第7話 アニメオタクはパリピより強いのか?

 それから、僕と由利本さんは何度もご飯を食べに行ったり、遊びに行ったりするようになった。こんなに可愛い子が僕とデートしてくれているのだ。正に夢のようなひと時であった。剛承さんと知り合うまでの自分では考えられないことであった。



「水鳥よ、まだ由利本に愛の告白をしておらぬのか?」

 ジムで筋トレをしている僕に剛承さんが突然、聞いて来た。ビックリして思わず両手に持ったダンベルを落としそうになる。


「はい、まだしてないです。なかなか勇気がなくて・・・。しなきゃいけないなとは思うんですが、もし、断られたらと思うと怖くて・・・」


「早くせぬと他の男に取られてしまうぞ」

 剛承さんは横目でニヤニヤしながら脅して来る。


「分かっていますよ」

 と、言いながら僕はダンベルで筋トレを続ける。分かっている、男として決断しなければならないってことを・・・。僕は由利本さんと友達のままいたいんじゃない、恋人になりたいのだと。




 由利本さんと兼ねてより約束していた映画を観る当日となる。

 僕は決めていた。映画を観終わった後、僕は由利本さんにお付き合いして下さいと告白しようと。


 いつもより心臓の鼓動が早い。由利本さんに会うと、ホントに心臓が飛び出してきそうになり、気分が少し悪くなった。


 見ると由利本さんは浮かない表情を浮かべていた。訳を聞くと、携帯電話を昨日職場の病院に忘れて来たらしい。

 僕は映画の時間を遅らせて、病院に携帯電話を取りに行こうと笑顔で提案する。彼女は最初、それは悪いからと遠慮していたが、僕が気にしなくていいよと言うと、それじゃお願いしますと行き先を勤務先の病院へと変更した。




 

 病院に着くと、僕は誰かから見られているような感覚に襲われる。今日はいつもと違う精神状態だから、神経が過敏に働いているのかなと思っていると、誰かが僕の後方から突然、駆け寄って来る。


 そして、いきなり僕の顔面を振り向きざまに殴り付ける。僕はその勢いで地面に倒れ込む。何が起こったんだと見上げると、そこには大学の天敵、口角諭駄樹が怒りの表情を見せ、立っていた。


 僕は殴って来た相手が口角だと理解すると、奴に向かって叫ぶ。

「何をするんだ、痛いじゃないか」


 すると、口角は僕の言葉を無視して、立ち上がろうとしている僕の腹に向かって蹴りを入れて来る。僕は再び地面に倒れ込み、蹴られた腹を手で押さえる。



「知らねぇのか。オタクはなぁ、女と二人じゃ歩いたらいけないって言う法律があるんだよぉ」

 口角は僕を睨みながら吐き捨てて来た。


 僕は痛む腹を抑えながら、ゆっくりと立ち上がり、声を搾り出す。

「日本にはそんな法律はない・・・」


 由利本さんが後ろで動揺していたので、僕は誰か助けを呼んで来てと頼む。彼女に危害が加わるのはどうしても避けたかったので、ここから直ぐに離れて欲しかった為だ。彼女はコクリと頷くと建物の方へ向かって走って行った。


「あの女の前でお前をボコボコにしてやろうと思ったのに残念だ。水鳥、お前はここで孤独に死ね」

「口角、これ以上狂った行動を起こすなら、僕も自分の身を守る為に君に攻撃を仕掛ける」


「うるせぇ!ぶっ殺す!!」

 口角が再び、僕に向かって殴り付けて来た。今度は僕はさっと上手く避けて、口角にもう一度警告する。


「これ以上やるのなら、僕は正当防衛を行使する」

僕は口角の攻撃に備え、ファイティングポーズを取る。


「オタク風情が舐めた口のききかたをするんじゃねぇよ」

口角がまた、僕に向かってパンチを繰り出す。が、僕はそれを横に交わし、口角のみぞおちに右の拳を入れる。


口角の体はくの字に折れ曲がり、その場に腹を抱えてうずくまる。


「口角、もうこれ以上は止めてくれ。僕は暴力が好きじゃないんだ」

腹を抱え、苦しそうに僕を睨んで来る口角に、僕は殴った事の気まずさを感じながら言う。


「ふざけるな。たまたま、まぐれで当たったパンチでいい気になるな」


口角は叫びながら、また僕に襲い掛かって来た。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る