第8話 喧しいぞ破壊神
「ご紹介しますわ。このハナタレはハイパー・プニーア。わたくしと同郷の腰抜けですの。ご覧になったとおり過呼吸の
「
「さぁ? 存じませんわね」
「この悪魔めぇ………ッ!」
ハイパーという男は同じ出身地というエカテリーナを恨めしい目で睨むも、年下の少女を殴る行為は社会的抹殺されかねないため手が出せない。
涙目となるハイパーが眼中にないのか、エカテリーナは「情けない殿方ですこと」と天を仰ぐ。
「あ、あの。ハイパー教官。聴取というのは………」
いつまでもエカテリーナがハイパーを蔑むので、このままでは進展が望めないと判断したディールは最大の勇気を振り絞って本題を尋ねる。
「ああ………それかぁ」
ハイパーは鼻をすすり、活力を感じさせない
「まぁ、要するにだ。アレだよ、アレ」
「アレって?」
「忠告っていうかさ。今回の事件は全面的にケスマール側に非があるってことで処理された。教職員から許可を得ず決闘を行った校則違反だな。まぁケスマール様は娘の素行の悪さを普段から嘆いてて、問題あらば遠慮なく罰せよとって俺に直接言った珍しい御仁だったし。退学にはならねぇだろうけどペナルティはあるだろ」
忠告と言うには報告に近い。
「今回のことは毎度のごとく闇に葬られるだろうが、生徒間では噂が広まるだろう。エカテリーナはどうせこんな感じだから扱いに関しては考え方は変わるだろうが………問題はお前。今回の件はなにも見てない、聞いてない、言わない。これを誓え」
「は、はい」
これは貴族の出である子供たちの問題だ。平民の出であるディールには関係ない。
もちろん弁えていたし、ロゼッタ・ケスマール個人をどうこうと批判するつもりもない。
ただひとつ
ロゼッタは明日から落ちぶれる。下級生に負けたと不名誉な烙印を押され、全校生徒から嘲笑の的となる。
それは彼女が招いた結果であるので気の毒に思うが、それにより副次的な噂も同時に拡散するだろう。
ひとつの勝負の末に敗者が決定されたなら、勝者となった下級生は誰かと。
クラスではエカテリーナがロゼッタに呼び出されたと周知している。放課後とならば学年で情報が共有される。
もしかするとエカテリーナは明日からロゼッタを下した勝者として、上級生から狙われる可能性も否めないのだ。
と、その時だ。ヤニの蔓延る折檻部屋で優雅に紅茶を嗜むエカテリーナに、ディールがただならぬ熱を注ぐ視線を向けていたことをハイパーが察知した。
「ディール・アンパシー。お前さ、特例生として4年間を普通に過ごしたいか?」
嘆息するハイパーは、他ならぬ忠告のつもりで問う。
もしかしたら先程の誓いが、早速意味を成さぬものになっているのではないかと。
「え、そ、それは………はい」
「じゃ、この鬼畜に関わるのだけはやめるんだな。明日から日常に戻れ。さもなくばお前も共に破滅の一途を辿ることになる。………かつての俺みたいにな」
ハイパーは自身の苦々しい記憶から、エカテリーナと関わって良かったと思えるイベントをピックアップしようと試みるのだが、残念ながらそんなものひとつも浮かばず嘆きたくなった。
ゆえにディールという平民が悪行に染まらぬよう、生徒指導に携わっている身なりに彼が歩むべく正常なルートに戻そうとしたのだ。
ところがディールはなにか言いたそうにしながら、視線はハイパーとエカテリーナを往復する。
ハイパーはまた嘆きたくなった。
この純粋無垢たる少年が、たった数分で同郷の破壊兵器に魅了されてしまったと。
「両名、明日から誰かに呼び出されても応じぬこと。なんなら俺の名を出しても構わん。それなりに顔が広いからな。面倒ごとに巻き込まれて、俺の平穏が崩されるくらいならそれくらい許す」
ハイパーの予防策は効果を発揮できるのか。
この時点での予想は、半減がいいところだった。
少なくとも破壊神は忠告に従いはしない。目に見えていた。
それは翌日の放課後に、ハイパーの胃をキリキリと搾るような痛みとなって、結果を伴いながら形容したのである。
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