久しぶりのお屋敷
結婚式が終わり、わたしは久しぶりにバイルシュミット公爵邸へ帰って来た。
馬車が着いたのを知っていたのだろう玄関は向こうから開いた。シリルと連れ立ってドアを抜ければ、使用人一同がずらりと左右に整列をしていた。
「「「「お帰りなさいませ旦那様、奥様」」」」
奥様!?
おおぅなんと新鮮な響きかしら。
改めてこの人と結婚したんだな~と隣に立つシリルへ視線を向けれれば、タイミング良く目と目が合って要らぬ恥ずかしさを味わった。
まあ一時の事だから我慢するわ。なんせシリルの部屋は二階でわたしの部屋は一階だからここでひとまずお別れだ。
いまは赤い頬も少し時間を置けば直るでしょ?
「ではシリル様、お部屋に行って着替えて参ります」
「そうだな。案内しよう」
「やだなぁ久しぶりだからって迷いませんよ。大丈夫です。一人で行けますよ」
「ああ言っていなかったか。すまない。
クリスタが過ごしていた前の部屋は引き払ったぞ」
「は? でしたらわたしはどこに行けば良いのでしょう」
「もちろん夫人用の部屋だ」
そう言われてみればわたしはずっと客室暮らしだったわ。
そしてお客様用のスペースは主に一階にあるので、二階にはほとんど足を踏み入れた事が無い。つまり部屋の場所は全く分からない。
「えーと案内して頂けますか」
「勿論だ」
屋敷の奥の方まで歩いて、やっと「ここだ」と教えて貰った。
曲がった回数もたかが知れているから迷う様な事は無いだろうけど、食堂から遠くなり毎日この距離を歩くと思うとちょっと億劫だ。
「着替えが終わったら屋敷をざっと見て回るといい」
「はい畏まりました」
部屋の前でシリルと別れ、夫人用の部屋の中へ入った。
新しく貰った夫人用の部屋。客室も豪華であったが、それをさらに輪を掛けて豪華にしたのがこれだ。
部屋の広さとベッドの大きさはどうやら比例している様で、客室の物に比べてさらに巨大になった。おまけに物語にしか出てこないと思っていた天蓋もついている。
ぶっちゃけわたしは広すぎて逆に落ち着かない。
部屋のあちこちに扉があって、片っ端から開けていく。
クローゼットに、トイレ、浴槽、またクローゼット。クローゼット。
一体いくつあるのよ!?
苛立ちつつ次のドアを開けると、中には見慣れた銀髪の男性がいた。
「あらシリル様」
「どうかしたか?」
「それはむしろわたしの台詞です」
「うん? それはどういう意味だ」
「部屋に扉が多くて何があるか調べていたのです。
それで、なぜシリル様がわたしの部屋のクローゼットにいらっしゃるのですか?」
「勘違いしている様だから教えておくが、ここは俺の部屋だぞ」
「えーとシリル様の部屋の扉が、なぜわたしの部屋に繋がっているのでしょうか……
ハッもしや設計ミスですか!?」
「いや夫人部屋とはそう言うものだろう」
「そう言うもの?」
理解した瞬間に顔が真っ赤になったのが解り、わたしはそっとドアを閉めた。
ツカツカとドアから離れた所まで歩きくるりと振り向く。もちろん目の前にはマルティナが立っている。
「ねえアレ知っていたのよね?」
「ええ存じておりました」
「だったらどうして教えてくれないのよ」
「ご存知だと思っておりましたもので申し訳ございません」
「だったらせめて止めてよ」
「お言葉ですが
「ううっ次からは聞いてから開けることにする……」
「そうして頂けると助かります」
ちなみにあのドアには鍵があるそうで、女性の都合によりお断りする場合に口に出す必要なしに鍵を掛けることがあるそうだ。
そして本日は初夜なので当然鍵を掛けないと言われて顔のほてりが一向に収まらず、立ち直るのにかなりの時間を要した。
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