第2話 勝ち犬騎士




目の前でパフェを頬張る彼女を見てリリアナは安堵していた。陽光騎士としてではなくひとりの人間として友人が心配で仕方なかったのだ。

流浪の傭兵になっている、マッドサイエンティストに捕まって人体実験されている、薬物漬けにされて売られてしまったなどのよくない噂を耳にしていたからだ。

突然スタジアムをさって音沙汰なかったかつてのライバルの生きている姿を見ることができて本当によかった。所詮噂は噂でしかないのだ。3年前と変わらない夕焼のような明るい茶色の髪。今はメッシュで赤が入っているがそれはそれで良い。


「結局リリアナは私になんのようってわけ」

「いや何ルミユラが元気にしているか気になっただけさ。元気そうで何よりだ」

「ふーん、私はリリアナに会いたくなかったけど」

「ふふ私はルミユラのこと結構気に入ってるんだけどね」

「私は嫌いだけどね」

「悲しいね泣いてしまいそうだよ」


手で顔を覆いヨヨヨと戯けて泣き真似をしながらルミユラを指の隙間からちらりと見やる。

かつて自分と鎬を削ったライバルは優しげで愛らしい表情をしていた。


バッシングやスキャンダルもない、精神的にも安定してそうだ。それならばなぜ私の元をさったのか。


私に負け続けたからというのはあり得ない。

なぜならばルミユラはそれほど弱く無いからだ。それは1番私が知っている。1番近くで見て触って剣で語り合って感じてきたからだ。負けるくらいで折れるのならば私に何度も何度も挑むなどあり得ない。彼女は私を倒し得る存在だ。そんな彼女がなぜなのだ。なぜ去ったのだ。数年ぶりに会った反動かそれとも失って気がついたからかわからないが黒い感情が湧き上がる。



「ねぇ突然怖い顔して何?ここはスタジアムじゃないんだけど」

「ごめんごめん。少し懐かしくなってしまってね。当時のことを思い出していたんだ」


「きも」


対戦相手は、挑んでくれる相手は当たり前にいるものではないということを学ばされたんだよ。ルミユラ。君のおかげで感じることがなかった強者が孤独であることもね。



「君がいなくなってすぐに殿堂入りということで聖下騎士にスカウトされてね」


「ふーん。厄介払いってわけね。並び立つ者がいなくなった強者なんて要らないものね」

少し悲しそうな目をした後それを振り払うようにふふんと得意げな顔をする彼女はやはり美しい。



「私にとって君は間違いなく1番だったよ」


暴風の騎士と称されるほどの苛烈な攻めを得意とする彼女はどんな相手でも数分で叩きのめしていた。軽装備だろうと重装備だろうと関係なしにだ。私はあの嵐の中にいるのが好きだった。その中でなら1番生きていると感じられたから。


「だった?今はどうなの」

「君が鈍っていなければ今もかな」

先ほどまでパンケーキを食べるために使っていたフォークを彼女に投擲する。


「あぶなっ!?ちょっと突然何!ふざけんな!

チョコケーキ追加ね!!」



左手で投擲したフォークを掴み取りタブレットを操作する彼女の姿をみて笑みがこぼれる。

鈍ってはないみたいだ。



「ねぇ聖下騎士ってさどんな仕事すんの?」


「私の仕事が気になるかい?」


「別にあなた自身に興味はないけど聖下騎士にあるだけ」


そう言って目を逸らしたルミユラは毛先をくるくると指で弄る。

彼女の癖だ。

やはり彼女をそばに置いておきたい。

もう自分の目の前からいなくならないように縛っておきたい。

そうだ聖下騎士に所属させてしまおう。


反対意見は出ないだろう。


暴風騎士という陽光騎士を除いて最強の騎士だった彼女なら。

もっとも反対意見が出ても黙らせるが。

理由づけも昨日副団長が大怪我を負ったしちょうど良い。

暴風騎士がいれば私のモチベーションも上がるし副団長の代わりにもなるしウィンウィンだ。うん。それが良い。彼女を勧誘してしまおう。



「私の補佐官になってくれないかな?」





考えさせて。彼女はただそれだけ席を立ち店を出て行った。手付かずのチョコケーキだけを残して。

うーん性急すぎたかな。失敗。

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