第4話 言い訳しがち



競技騎士は年間だいたい140ほど試合をする。

一対一の形式から混戦などたくさんの種類の形式でぶつかり合う。だからいちいち対戦相手のことなんて覚えてらんない。私が覚えている競技騎士は陽光騎士ただ1人のみ。他の騎士は覚えるに値しなかった。なぜなら他の騎士は全て私に負けた塵芥だから。だから陽光騎士も私の名前を覚えていないと思ってた。私は負けた1人だから。

かつて全ての競技騎士がぶつかり消えて行った陽光騎士という壁は暴風騎士を覚えていた。

挑んできた中で1番だと言ってくれた。

直々に私の下に来いとも。



斜に構え別に嬉しくないでーす!一度で頷くなんて軽い女みたいでやーなの!聖下騎士?興味ないね、みたいにしていたけど普通に嬉しかったっぽい。たぶん実感が無く夢のようにふわふわしてたからそんなこと思ってしまってたんだ。うん。



だって!彼女に負け続けた有象無象の1人としてとっくに忘れ去られていると思っていた私が覚えられていた!わざわざ私を探してた!1番と言ってもらえた!

だから!だから!嬉しくて嬉しくてテンションのメーターが振り切って勢いで店を飛び出したし仕事をやめてしまった。


馬鹿なのか?子供なのか私は。レレナごめん。

リリアナの誘いが嬉しくて嬉しくて何処の馬の骨ともわからないような奴を懐刀といってよくしてくれた彼女に申し訳なさすぎて死ねる。

それに彼女が大事にしてた腕時計だって貰ってしまった。

聖下騎士に入ってひと段落ついたら絶対に連絡して謝ろう。許してくれるかな。

元々入るつもりならその場で頷けばよかった。でもでもまだその時仕事やってたし辞められなかったかもだし。


ウダウダ悩んでいても仕方ない。

ルミユラお前の良い所はフットワークが軽いところだろう?


掛け布団を蹴飛ばし布団から飛び出る。

タブレットを動かしリリアナにメッセージを送る。無駄なプライドはゴミだ。

『今から行く』

一分もたたないうちに返信が来る。

『待ってるよ』









教皇領聖区

リリアナの家






一人で暮らすには大きすぎ家族で暮らすには少し狭い家そんな家の前に立ちチャイムを鳴らす。

あの安アパートとは違う呼び鈴の音。芝生は手入れされ端に植えられた向日葵が朝日を受けて伸び伸びとしている。

よく手入れされた大きな庭。

どこかむかつくにやけた顔が私を出迎える。


ムカつく。

くそ言いたくない。いや言いたくないわけではないけどくそぉ。


「に、入団することにする」


にやつきが笑顔になる。



広間に通され入団手続きのため書類に記入事項を書き込んでいく。

「ケーキも食べずに帰ってしまったからダメかと思ったけれどまさか聖下騎士団に来てくれるなんて!歓迎するよルミユラ。いや暴風騎士」

さきほどからずっとニコニコした顔でこちらを見てくるリリアナは嬉しそうだ。


「暴風騎士は辞めたわ。そうね今から微風騎士とでも名乗ろうかな」

釣られて笑顔にならないよう、にやけないように顔を引き締めて心を落ち着ける。ここで笑顔になってしまったら私に私が負けたことになる。負けるのは嫌い。


「微風騎士なんてそんなタマかい?君」


あはははと声を上げて笑うリリアナ。

この女!人がせっかく仕事辞めてあんたの誘い乗ってやったというのに本当に神経を逆撫でしてきて最悪。


「うるさい黙って。じゃあリリアナは私のコードネームは何がいいと思うの」

「うーん、向日葵騎士でいいんじゃないか?」

可愛すぎる。私には合わない。花系の名前つけられるなら向日葵よりも薔薇とか鬼灯とかそういうカッコよさげな方が良い。まあ向日葵も嫌いじゃないけど。

「どうして向日葵?」

「私が好きだから」

最悪。今日から向日葵が嫌いになった。

「私は微風騎士です。はい決定」


書類に記入を済ませる。


「これから何か予定はあるかな?」

予定なんてない仕事やめたし。アパートも引き払った。ホテルに帰ってもやることなんてないしね。

「ないけど。やること終わったしもう帰る」


「じゃあさヤらない?」

「嫌だ。もう暗いし…って離せ!」

部屋を出ようと背を向けた瞬間突然羽交締めにされた。


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つんつん騎士がつよつよ騎士に堕ちるまで クソ雑魚百合バトラー @yuributler

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