第7話 仲良し作戦スタート?

 


 特殊科は特異体質、あるいは秘匿魔法シークレットを持つ生徒が在籍するクラスのことだ。その特殊科には20人の生徒がいる。


 喫茶店でミルフィに相談したバルドルは、まずは自分に接点のある者の名前を上げていき、仲良くなるために挨拶することにした。


 その二人はミルフィの幼馴染で、ダンジョン攻略のために同じパーティーを組んでいる、金髪の少女ラァナ=ベルベットと金髪ツリ目が特徴の少年フォグ=グリンドである。


「こうして直接会うのは初めてだな、グリンド。特殊科の総代を務めるバルドル=アイゼンだ。よろしく頼む」


「……ああ、こちらこそ」


 ミルフィを隣に侍らせているバルドルに何か言いたげだったが、この場で言うつもりはないようで、素直に握手に応じてくれた。


 時間はお昼休みだ。仲良くなるにも時間が必要ということで、お昼休みになるとミルフィがフォグとラァナをバルドルの所に連れてきたのだ。事前に紹介したいと話していたから、スムーズに自己紹介が進む。


「ベルベットさんもよろしく」


「はい、よろしくお願いします。けど、わたくしその家名があまり気に入っていませんので、できたらラァナと気軽に読んでください」


「そうさせてもらおう、ラァナ」


「はい」


 世間知らずの少年がサラリと人の親友を下の名前呼びする光景を目撃したミルフィは、「なっ!?」と目を剥いていた。


「バルト君、いつの間にミルフィさんとそんなに仲良くなったんですか?」


「「「っ!?」」」


 音もなく忍び寄ってきたユニに三名は驚いたが、バルドルだけ視えていたので応じる。


「ああ、生徒会とか休日にお礼をしてもらったから、その時に親睦を深めた」


「そうですか……」


 ユニはちょっぴり不満を抱えていたが、バルドルが他の人と仲良くするのは良いことなので、何も言わなかった。


 そして、エルトリーアは学校を休みのようで、いつもの席に彼女はいなかった。


「みんな、それじゃあ食堂に行こっか」


「ああ」「分かった」「うん」「はい」


 教室から食堂へ行き、四人は好きな物を注文すると、親睦を深めるために話をする。まずは全員と一定の親密度を誇るミルフィが話を始める。


「ラァナとフォグはもう大丈夫なんだよね?」


「はい、お陰様で」「ああ……そん時はありがとう」


 バルドルとユニに顔を向け、ラァナは感謝に頭を下げ、フォグもボソッと小さく礼を言う。


「受け取っておこう。それにしても災難だったな」


「嫌味か?」


「いや、君が魔法を使えていたら変わっただろう。その効果は聞き及んでいる。どんな攻撃も通じないそうだからな」


「当たり前だ」


「ま、それも使えなきゃ意味ないんだけどさ」


「ですね」


「なっ!? あ、あの時はテンパっただけで、だから次は絶対に……!」


「その一回が大事なんだよ」


 ミルフィは自分達の状況をあの時誰よりも受け止めていた。少しのミスで綻びが生まれ、一人一人がまともな行動を取れなくなり、小さな綻びはやがて大きな穴となり、奈落に落ちる所だった。


「ね、ユニちゃん」


「は、はい。私も似たような状況になったから分かります。自分の命を奪い得る強敵との戦いはしっかりとその後も受け入れないといけません」


「ほら、ユニちゃんもこう言ってるよ?」


「うぐっ……」


 女子二人の意見に顔を歪め、バツが悪そうな表情になる。


「ああ、あの時の俺は弱かった。……だが、次はない!」


 その時のフォグの視線は憎々しげにバルドルへ向けられていた。バルドルは仲良くなれなさそうなフォグの雰囲気に内心では苦笑する。


「俺もそうならないことを祈っている」


 あくまでも余裕の笑みを称え、あくまでも高圧的なバルドル=アイゼンを彼は演じる。計画の修正はほぼほぼ不可能だという結論に達したが、少なくともフォグのように自分に敵意を向けさせることで、生徒のアイツには負けたくない! という気持ちを作ろうと思ったのだ。


「さて、ご飯もできたみたいだし取りに行こっか」


 食堂は料理にランクが存在し、例えばエルトリーアが前に食べていたお寿司などの高級料理は係の人が運んでくれるが、普通の食事は取りに行く必要がある。出来上がるまではそれ専用の魔道具を渡されているので、時間になると魔道具の光が消える。仕組み的には頼んだ料理が出来上がるまでの時間だけ光る、というものだ。そのため魔石はスライムなど低位の魔物の物が使われている。


 そして、食事を手に席に戻った面々は、手を合わせると「いただきます」してから食べ始めた。


(うん、美味しい)


 カルボナーラをフォークに巻き付け、上品に食べたバルドルは口元を綻ばせた。生クリーム、まだ固まっていないチーズと卵が良い感じにパスタに絡みつき、ブラックペッパーが効いたカルボナーラはとてつもない美味しさだった。


 非常に濃厚な味だ。


 そこに小さなベーコンが混ざれば、更に美味しさは引き立ち、やはりバルドルも男なので肉があるというだけで美味しく感じてしまう。


 そして、各々は頼んだ料理に舌鼓を打ち、会話に花を咲かせていく。


「そういえばバルドル君、エルトリーア様は今日休みだけど、何か知ってる?」


「特には」


 竜王との契約の件だと思いあたりはあったが、無闇に話していい事情ではないので首を横に振っておく。


「そっか。もしも良かったらだけど、一緒にダンジョンを攻略しない?」


 その言葉にフォグは咀嚼していた唐揚げを飲み込むと異議を唱えた。


「どうしてコイツに頼むんだ!?」


「フォグ君、貴方がそれを言うの?」


 ラァナの呆れた視線が向けられ、うぐっ、とまたバツが悪い顔になる。


「……神造迷宮ユナイトは六人までしか攻略できない。ミルフィさんは既にフルパーティーだったはずだが?」


「あ、バルドル君、私のこともミルフィでいいよ」


「分かった。それでミルフィ、どうしてそんな話に?」


「ええっとね」


 サラッとミルフィを名前呼びしたことにフォグがガクッと顎を開ける中で、ミルフィは「実は……」言いにくそうにフォグを見ると言った。


「ラァナ達が目が覚めた後、私が……ミルミゼ家の娘が危険な目に合っちゃったでしょ? そのことにフォグが怒って、魔法科の生徒が先走ったのが原因だー、て言い争いになっちゃったみたいでね。それでちょっとパーティーを組み続けるのがだめになっちゃった」


「なるほど、まだ一年生で俺達の他に第五層の奥に来れるのは……普通科と魔法科の総代がいるパーティーくらいか」


「うん。そのどっちも3人も枠が空いてないから、3人入っても問題ないバルドル君のパーティーに入りたい、て思ったんだ」


 数秒考えたバルドルは、悪い話ではないと頷いた。


「分かった」


「本当!?」


「ああ、だが一旦臨時で組もう。感触が悪くなかったら続ける方向性で」


「うん! ありがとう!」


 天真爛漫な笑顔を見せ、嬉しそうにしていた。フォグは不満があるようだが、言い出す度胸がないようで口をつぐんでいる。


 そしてミルフィはラァナとフォグに勝手に決めたことを謝罪していると、バルドルの方でも似たようなことが行われていた。


「バルト君、いいんですか?」


「臨時だ。合わなそうなら解散すればいい」


「でも、エルはきっと怒りますよ?」


「だが、ダンジョンを攻略するなら、いずれはパーティーメンバーが必要になってくる。その時になって探すよりかは、早い内にしかも特殊科の三人とパーティーを組んだ方が確実で、何よりも攻略スピードが上がる。前までは前衛不足もあったしな。……いや」


(見た所、ミルフィとラァナはどっちも後衛だ。となると、エルがいないから……また僕が前衛をしないといけないか)


「はぁ……」


「どうしたんですか?」


「いや、何でもない」


 パーティーを組む以上、役割は決めるべきで、バルドルは他のメンツ的にまた前に出る必要がありそうだと思った。


 魔法銃を使う彼は中衛の役割がベストだが、仕方ないだろう。それでも、前衛としての立ち回りは、一対一の勝負において活かせるので無駄にはならない。


「それで、いつからだ?」


「うーんと」


「今日からいける!」


「無理ですよ」


 ミルフィは回復してきたが、ラァナとフォグはまだ怪我が治ったばかりで、激しい運動は控えた方がいい。


「頃合いを見ながら、かな。それまでは例のことに付き合うよ」


「ああ、引き続き頼んだ」


 そして、お昼休みはフォグとラァナと友人とはいかないが、話せる知人といった関係を結び、時間は放課後になる。

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