第3話 モテるオタクかモテないオタクか?どちらか選べ!

 僕は新野が師匠と崇めている剛承羅保人を紹介してもらう為に新野と待ち合わせをした。正直オタクな僕は初対面の人間と会うのはもの凄く苦手だったが新野にそこまで言わせる男に会ってみたかったのだ。


「ここで剛承さんは今から講演をするんだ」

 新野に連れられて来た場所はセミナーやミーティングをするような会場であった。アニメオタクがここで講演だと。僕は不信感を抱き、慣れない場所で落ち着かないでいた。


 僕と新野は剛承の講演が行われる会場の一室に入る。そこは二百人くらい座れる会議用の部屋で僕と新野は真ん中の列の最後尾の席に隣同士座る。部屋はほぼ満席だ。

 

 辺りを見回し僕は気付く。この講演に来ている人間は僕と同じ人種、そう、オタクばかりだ。しかし、男性ばかりではない。女性も何人か来ている。確かに剛承という人物はモテているのかと考えてしまう。


 講演の開始時間になり一人の人物が会場に入って来て壇上に立つ。その人物はスーツ姿で遠くから見ても体格の良さがうかがえる。一見するとまるでプロレスラーのような男だ。年齢は二十代後半といったところだろうか。若いがかなり強面な顔をしている。そう、彼がこの講演の主役、剛承羅保人であった。



「私が剛承羅保人だ。君達は信じないかもしれないがこう見えても私はアニメオタクだ。仕事は外科医をしている。医療系アニメを観て私は外科医を目指そうと思ったのだ。ここに来て私の話を聞きたいという君達もおそらくアニメオタクであろうと思う。はっきり言おう君達には可能性がある。人生で成功を手にする可能性が・・・・」


 

 僕は最初この講演は何か怪しい宗教かビジネスの話なのかと疑っていた。だが剛承の話の内容はアニメオタクには政治、経済、芸能それぞれで頂点に立つだけの要素があるというような話であった。彼自身アニメから多くを学び人生に役立ててきたと語っていた。会場のみんなは彼の話に熱心に耳を傾け、場は大いに盛り上がっていた。僕自身彼に対する疑いの目は捨て切れずにいたが話の内容自体に納得の出来る部分が多く、彼の話に引き込まれていった。


 

 剛承の講演が終わり、僕は新野の誘いで剛承に挨拶をしに彼の控室を訪れた。彼と直接話をすれば自分の疑問や葛藤が全て解消されるのではないかと感じたからである。僕は期待と不安を抱きながら彼との初めて会話に挑む。



「やぁ、君が水鳥君だね?新野から話を聞いてるよ。初めまして、私が剛承だ」

 彼は強面な割に気さくに僕に挨拶をしてくれた。僕も挨拶と自己紹介を軽くする。


「ほう、なかなかアニメを観ているようだな。オーラで分かる」

 剛承は僕の目を見つめながら微笑みを浮かべて話す。僕はコイツ何言ってんだよと思い、警戒の目で彼をじっと見る。新野はそれに気付き、この方は人を見抜く力が凄いんだと僕にフォローを入れる。そして、僕は聞きたかった質問を彼にぶつける。


「アニメオタクはモテると剛承さんは言っているみたいなんですが本当なんですか?世間ではその逆の評価ですし、僕も全くモテません。僕はあなたの言ってる事が正しいとは思えませんが・・・・」


「結論から言おう。アニメオタクはモテる要素がたくさんある。私はそれを生かし女性から指示を得ている」


「それはあなたが医者でお金と地位を持っているからじゃないですか?アニメオタクとは関係ないんじゃないですか?」

 僕は今までの自分じゃ考えられないくらいに彼に食って掛かっていた。それだけ僕のこれからの人生にとってその質問の答えが重要だったのだ。


「私が医者だからではない。アニメオタクにはアニメオタクにしか使えないモテ戦略があるのだ!どうやら貴様はアニメから何も学んでおらぬようだな」

 剛承の言葉が胸に突き刺さる。僕は愕然とし、その場に膝を付く。


「モテるアニメオタクとモテないアニメオタク、どちらか貴様自身が選べ!」

 僕は剛承の言葉と熱意に打ちのめされた。そして、僕は涙ながらの精一杯の声を搾り出す。



「剛承さん、モテたいです・・・・・。僕を弟子にして下さい」

 


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