第3話 負け犬に負ける女




聖下騎士団とは教皇直属の騎士団である。

教皇の護衛、パレード、警備などと様々で基本的に戦闘することはない。



ホームページにはそんな感じで書いてある。他に目ぼしい情報はないかと画面をスクロールすると今日の教皇と騎士というタイトルで傘を刺して散歩する陽光騎士と女の写真があった。




タブレットを握る手に力が入る。隣。


頭を軽く振って一瞬浮かんだ考えを消す。



それにしても天下の無敗騎士様がこんな有名な競技騎士なら誰でもなれる騎士団に入ってるなんて。上からの命令で厄介払いとして行かされたなら一年くらいで辞めて軍にでも入れば良かったのに。たしか軍って結構競技騎士上がりのひとたくさんいていい転職先って言われてはず。

聖下騎士と軍人だと軍人の方がしっかりした仕事っぽいしなぁ。


聖下騎士団ね。うーん。仕事は楽そうだし。でもどうしよう。リリアナに誘われたこと自体は嬉しいけど一度で頷くのは軽い女みたいで嫌だなぁ。あいつは諦めることを知らないからどうせまた話に来るはずだしそこで頷けばいいか。

でも聖下騎士団か。今私一応仕事してるからなぁ。


いや辞めてもいいか。長く続けるつもりなんてなかったし。今の仕事危険の割に給料安いし休日にも突然呼び出されるし拘束時間長いし不定期だしで碌なもんじゃなかった。おいしいとこもあったけど。職場としては赤点。

仕事はひと段落ついてるしあの子なら許してくれるはず。仮に許されず殺されそうになったら全員殺して出てけば良い。陽光騎士以外には負けないし。うん。それでいいや。

今日は晴れ。辞表を叩きつけるだけだから兜はいらないな。暑いし。











龍昇国凛市開発地区

セントラル








辞める。暴風騎士はそう言った。

彼女と契約して3年。彼女のおかげでファミリーは1番大きくなった。

不可視の怪物。会長レレナの懐刀。裏社会で1番恐れられている彼女が突然辞表を叩きつけてきたのだ。


「レレナ今日限りで契約は終わりだ。私は故郷に帰らせてもらう」


「ちょっと待って。何が不満だった?改善するから。週一のスイーツの会を2回に増やしてもいい。な、話し合おう。もしかして私とサウナに入るのが嫌だったか?もう辞める、から」


ルミユラにつけていた腕時計を押しつけるがやんわり断られる。



「レレナには不満はない。もとより時期が来たら辞めるつもりだった。元気でな」


「まって餞別代わりに腕時計あげる」


すぐにプレゼントできるものがこれしかない。

ルミユラの手を無理矢理取り腕時計を握らせる。

「ありがとう。大切にする。またね」


ルミユラはそう言って部屋を出て行った。


捨てられた。いや別に捨てられたわけではない。

捨てるのならば腕時計なんて受け取ってもらえなかったはず。ルミユラが私に愛想を尽かしたわけではない。

だから大丈夫。大丈夫なはず。今生の別れではない。うん。

だからまたケーキバイキングも行けるはずだしお酒も飲みに行けるはず。大丈夫。大丈夫。



少なくない時間放心し彼女との思い出に浸って

メソメソしていると部下が失礼しますと言って入ってきた。顔色が少し悪いのは暴風騎士がファミリーを辞めることを知ったからだろう。


「ボス。殺しましょう。奴はうちの中核にいた人間です。ウチの情報を他のファミリーに売らないとはかぎりません。いかに暴風騎士といえど我々全員でかかれば殺せます」


ため息を一つ吐き部下に告げる。

「仮に倒せたとしてもお前らは無事ではすまん。そうしたら他のファミリーに食いつかれてウチが潰れる。そうでなくとも暴風騎士が抜けたんだ。好機とみて攻め込んでくるトコがあるかも知れん。警備部門に警戒するように通達しとけ。今から私は忙しくなる部屋を出て行け」


一瞬不満そうな顔を部下はするがジロリと睨んでやると慌てて部屋を出て行った。


うぅ。ルミユラ。まだ全部教えてもらってないのに。チンピラ殺法がまだ抜けてないのに。憧れた貴方の太刀筋も騎士としての振る舞いもまだなのに。

二人でてっぺんとるって言ったじゃんか。うぅ。なんで。


その日仕事もそこそこに一晩中酒を飲んで泣いた。

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