第13話 迷宮攻略再開/洞窟フィールド




    ◇ ◇ ◇



 迷宮区は今日も賑わっていたが、今日の賑わいは一味違う。それもそのはず、一人の注目を浴びる王女、エルトリーアが王族の戦闘装束を持ち出してきたからだ。


 その理由は学園内に魔族が現れたからだ。故に、現国王アイデンハルトが装備の持ち出しを許可した。


 それがエルトリーア本来の実力であり、しかし元々この装備を着ていた頃よりも覚悟が違うため、王族特有のカリスマも相まって、迷宮区を歩くエルトリーアの姿は圧倒的強者の風格を醸し出していた。


 だが、バルドルと合流したエルトリーアはそんな空気は消え去り──、


「バル、どうかしら? 似合ってる?」


 恋する乙女の顔で腕を広げてそう尋ねたのだった。


「うん、似合ってる。エルの特異体質の名前を聞いた時から予想はしていたけど、巫女服なんだね。動きにくくない?」


「ええ、大丈夫よ」


 赤と金色をメインにした巫女服で、スカート丈が短く、肩が空き、袖の部分が二の腕辺りで紐を使い結ばれている。


 パッと見は防御力皆無で、その巫女服が秘める効果は自動修復と自動回復だ。どれだけ服が壊れても修復していき、使用者の肉体を回復し続ける代物。


 それは本気になった〈竜の巫女〉は如何なる装備よりも硬い鱗を手に入れるからだ。


「この袖の部分は外せるし」


「ならどうしてつけているんですか?」


「秘密よ」


 バルドルには見えているが、エルトリーアは武器? を装備している。彼は見るのが初めてだが、紋章という特殊な武器だ。


 それをエルトリーアは両腕に装着し、肌に紋章の形の魔力が存在している。それを袖で上手く隠している。


 多分、エルトリーアの攻撃力は前よりも相当上がっているはずだ。というか、敏捷も含めて桁違いに強くなっている気がする。


 もしもあの時、フル装備のエルトリーアと戦っていたら負けていたかもしれないが……彼女の性格を知っているバルドルは、そんな不公平な戦いは望まないだろうと気づいて微笑んだ。


 そして、少し待っているとミルフィ達もダンジョン前に集まり、第六層に転移した。ミルフィ達は昨日、リハビリを済ませたフォグとラァナと共に大樹の奇術師を撃破したそうだ。


 第六層の通路を抜け、洞窟フィールドに入る。神造迷宮ユナイトは五層毎にフィールドが変わり、現れる魔物の種類もガラリと入れ替わる。


 第六層から十層までは洞窟で、岩の壁に囲まれ、正規ルートを調べながら進む必要がある。この時、草原は通路を通ると祠から出たが、洞窟だと壁の亀裂から出る仕組みだ。


 すると早速、バルドルが領域を広げ魔物を捉えた。


 数は3と、新パーティーの試運転には丁度いい。


 フォグはバルドルの領域範囲に半信半疑といった様子だったが、三体の魔物を目の当たりにして「マジか」と呟いていた。


 出現する魔物の情報は共有済みで、魔物の形からバルドルが魔物を予測し、話していたのですぐ戦闘態勢に入った。


 その三体の魔物はストーンゴーレムだった。


 全身が岩ででき、人ならざる平べったい手足と丸く赤い宝石のような目を持っている魔物だ。形は丸く、追い詰められると体を丸め爆走するため、倒すなら一気に倒さないと、その攻撃で後衛がやられかねない魔物だ。


 体が岩のため攻撃が通りにくく、普通は中級魔法を使いダメージを与えていく所だが……


「はぁ!」


 そのセオリーを無視したエルトリーアの右ストレートが、一体のストーンゴーレムを砕き、その奥の魔石を手に掴み、握り潰した。


「「えっ?」」「はっ?」


 ミルフィ達はエルトリーアの実力を知っていたが、間近で見る機会はそれこそ決闘を除きなく、惚けた声を上げてしまった。


「落ち着け!」


 とバルドルが声を上げるが、落ち着くより先に残りのストーンゴーレム二体が予想外の行動に出た。


 エルトリーアのあまりの威力の拳に危機感を覚えたストーンゴーレム達は体を丸め、特殊能力たる魔力推進を使って爆走してきた。


 ゴロゴロゴロゴロゴロ! と岩の塊が迫りくる光景は凄まじい威圧感があり、一番最初に動いたのは当然バルドルだ。


 早撃ちクイックドロウ


 腕を閃かせ、標的に魔弾を撃ち出した。


 一射一殺。


 魔弾は岩を少しだけ抉り停止した。瞬間、衝撃が浸透し、岩を伝い弱点の魔石をその振動で破壊した。


 それにより一体のストーンゴーレムが動きを止め、体を光の粒子に変えた姿を見たフォグは、負けるかとやる気を漲らせ、「合わせて!」とミルフィが指示を出し地面に手をおいた。


 無詠唱──《岩を錬金ロック・アルケミー》。


 地面の土を材料に、フォグの少し前に岩を作り出し、ストーンゴーレムがそれに引っかかり身を跳ね上げさせた。


 正拳の構えを取り、息を吸い、吐いた。


「らぁ!!」


 ガントレットに魔力を流し、攻撃力を上昇させる赤い光を纏い、拳を振り抜いた。


 その拳撃はストーンゴーレムの体を砕き、一撃で破壊とはいかなかったが大ダメージを与え、地面に転がした。


 そのチャンスを狙っていたラァナが土属性中級魔法 《岩石砲弾ロック・カノン》を発射し、フォグが砕いた場所を抉り込むように突き進み、奥の魔石を破壊し最後のストーンゴーレムを倒した。


 予想外の展開を迎えながらも戦闘が終了し、安堵の息を吐いた。


「ご、ごめんなさい。あんな行動に出るとは思わなかったわ」


「流石にあれは不可抗力だ。仕方ない。それよりミルフィ達もよく冷静になれたな」


「流石にもう動けないなんてことにはならないぞ」


「うん、でも驚いちゃった。魔力も魔法も使ってないんでしょ?」


「ええ、でも……いや、何でもないわ」


 紋章装備は秘密にしているようだ。


 実際、エルトリーアの攻撃力はそれこそ間近で体験したバルドルくらいにしか、威力が上がったと感じられなかった。


「お疲れ様でした。ドロップアイテムを回収しますね」


 エルトリーアのマジックバックを肩にかけているユニがストーンゴーレムの魔石を回収し、最後にバルドルがラァナを褒めて、先に進んだ。


 基本的にダンジョンは一層毎に5種類の魔物が徘徊し、前に進むほど、正規ルートを行くほど魔物の数が増えるので、バルドルの領域の広さがあれば、洞窟の別れ道も正解がすぐに分かり、サクサクと進んだ。


 その攻略スピードに、自分達と首席、そして首席を争うエルトリーアの実力の壁を感じたミルフィ達は、何かを考え込むような顔をしていた。


 さっきの戦闘で魔法を使ったが、バルドルがパーティーのフォーメーションでエルトリーアのことを話していた通り、彼女一人なら全部瞬殺できた。魔力を使うこともなく、だ。


 体力の消耗はあるが、魔力に比べたら減るのが遅い。体力より先に魔力が尽きるのが当たり前だ。ただでさえ、エルトリーアとバルドルは特異体質の関係で魔力量が多いのに、自分達だけ魔力を使うと……ついていけない、と感じた。


 バルドル達より先にバテる。


 ユニは魔力を自動回復する教会の結構ヤバ目の装備をつけているからついていけたのだろうが、ミルフィはともかく、フォグとラァナは特に自分達がこのまま攻略した可能性を想像し、いつか必ず足手まといになる時が来るのを確信した。


 この時フォグはハッキリと理解した。


 バルドルとエルトリーアは化け物のように強い、と。


 二人の強さの方向性は違う。


 だからこそ同時に、フォグは自分の秘匿魔法シークレットを上手く利用すれば、防御が脆いバルドルに勝てる可能性があることを確信した。


(実力が開かない内に、決闘して勝つ……!)


 密かにバルドルを観察しながら、フォグは自分の目的のために決闘を挑むことを決意した。今やらないと取り返しがつかなくなると予感したからだ。



 第六層の奥に進んだバルドルは、階段ではなく特殊な出口から降りる物を見つけた。


 草原だと芝生のトンネル型滑り台だったが、洞窟の場合、下の階層に続く亀裂だった。飛び降りる必要があり非常に危険だが(身体強化魔法を使えば耐えれるが、飛び降りる恐怖があるのでエルトリーアを除く女性陣が厳しい)、バルドルに作戦があるので大丈夫だ。


 その前に、亀裂のもとに行く道中に希少種の魔物がいた。


 ストーンゴーレムと同じ見た目をしているが、材質が岩から鉄に変わり、遥かに硬度を増しているアイアンゴーレムだ。


 中級魔法の殆どが通じず、魔法物理どちらにも耐性があるため、戦うとなると魔力をかなり消耗するので、ダンジョン攻略だと避けるのが利口だ。それに、ダンジョンの魔物は倒すと光の粒子に変わるのだ、アイアンゴーレムを倒してもメリットが少ない。


 だがしかし、そのアイアンゴーレムを余裕で倒せる者がいたら、関係なかった。


 ……そこに行くまでの道中、エルトリーアはバルドルの新たな特殊魔法を見て、更に実力を引き離されたような感覚を味わっていた。


 だからこそ、自分もその隣に並び立つために、アイアンゴーレムを前に「ここは私に任せて」と言い、魔法を使った。


「私に力を貸しなさい──《竜化ドラゴン・フォース》!」


 呼応するように契約の繋がりを通して竜王の声が聞こえる。


 決意の炎は胸に、その魔力を対価として竜の力が流れ込む。


 今までは身を委ねるようにだったが、今回からは違う。


 力を引き出すようにもっともっとと体に行き渡らせるように竜の因子を取り込んでいく。


 爪が竜と化し、人間には釣り合わない大きさと鋭さを持ち、全能感にも等しい力が体中に漲った。


 だが、第一段階の強化を完全に制御できるようになった今では、力に振り回されることなく、冷静に周りを見ることができる。


 すると、気づいた。


 目に見える変化は竜の爪と身体能力上昇だったが、落ち着いてくると分かる。


 空気中の魔力、魔素が視えるのだ。


 いや、感じる。


 竜の感覚とでもいうのだろうか。


 その魔素が従うように手足に纏わりついている。


「《竜の爪撃・纏ドラゴンクロー》」


 意識を手に集中させ、静かに宣言する。


 と、手に魔法陣が生まれ、魔力の竜爪が伸びる。その時、魔素を意識していたからか、魔素が魔法に組み込まれ、魔力の色が変わった。


 前よりも硬く鋭くなったように魔力が洗練されている。


 そして、無造作に歩いていく。


 アイアンゴーレムは距離が離れていたこともあって、エルトリーアに気づかず、彼女が竜化した時に振り向き、エルトリーアを視界に納めた直後、宝石のような青い目を点滅させ、体を丸めた。


 脅威を感じ取ったアイアンゴーレムは形振り構ってられないと、巨大な鉄球となりて、ストーンゴーレムとは違う特殊能力を用い、地面を高速回転して、転がる度に速度を増した突撃をかました。だ、が──、


「ふっ……!」


 視界がズレた。


 振り抜き一閃。


 竜の爪が通った跡、アイアンゴーレムの胴体に五つの切り傷が刻み込まれ、一瞬にして体の魔石を砕かれ、その身を光の粒子に変えた。


 圧倒的な力を前に、アイアンゴーレムは瞬殺されたのだった。


 その光景に肌をゾクゾクと震わせたバルドルは、笑みを浮かべ、やはりエルトリーアは強いと再確認した。


 その後、バルドルが亀裂に氷結魔法を使うことで、氷の滑り台を作り、第七層に降りていき、順調に攻略を進めていくのだった。

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