第二章 学園祭

プロローグ



 春が過ぎた夏の頃、バルドルは放心気味に現実逃避していた。


 入学式のように格式張った行事などは大正堂で行うが、それ以外の緩い学園行事の際に使われる第五訓練場、通称「体育館」と呼ばれている屋内訓練場に彼らはいた。


 三年生首席、現生徒会長レオンハルト=ナイトアハト。


 二年生首席、生徒副会長イリス=ティアライト。


 二年生次席、生徒会庶務ザック=ドラード。


 一年生首席、生徒会書紀バルドル=アイゼン。


 そして──一年生、生徒会会計ミルフィ=ミルミゼ。


 彼ら彼女らが体育館の壇上に勢揃いしていた。今期生徒会執行部のメンバーであり、二年一年は来年もこの学園を盛り上げていく存在だ。


 そんな生徒会執行部のメンバーが壇上にいるのは、学園行事イベント開始の宣言をするためだ。


 音を拡散させる魔道具マイクを片手にレオンハルトが長々と前置きを述べてから、言う。


「それでは第38回、アドミス魔法学園の学園祭を始めるっ!!」


 レオンハルトの開幕の合図が鳴り響き、待ちに待ったといった顔していた生徒達は音を割らんばかりの歓声の嵐を巻き起こし、その熱気を余すことなく壇上にいるバルドル達に伝えてきた。


 バルドルもこの日のために準備していた。だから本当は嬉しいはずなのに、彼の頭の中は予定と違うとか、本来はミルフィがするはずだったのにとか、混乱していた。


「さて、開始を宣言したが友達の店は見に行かなくて大丈夫か?」


「「「大丈夫ーーーーーーーーーー!!」」」


「自分達のクラスの手伝いはどうした?」


「「「後でーーーーーーーーー!!」」」


「よろしい! あいわかった。では皆の期待通り、我が生徒会伝統のライブを聞いて行け!」


 学園祭を開催した直後、生徒会は学園祭を盛りあげるためにライブをやるのが決まりになっていた。


 一度、壇上の舞台にカーテンがかかり、庶務のザックがマジックバックから楽器を取り出し、この壇上をライブのステージに変えていく。


 その後、ザックはドラムの席に座り、イリスは鍵盤楽器に指を添え優雅に椅子に腰を掛け、ミルフィは演出を担当するため幾つもの魔道具を収納したマジックポーチを提げスタンバイ。そして、バルドルとレオンハルトはマイクをセットしたスタンドの前で、ギターとベースを手に構えていた。


「レオンハルト会長、僕は生憎と音楽の素養がなく、領域技術的に裏方担当をするのがベストだったはずでは? ミルが手を怪我したから……」


「ああそれ嘘」


「……はい、視てすぐに分かりした」


 だが当然、生徒側が分かるはずもなく、代役としてバルドルが出るためライブは始まると通知されていた。


「前に約束したことを覚えているかな?」


「……指導、というわけですか」


「それに勝手に一晩で立てた計画を進めた罰だ」


 レオンハルトは悪巧みが成功した子供のような顔で笑っていた。


 どうして──と、バルドルは尋ねた。


「君は何事も順調に進み過ぎる。それは良いことだが、全て卒なくこなしている姿は親しみから遠ざけてしまう。だからこそ、今回は全力で焦って事に当たりたまえ」


「……はい」 


 カーテンが開き、様々な舞台装置を動かす魔道具の前に立ったミルフィが一つのスイッチを押す。


 体育館は暗闇に包まれ、一年生がざわめいた。


 そして、パッとライトの光が舞台を明るく照らし、タイミングよく別のスイッチを起動し音楽を鳴らし始めた。  


 その曲が観客オーディエンスの期待を膨れ上がらせ、バルドルは心臓の鼓動を高鳴らせながら、ミルフィが練習していた風景を思い出して演奏ライブを始めた。


 事の始まりは春、バルドルがミルフィと再開した時のことだ。バルドルはベースに集中し、彼に似つかわしくない必死ながらも全力な姿で弾きながら、再度──どうしてこんなことに、と僅かな不安感から過去を振り返るのだった。








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