つんつん騎士がつよつよ騎士に堕ちるまで

クソ雑魚百合バトラー

第1話 負け犬騎士




御伽話。フィクション。幼い頃、私はそれが実際に現実にあったことだと思っていた。

だから全勝無敗最強無敵の騎士になれると思っていたし世界中の誰でも簡単に笑顔にできると思っていた。

だから皆の憧れになれるよう私を自分に重ねてもらうために努力した。

歴史ある競技騎士から全てを学んだ。

戦い方から魅せ方まで。


だけれどそれだけやっても全勝無敗なんてものは無理で天才の上を軽く飛び超える才能がなければなることなどできっこなかった。

負けるまではそんなことすら気がつかなった。

彼女との無敗対決で負けて土をつけられてから

何度も何度も手を替え品を替え挑んだが何をしても勝てなかった。

無敗で最強。皆が仰ぎ見る存在ではなくただの優秀な騎士止まりになってしまった。


だから辞めた。疲れたのだ。彼女に負けることに。



私のライバルだった彼女は今や中央で聖下騎士をしている。対する私は彼女から逃げて暗い部屋でタバコなんて吸っている。

 


陽光騎士は天才を超えている。彼女は化け物だ。君は人の身でよくやった。仕方ないことだった。

二番手の子もよく頑張っている。

暴風騎士はダメだなもう勝てないな。

最強は陽光騎士だわ。

陽光騎士以外には勝てる女。

貴方と彼女は相性が悪かっただけですから気にしない方が良いですよ。

一旦休むのも手だ。

何処へ行っても先輩は俺の憧れですお疲れ様でした。

お前は強い自信を持て。運が悪かった。

奴がいなければ貴女が1番です。


かつて現役だった頃に耳にした言葉たち。

だがそんなものではなんにも響かなかった。







慰めの言葉よりもタバコは良い。心を癒してくれる。

私はまだ吸い始めてそんなに年が経ってない若葉マークの初心者だがその道30年のベテランのようにそんなことを思ってしまう。


ふぅっと煙を吐く。

タバコの先の火だけが光源となっている部屋。ゆらゆらと立ち登る煙。ソファーにもたれかかる私。スタジアムの騎士だった姿だとは思えないな。


ふふ、かつての友人が見たら膝から崩れ落ちるかもいや激怒するかもしれないなと自嘲しながら二本目のタバコに手を伸ばした。

その時、ペーンポーンと安アパート特有の間の抜けた呼び出しチャイムがなった。

最悪。


「はーい、今行きまーす」


部屋着にカーデガンを適当に羽織り玄関へ急ぐ。

チェーンを外しドアを開ける。


「やあ、久しぶりだね」


にこやかで整った顔がそこにあった。


声ですぐにわかった。

デビューからただの一度も負けることなく引退した騎士。常勝無敗を達成した最強の騎士。 陽光騎士リリアナ。私に唯一土をつけた女。

敗北者の私とは違う絶対の成功者。

はぁ、2度と見ることはないと思っていたその顔を見ることになるなんて不幸だ。



「なに?」


イライラしながら靴箱の上のタバコに手を伸ばす。


「タバコとは感心しないな。いくら強靭な肉体を持つ騎士といえど競技に影響がでてしまう」


「あなたには関係ないでしょ」

不思議と叱責されているようには感じなかった。彼女の目はどこまでも私を慮っていたからだ。


「それに私はもう騎士じゃ無いから関係ない」


そんなやさしさを私は冷たい言葉で払い除けた。



ぎゅっと上から握り込むようにタバコをもつ私の手を陽光騎士は止めた。

そして困ったように笑う。



「一緒にすこし体を動かさないか?」


「いや」


もうすでに引退した身だ。もっとも当時なら強さの秘訣を知るためにとうなづいていたけど。ていうかこいつの中の私像ってどうなってんの体さえ動かしてれば全部解決してそうみたいなこと思ってんの?失礼なやつ。


「じゃあ、食事でもどうだ?」


「…奢りなら行く」


べつに貧乏ってわけではない。なんか奢りなら勝った気分を味わえるかもって思っただけ。あるでしょ敗者が勝者に何かを奢るっていうのが。

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