時空超常奇譚2其ノ七 MIRACLE/人類滅亡学序論

銀河自衛隊《ヒロカワマモル》

MIRACLE/人類滅亡学序論

MIRACLE/人類滅亡学序論じょろん


 生命は、たった一度だけの奇跡によって35億年前の地球で単細胞生物として誕生し、その後多細胞生物へと進化し、5億4000万年前のカンブリア紀の爆発的な種の誕生から、デボン紀には魚類、両生類、石炭紀には爬虫類、三畳紀には爬虫類型哺乳類、中世代の白亜紀末の生物の大量絶滅を経て、新生代に哺乳類へと進化を遂げ、約700万年前の猿人サヘラントロプス~30万年前の旧人ホモ・サピエンス~5万年前の新人クロマニヨン人(ホモ・サピエンス・サピエンス)に至り、現代のヒト人類となった。

「この宇宙で地球以外に生物は存在していない。即ち、後にも先にもヒト人類以上の高等生物は存在しない。ヒトとはそれ程までに完璧な生物なのである」

 そんな考えを持つ科学者がいても、何ら不思議ではない。何と言っても、地球以外に生命体の痕跡すら見付かっていないのだから、奇跡的な人類誕生には反論のしようがない。

 いや、そんな事はない。ヒト以外の高等生物が見付からないのは「宇宙が果てしなく広大だからだ」「異星人が態々わざわざ地球に来る理由がないからだ」などと屁理屈をねてみたところで見付からないものは見付からないのだから、それ以上議論する余地よちはない。

 現状で結論付けるなら、この宇宙には地球以外には一切生命体は存在しない。従ってヒトは、この宇宙に唯一度だけの奇跡で誕生した唯一無二の高等生物と言わざるを得ない。

 だが、本当に異星人は存在しないのだろうか。ヒト人類は、奇跡的に誕生した唯一無二の高等生物なのだろうか。

 我々ヒト人類は、天動説の中心星に住んでいるのではなく、宇宙に存在する2兆を遥かに超えるだろう銀河の内のたった一つの天の川銀河、天の川銀河の中の2000億超の内のたった一つの恒星太陽系、太陽系の中のたった一つの惑星に住んでいる。 

更に、我々は数えられない程の生物の中の一種に過ぎない。

 端的に言うならば、地球の存在も我々人類の誕生も、極々ごくごく平凡な宇宙の一事象なのだ。しかも、とてもじゃないが高等生物を自負するには、余りにもその誇りも資格も自覚も志も感性も能力さえもない。奇跡で誕生した唯一無二の生物だなどと、チャンチャラ可笑しいのだ。

 約6600万年前の白亜紀末K-Pg境界で、隕石の衝突が原因と考えられているパンデミックで恐竜は絶滅したが、爬虫類型哺乳類の一部は生き延び、劇的に変化して哺乳類へと進化、多様化した。そして、遂に『ヒト』という凶暴で、凶悪で、狡猾な生物を生み出す事となった。粗暴で、暴虐で、乱暴で、野蛮で、残虐で、残忍で、攻撃的で、獰猛で、邪悪で、極悪で、暴悪で、悪鬼の如き生物。

 その形容詞を探せばキリがない、この宇宙に存在価値を見出す事の著しく難しい、そんな生物が小さなネズミから進化を遂げて、地上の支配者となった。

 何故、恐竜が絶滅し小生物は生き残ったのか。小生物の中の小生物たるヒト。何故恐竜を継ぐ地球の支配者がヒトだったのか。産まれたばかりの幼体の防御力は皆無、成体であっても武器を持たなければ、獣の類に一瞬で喰われてしまう。

 そんな食物連鎖の最下部に位置するべき極端に脆弱な生物が、何故最上位に君臨しているのか。そもそも、あのダーウィンをしてヒトの進化は説明出来ないと言わしめたヒトは、やはり宇宙にかんたる唯一の高等生物なのだろうか。疑問は尽きない。

 そしてまた、存在しないだろう筈の異星人が地球侵略の為にやって来る事は、本当にないのだろうか。

 この広大な宇宙には、単純に計算しただけで2兆×2000億を超える恒星、いやそれを遥かに超える恒星と周回する惑星、衛星を数える星々が存在する事は自明の理なのだが、それでも科学者達は「我々地球人以外に人類は存在せず、宇宙人が地球侵略に来る事はない」と主張する。

 それは明らかに間違っている。外界と接触した経験のない、全く外界の情報を持たない未開の民族が「この世界には我々以外に人間はいない。何故なら我々以外の人間を見た事がないからだ」と言っているのと何ら変わるところはない。

 だが、いつの日か来たるべき侵略者達は必ずやって来る。それこそが我々地球人を待つ未来に他ならない。

 また、彼等科学者はこうも言うに違いない。「宇宙人はいるが、この地球にはやって来ない。何故なら地球に来る理由がないからだ」と。

 だが、理由など後付けで良いのだ。取りあえず、そこにある生物が生息可能せいそくかのうな星を侵略し、支配者とうそぶく下等な生き物を排除した後で星をリフォームして高値で売り飛ばす、そんな宇宙人がいたとしても不思議ではない。

 その日、天空を見上げた人々は、夜明けとともに仰天し恐怖に慄いた。そこには、明らかに円形の漆黒の物体が、存在感を示しながら浮かんでいた。

 TVニュースでは、アナウンサーが興奮気味に叫んでいる。

「緊急事態が発生しました。日本上空一万メートルに、正体不明の円形の物体が浮遊しています。直径は約100メートル程あり、宇宙空間より飛来したと思われますが、詳細は不明です。詳細は不明です」

 即座に自衛隊空軍機が発進し偵察を行うとともに、各新聞社のヘリが周辺を舞うように群がったが、正体不明の物体には何ら変化はなかった。

「インディペンデンスデイだ」

「地球滅亡の時が来たに違いない」

「もう駄目だ」

 そう叫びながら、世界の終わりを嘆く人々を他所よそに、その明らかに人工と思われる物体が一切の変化を見せる事はなく、漆黒の円形物体は動き出す事もなかった。悠然と雲間に現れては消える、その巨大さだけで人々の恐怖心を否応なしにあおっている。

 敵意の有無は不明ではあるものの、どう見てもそれが宇宙人の来襲である事は明白だった。しかし、状況から自衛隊がいきなり先制攻撃する訳にもいかず、かと言って放置する事も出来ず、結果として日本政府が「当面の様子見」を方針とするのは至極当然だった。 

 正体不明の漆黒の円形物体の中で、一人の年配の宇宙人がモニターに映る別の宇宙人に問い掛けた。

「お客様、この星は如何で御座いますか。横に付いている衛星もオマケで御座いますよ。お得な買い物で御座いましょう?」

「うむ。あのデカい衛星も込みとは、悪くないね。君のところは中々良い物件を紹介してくれるね。ところで、惑星の地表でチョロチョロとうごめくあのゴミのような薄汚い生物は、しっかりと処理してくれるんだろうね?」

「はい、お任せください。あんな虫螻むしけら如き中性子爆弾で一瞬で皆殺しにしますし、その後の処理も完璧にしてお渡し致します。当社は誠心誠意がモットーです」

「土壌汚染は大丈夫かな?」

虫螻むしけら共がかなり汚してはいますが、問題はないかと思われます。内容は、転送しました調査書の通りで御座います」

「うむ。調査内容に問題がなければ、即契約するとしよう」

「お買い上げ、有難う御座います」

 モニターに映る宇宙人は、調査書のデータを見るなり、声を荒げた。

「何だ、これは。放射線、化学物質、その他諸々だと。ふざけるな、土壌汚染解消だけで10万年も掛かるじゃないか?」

 年配の宇宙人が慌てて言い訳した。

「そ、それも見込んでのお求めやすい価格となっております」

「駄目だ。こんな小汚い星など買えるか、購入は中止だ」

 モニターが一方的に切れた。客と思われる宇宙人の激怒が伝わって来る。客が帰り、取引の破談に項垂うなだれる年配の宇宙人は、もう一人の若い宇宙人に当たり散らすように言った。

「おい、調査データの改竄かいざんはしなかったのか?」

 年配の男に、理不尽な指摘をされた若い男が言い返した。

「してないっすよ。そんな事したら、星取引業法違反じゃないっすか?」

「それはそうだが、少しくらい数字を変えておけよ」

「嫌っす。八つ当たりは、パワハラっすよ」

「くそったれの虫螻のゴミ共が折角の物件を汚したせいで、10万年間売り物にならないじゃないか」

 若い宇宙人が何かに気付いた。

「所長、何かが飛んできますよ。どうやら、虫螻共が核分裂爆弾搭載のミサイルをこちらに向けて撃ったみたいですね」

 年配の宇宙人が驚いた。常識的にあり得ない。

「何、自分達の星の上空で核分裂爆弾なんか破裂したら、放射線が自分達に降って来る事くらいわからないのか。こいつ等は、それ程バカなのか?」

「宇宙船が汚れるので、緊急退避します」

 漆黒の物体は一瞬で火星軌道へと移動した。地球各地に幾つもの閃光せんこうが見える。

「あぁ、また汚れちまった。あの星はもう駄目だな」

「所長、それよりも今月のノルマどうします?」

「仕方がない。来月予定だったアレを早めよう、もう客は付いているだろう」

「アレさえ終われば、直ぐ契約出来ます」

「確か、CO2580だったな」

 宇宙船は、天の川銀河の南西空域、宇宙座標CO2580ヘワープした。

「中性子爆弾投下します」

「これで、生物処理完了だ。あの地球という星も、あんなに汚される前に、あのヒトとか言うゴミ共を排除すべきだったな」

「所長、だから2000年前に「この星のヤツ等、早くぶち殺しましょう」って提案したじゃないですか?」

「煩いな。仕方がないだろ、あの時は他の星で忙しくてそれどころじゃなかったし、まさかこの星の虫螻共がこんなに早く核テクノロジーをいじるとは思わなかったんだよ」

「どうしますか。今からでも、あいつ等中性子爆弾でっちまいますか?」

「いや、中性子爆弾が勿体もったいない。どうせ、その内自滅するだろう」

「そうですね」

 そう言って、年配宇宙人が思い止まった。

「いや、やっぱり10万年後の売り物にする為に、デカい彗星をぶつけておこう」

「えぇ?彗星もコスト高いっすよ。小惑星くらいでいいんじゃないですか?」

「いや、いや。地球って星にはあいつ等の前に馬鹿デカイ恐竜とかいう爬虫類生物がいてな、そいつ等をる為に小惑星ぶつけて皆殺しにしたんだ。だが、その後ほんのちょっと目を離したすきにネズミからあっという間に進化しやがった。もし、小惑星で殺り損ねたら、今度はどんな進化をするか予想もつかないからな。確実に殲滅せんめつしておこう」

「なる程、そうっすね」

「あの星の奴等の殲滅が終了したら、お前が管理しろ」

「えぇ?嫌ですよ、あんな汚い星なんか」

「何故だ、あの星の支配者になれるんだぞ?」

「じゃあ、所長がなればいいじゃないですか」

「汚いから、嫌だ。管理会社に任せよう」

 この世界に、絶滅して何も問題のない生物などいるだろうか。最も多くのヒトを殺した嫌われ者の蚊でさえも、絶滅してしまうと生態系に多大な影響をもたらすと言われている。

 絶滅しても問題のない生物など……いる筈はな……いる。それはヒトだ。

 パンデミックであるコロナによって、ヒトがロックダウンその他の自粛行動をしただけで、アメリカのロサンゼルスでは高層ビルの向こうに遥かな山々が見え、大気環境の悪化が続く中国では青空が見え、インドではヒマラヤ山脈が見えたと言う。

 ヒト人類が滅亡しても何も問題はないどころか、地球は本来の自然の姿を取り戻し、きっと素晴らしい世界に戻る事だろう。

 アメリカの環境保護運動VHEMTは「人類の絶滅こそが地球の環境問題を解決する最善の方策である」と主張している。

 祝・ヒト人類絶滅。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時空超常奇譚2其ノ七 MIRACLE/人類滅亡学序論 銀河自衛隊《ヒロカワマモル》 @m195603100

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ