良いんだろうか・・・。
「・・・んふふ。宗則くん、私とお母さんとの事・・気になってるでしょ。顔に出てるよ?」
俺の頬をツンツンしながらからかうのはやめていただきたい。
「いや・・そりゃあ・・・気になっちゃうでしょ。文香があんな顔するなんて相当だと思うし・・・」
ちょっと怒った顔、怖かったし・・・とはとても言えなかったが、これは聞いちゃっても大丈夫なのか?
「え、これ聞いても良いやつ?」
「別に大丈夫だよ。でも、これを聞いてもお母さんに会いたいなんて思わないでね?それが守れるなら話してあげる。
でも今はラッコの赤ちゃんとの時間を楽しもう!ね?」
いつの間にか、俺たちの順番が来ていた。
「お待たせいたしましたー!本日は会いに来てくださり、ありがとうございます!今からお客様には餌やり体験を5分間の間、お母さんとのふれあいをご覧になっていただきます。」
係員の説明を受け、その親子がいる水槽へ案内される。
そして、少し離れた位置にいるラッコの赤ちゃんと、そのお母さんと見られるラッコを見つけた。
「あ!見て見て!お母さんが赤ちゃん抱っこしてる!!可愛いー・・・!!」
そこでは、お母さんラッコが子供を腹に抱き、せっせとお世話をしていた。
「ラッコの赤ちゃんは、生まれたばかりで泳ぐことができないんです。なので、お母さんが子供の毛をお手入れして溺れないように、体温が低くなりすぎないようにしてるんですよ。」
と先程の係員さんが説明をしてくれた。
自分も栄養とか毛繕いとか大切だろうに、絶え間なく子供の世話をする母親ラッコを見てると、母の存在って偉大だなと感じた。
そこではっとし文香の方を見てみると、神妙な面持ちで
二匹を見ていた。
「すごいですね。赤ちゃんが溺れたりしないように、大事に大事に抱っこしてる・・・。お母さんは自分の子供を愛してるんでしょうね。」
そう係員さんに話しかけている時の表情を見て、やっぱり文香も親との関係を気にしてるのかなと勝手に思った。
そうして、時間はあっという間に過ぎラッコ親子に別れを告げた。
その後、また係員さんに案内されて、
「実は今、ラッコの赤ちゃんの名前を募集中なんです。良かったらぜひ、考えていただけませんか?」
そう言って紙とペンを渡してきた。
「ちなみに、お母さんの名前はなんて言うんですか?」
「はい。お母さんは
『フミ』ちゃん
と言う名前です。この子も赤ちゃんの時に、お客様に名付けていただいたんですよ。」
すると文香はこちらを見て
「フミちゃんだって!私に似てる!!」
とはしゃいでいた。名前が似てるからってそんなに喜ぶのか・・・良いことを聞いたな。
「すいません。もう一枚紙を貰えますか?」
そう言って俺も一枚紙を貰った。
「お!それじゃあどっちの名前が採用されるか勝負だ!」
「いや、俺たちのが選ばれるかわかんないから・・・」
そうして俺たちは名前を考え、係員さんに提出した。
その際、お互いどんな名前をつけたかは、決定するまで秘密。ということにしてもらった。
俺がどんな名前をつけたかって?
『ふみか』から2文字とって『ミカ』にしたよ。
ーーー・ー
そうして、目的を達成した俺と文香は水族館を後にした。
俺はこのまま文香を送っていこうとおもっていたのだが、
「・・・宗則くん。改めて、今日はいきなりの誘いだったのに、デートしてくれてありがとう。とっても楽しかった。」
とお礼を言ってきた。
「え・・?あの、ここで別れるの?」
「うん。私の実家、ここからの方が近いから。」
「そうだったのか・・。えと、その・・・俺も楽しかったよ。こちらこそありがとう。」
少し照れ臭かったが、素直にお礼が言えた。
「うん・・・!・・・それじゃあ、、、バイバイ。」
楽しかったと伝えたのが嬉しかったのか、笑みを溢しながら手をひらひらと振っている。
しかし、本当にこれで終わりでいいのか?俺は今日、デートをして何を思ったのか。
それは『恋』なのかもしれない。
今日1日しかデートをしていないはずなのに、何度もデートを重ねたかのように、文香が隣にいるのが当たり前のように感じた。
さらに、文香の笑顔を見るたびに胸の辺りがドキドキしていた。
文香の『好き』を知るたびにそれを嬉しく思う自分がいた。
まるで、ずっと前から文香に『恋』をしていたかのように。
ならば、ここで俺が文香に伝えなければならないことは一つだろう。
「文香。もうちょっとだけ時間をくれないか。多分、すぐに終わる。」
文香の了承を得て、俺たちは近くの公園まで来ていた。
歩いて2分もかからない、ほんとに近い公園だ。
まだ16時くらいなのだが、なぜか周りに人は1人もいなかった。まあ、その方が都合が良いだろ。
「まずは、引き留めちゃって申し訳ない。だけど、俺にとって今日が1番良いなって思ったんだ。」
「ううん。大丈夫だよ。宗則くんが今日話したいっていうなら、私もそれに従うだけ。・・・それに━━」
「━━ちょーっとだけ、期待しちゃってるし、、、。」
俯きながら、上目遣いで俺の方を見てくる文香。
その文香の様子に俺の内心は━━
なんなのこの子。めっちゃ良い子やん。なにその上目遣い!反則ですこれ。あ、もう好きだわ。めっちゃドキドキしてるもん。
そんなうるさい心をどうにか落ち着かせ、
「ふぅ、、、。・・・まぁ、その、、さっきも言ったけど、今日すごく楽しかったし、水族館に来て、色々なこと知れたし、海の生物たちの素晴らしさを目にすることができた。」
友達から始めようと言ったくせに。と言われないだろうか。
「でも、1人だとそもそも来ようともしなかったと思うし、来たとしてもこんなに楽しくはなかったと思う。
それも全部、文香が隣にいてくれたからたくさん笑った。もっと文香の好きなこととか知りたいって思えた。」
やばい、胸がはちきれそうだ。この世のカップルたちはこんな思いをしていたのか、、、。
それに、、、ああ、あの日の文香もこんな気持ちだったのかな。
だとしたら、やっぱり俺はこの気持ちを伝えたい。
「だから、文香さえ良ければ、、、俺の彼女になってください!!」
そう言って右手を差し出す。
さあ、ここから短いようでものすごく長い時間が始ま━━━
「もちろん!!こちらこそお願いします!!」
━━らなかった。勢いよく握られる俺の右手。
ドキドキする暇も与えないほどの即答。
だが、やった、、!!嬉しい、、、!!と今日1番の笑顔で抱きつかれたら、まあ、いいか。となるもんだ。
はは、めっちゃ嬉しいよ全く。
こうして、俺の初めての告白はなんとも嬉しい形で成功したのだ。
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