両想いそれから

 想いを通じあった後、クリスタとシリルは母の前で十五分以上も抱擁し合っていた。二人の母が微笑ましくそれを見つめていたのは、最初の五分だけ。次の五分は生暖かい眼に変わり、さらにその先は無言で互いに頷き合った。

「シリル」

「クリスタ」

 互いの子の名を呼ぶが、すっかり二人だけの世界に浸かっている子供たちには残念ながらその声は届かず。ワザとらしい咳を何度かして、やっとこちらの世界へ帰って来た。

 不満気に睨みつけてくる二人の子供。

「シリルもう良いわ。あなたは帰りなさいな」

「分かりました母上。ではクリスタ行くぞ」

「はいっ!」

「お待ちなさい」

「何でしょう?」

「クリスタは置いて行きなさい」

「「はぁ?」」

 今度は耐え切れなかったのか、二人の子供から不満そうな声が漏れた。

 しかし二人の母もハァと不満を露わにため息を吐く。そして先ほど示し合せた通りに、

「当初の予定通り、結婚式が終わるまでクリスタはこの屋敷に住まわせます」

「何故ですか!?」

「そんな風で一緒に住んで、あなた達我慢できるのかしら?」

 それを聞きカァとクリスタが赤面する。

 それが答えだとばかりに二人の母は頑として譲らず、クリスタは残りの二週間をマイヤーリング侯爵邸で過ごすことに決まった。


 さて一人帰されたシリルはと言うと、祖父から爵位を受け継ぎ独り立ちしてからはすっかり立ち寄る事もなかった実家に毎日通うようになっていた。

 最初の頃は息子に会えると喜んでいたマイヤーリング侯爵夫人も、自分を無視して息子がクリスタとばかり話すとなればすっかり臍を曲げてしまった。


「奥様、お坊ちゃまがいらっしゃいました」

「あらそう。いま忙しいの帰って頂いて」

「はぁ……」

 はっきりとしない執事の返事。

 それもそのはず、奥様とクリスタは何をするでもなく、ただテラスでぼぅとお茶を飲んでいるだけだ。


「それのどこが忙しいだ!」

「あらどこのどなたかしら? 勝手にうちの屋敷に入らないで貰えるかしら」

「息子が実家に足を踏み入れて何が悪い」

「息子を名乗りたいのならばもっと息子らしい事をなさい!」

「え、えーと。二人とも落ち着いてください、ね?」

「クリスタは黙ってなさい!」

「おいババァ気に入らないからとクリスタに当たるな」

「わ、わたくしをババァと言いましたか!?」

「聞き分けのない母親などババァで十分だ!」

「もう許しません! 出て行きなさい!」

「チッ! クリスタまた来る!」

「こらっ母にも挨拶をしていきなさい!!」

 とまぁ、終始この様な有り様である。

 これ以上の関係悪化は不味いと、最後の一週間、クリスタは義父の計らいでブルツェンスカ侯爵家、つまりベルの家に移った。

 勿論クリスタがどこに行ったかはシリルには伏せられたという。

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