第8話 スイーツ女子五人組と仲良くなる
◇ ◇ ◇
特殊科の生徒は20人いる。その男女比率は10:10で、バルドルは女子生徒の半分と最低限話せる関係を築いている。
エルトリーア、ユニ、シスカ、ミルフィ、ラァナ。
男はフォグだけだ。
そのため男子生徒と距離を詰めるのは間に入れる人がいないので後回しになり、放課後、バルドルは残りのクラスの女子グループと仲良しになるために、生徒会で今後のことについて話し合った後、ミルフィと共に食堂棟に足を運んでいた。
また、今回の話し合いをするに当たり、バルドルと彼女達は顔見知りではないので、条件が出された。それはスイーツを奢ってもらうことだ。
それだけ? とバルドルは思ったが、ただで食べられるということが重要らしいとミルフィに教えられた。それに食堂棟のスイーツは高級な物が置いてあるので、甘く見ていると痛い目に合うとも言われた。
……特殊科クラスは仲の良い人で集まり、幾つかのグループに分けられている。
バルドル、ユニ、エルトリーアの特殊科の中でも特殊な三人グループ。ミルフィ、ラァナ、フォグの幼馴染グループ。同じ系統の特異体質を持つ今から会う仲良し娘五人グループ。シスカは一人で。後はそのシスカを襲撃し、尋問の際はバルドルとデステラを前に失神しかけていた男二人グループと、残りは
グループは基本的に一緒にいるメンバーで、いつも一緒にいるわけではない。例えば、個人実技ではなくクラス実技の授業になると、魔法を使った戦闘、魔法戦をすることになるので、嫌でも他人と関わる機会はある。……バルドルはその時、シスカを襲撃した男と当たったので、仲良くなる所かトラウマを植え付ける勢いで完封していた。
そして、バルドル達が食堂棟にやって来ると、「あーーーー!」と女子の叫ぶような声が響き渡った。
「やっと来た、こっちこっち!」
そちらに視線を向けると、もうスイーツを頼んでいたようで、しかしバルドル達が来ていないので、待てをされている犬のようにスイーツを物悲しそうに見つめている五人の少女がいた。
「もう! もっと早くきてよね!」
「フライングするからだよ」
その赤毛の少女にやれやれといった眼差しを向けるミルフィ。
バルドルはその姿にこの女と仲良くなれるのだろうかと首を傾げ、改めて五人を視た。
「やっと食べれるっ!」と元気な赤髪の少女。
「やっと、やっと……」と悲しそうなオーラを纏っている紫髪の少女。
「コリンは見ないです!」と目を隠すように手を当てているがバッチリ見てる茶髪の少女。
「水でも飲めば……」ともう水はないのにコップに口をつける青髪の少女。
「あーできたてホヤホヤがー」とパフェを見ながら不思議なことを宣う緑髪の少女。
バルドルは五人の少女の性格を凡そ把握していたが、色々と凄かった。これまで接してきた女子は優しい人ばかりだったと気付かされた。
本当の女子というのは……
(……いや相手に失礼だ。やめろ)
スイーツ狂いの女子達を前にバルドルは気圧されたが、別に悪い人達ではないので気を取り直して仲良くなりに行く。
「じゃあ揃ったし、食べよっか」
「「「「「っ!!」」」」」
全員が一気にスイーツを食べていく姿は圧巻の一言だった。
口を挟んだら仲良くなれなさそうなので、スイーツを頂くことにした。実はバルドル達の席には大量のスイーツが既に準備されていたのだ。端から端までという注文をしたみたいに大量のスイーツがテーブルに並べられていて、バルドルは内心で遠い目をしていた。
(奢るとは約束したけど、ここまで容赦がないか……)
甘く見ていたのは自分の方だと思い知らされた瞬間であった。
「うん、甘くして美味しい」
そして、五人娘が満足するまでスイーツを食べた頃を見計らい、まずは一番最初に満足した赤髪の少女に話しかけに行く。
「もう満足したか?」
「したー!」
「じゃあそろそろ挨拶させてもらおう。俺はバルドル──」
「かたい! そんなんじゃダメ! 私達と仲良くなりたいんでしょ?」
「間違ってはないが……」
「じゃあほら、私の名前は?」
「モニカ=ヴァー──」
「モニカ!」
「分かった、モニカ」
「おお! 良いね!」
ナイスと親指を立てるモニカ=ヴァーミリオンに、バルドルは調子を崩されっぱなしだった。だが、悪くはない気分だ。
「私はね。仲良くなるにはやっぱり何回も会うことが重要だって考えてるんだー」
そして唐突に何かを語り始めた。他の四人娘もうんうん頷いている。
「だからね、たまにこうやって一緒に話して美味しい物でも食べてれば、自然と仲良くなれるよ。そんなに焦って距離を詰める必要はないよ?」
「っ……そうか」
「うん! 私から言いたいのはそれだけ。じゃあこれからもよろしくね、バルドル君!」
「ああ」
モニカと親睦を……いや、仲良くなった後、次は紫髪の少女がスイーツに満足したようで、「私は知ってる……?」とオズオズと尋ねてきた。
「勿論だ、ペニアさん」
モニカとの経験で学び、下の名前で、流石に呼び捨ては本人の許可を得てないのでさん付けで呼ぶ。彼女の本名はペニア=スネードだ。
「っ! 嬉しい。私は影が薄いからいつも他の人に忘れられてるのにアイゼン君は覚えてくれたんだ。本当に嬉しい。それで前から聞きたかったんだけどアイゼン君が使う状態異常魔法って何種類あるの? ていうか反則じゃない? 普通は属性魔法を一つとか二つに特化してる所を状態異常魔法だからって幾つもあるよね。前から状態異常魔法には興味があったんだけど使える人がいなくて調べることができなくて、だから今度の休日に空いていたら是非とも研究、じゃなかった、調べさせてもらいたいなーって思うんだけどとうかな? いいかな?」
「──て、ストープ! ペニペニ! 嬉しかったのは分かるけどイキナリ距離詰めすぎ!」
モニカが目をキラキラと輝かせるペニアの前に手をやり、早口をやめさせると、ペニアは冷静に帰ったようで頬を赤らめてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「別に気にしていないし、ペニアさんとは仲良くなりたいと思っていたから、研究に付き合うのは構わない。むしろ、状態異常魔法のことを調べているなら、こちらこそ頼みたいくらいだ。俺もどんな状態異常魔法があるか全部は知らないからな」
「っ! うん!!」
そのバルドルの対応にモニカは「うわー、流石魅了」とか言ってた。他の三人も可愛い妹分を誑かす男に見えたのかバルドルに険しい眼差しを送っていた。
ペニアはそれはもう嬉しそうにしていた。
そして次にスイーツに満足したのは、茶髪の少女だ。
「よろしくお願いします! コリンはコリンです!」
「こちらこそ、バルドルだ」
コリンは背が低いのに、どこにそんな量のスイーツが入るのか分からないくらいスイーツを食べていた子だった。フルネームはコリン=アウテット。
「コリンさんは……」
「コリンです!」
「コリンの家は建築関係の家だったか?」
「はい! お城とか砦とかを建てるのが得意です!」
「凄いな」
「ありがとうございます! 総代はたまにお昼を作ってきてましたよね。もしかしてスイーツとか作れたりしませんか?」
コリンは第一印象は幼いのに、話してみると意外としっかりした少女だった。
中々に鋭い所を見ている。
「……作れる」
「やっぱり! 私のお家は何かを建てたり作るのが好きな家系なんですけど、やっぱり私はスイーツを作るのが一番好きです! けど男性で料理している人がいなくて、女性に人気のスイーツは分かるんですけど、前から男性が好きそうなスイーツを作ってみたいと思ってたんです。だからもし良かったら、私が作ったスイーツの試食をしてくれませんか?」
「それなら全然構わない。俺の方もスイーツを作って返すよ」
「はい! 約束ですよ!」
「ああ、約束だ」
そんな風にコリンとも仲良しになったバルドルは、次に満足した顔をしているスイーツ女子に目を向ける。
青髪の少女マリン=クリアライドだ。
「マリンさんは──」
「私は貴方を許さない」
「……」
「そう、私達の可愛いペニアちゃんを誑かそうとして──」
「こらこら暴走したらダメだよマリリン」
「ちょ、何で邪魔するのよ! エルトリーア様を誑かすだけに飽き足らず、ミルちゃんまで手を付けて……!」
「……色々と誤解があるようだ」
「私は貴方の罪を証明して見せる!」
(話を聞かない子だなぁ……)
バルドルはモニカが取り押さえたマリンを領域から除外し、最後に緑髪の少女に話しかけた。
「カリンさんは……まだ食べてるけど、少し話いい?」
「いいおー」
もぐもぐとパフェを頬張りながら頷いた。
口の中に入っている時に喋るのは淑女としてどうかと思ったが、バルドルは女子の生態系を理解し始めたので流した。
ちなみにカリンの家名はマナアイドだ。
「カリンさんはどういうのが好き?」
「むー……全部?」
「食べるのも寝るのも戦うのもってこと?」
「ぅん」
肯定しながらゴクリと飲み込んだ。
「みんなと一緒なら何をするのも好きー。食べ物は美味しーし、寝るのは気持ちーし、戦うとスッキリするし、頭を使うのも楽しい」
「学園生活を楽しんでいるみたいだな」
「? うん、楽しーよ。バルドルは違うの?」
「いきなり名前呼びか。まあいいが、楽しいことは楽しいが、色々と目標があるからな。それに……」
「それに?」
「いや、何でもない」
学園祭のことのために今、カリン達と仲良くなろうとしている。そのことを頭に思い浮かべたバルドルは、今カリン達と仲良くなりたいのは、そのための義務感から来るものだろうかと逡巡してしまった。
だが、初めは義務感からかもしれないが、こうして皆と仲良くなれるのは嬉しかった。
それが彼の偽らざる本心であり、
「あ、笑った」
とミルフィが珍しいものでも見たかのように、バルドルが純粋に笑った姿を目にした。
「? 初めてじゃないだろ」
「そうだけどね。最近のバルドル君は色々と考えすぎてるみたいだったから」
魔族のこととか学園祭のこととか、周囲の人間の視線の変化とか、とにかくバルドルは気にするものが多かった。
生徒会の一員として恥じないように常に堂々とした振る舞いを見せ、寮室に帰ってもエルトリーアがいないので、一緒に休まるような人がいなかった。
それらが無意識に影響していたのだろう。バルドルが心の底から笑ったのは、かなり久し振りだった。
「そうだな……。今後もこんな風に仲良くできたら嬉しい」
その言葉にモニカは「だからかたーい!」とバルドルに注意して、他の人達は笑って、バルドルも楽しそうに放課後を過ごすのだった。
……クラスの人全員と仲良くなるまで、残り8人。
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