第4話 世界で一番頭のおかしいサークル
昼の時間まで魔法銃の性能を確かめたバルドルは、エルトリーアと昼食を食べると、生徒会室を訪れていた。
そこにはレオンハルトとユニ、シンにシアの姿があった。
「まだ疲れが残っているだろうに、呼び出して済まない」
「いえ、今回の件が重大なのは理解していますから、構いませんよ」
レオンハルトの言葉に首を横に振る。
エルトリーア達も同意するように頷いた。
「そうか、では報告を頼む」
このメンバーが集まったのは他でもない、事情聴取のためだ。事件の詳細をバルドル達がレオンハルトに語り、それをレオンハルトが書類に纏め、報告書として国に提出するそうだ。
魔族絡みの事件となれば、国も情報を得ようと動く。そのため、レオンハルトを通してスムーズに情報提供を国はしてもらおうと思ったわけだ。レオンハルトも魔族が最近活発になっているのは知っていたので、有用な情報を得るために従った形だ。
魔族の固有能力、
レオンハルトは尋問したがマルクが屈することはなかった。むしろ、気を抜けば自殺しかねない勢いだった。
というか、尋問を進めた結果、マルクの精神は閉ざされた。自分に精神干渉を施していたようで、一定の条件を満たしたと精神が判断した瞬間、自ら精神を休眠させたのだ。厄介なのは精神の休眠は目覚める可能性があり、目を離すことができない。
ダンは比較的友好だったが、こちらも精神を弄られているようで、答えれる質問には答え、答えれば精神干渉が発動するものは「死ぬから無理」と絶対に答えなかった。
尋問の結果が芳しくない。故に、本来ならしっかりと休ませないといけない事件の当事者達に来てもらったというわけだ。
「ありがとう。参考になった」
レオンハルトは魔族の実力を知っていた。だが、
対魔王のために王家は力を高めている。だが魔族というのは、その力を覆す恩恵を秘めている。
マルクの魔眼はまだ対策可能だが、ダンの力は厄介すぎた。それに、バルドル達が苦労して倒した魔族は……
(今はこの話はしなくてもいい。今日はしっかり休んでもらって、明日辺りに話せばいい。特にエルトリーアは家にいた頃、ほぼ毎日訓練していたからね)
ある事実を隠し、レオンハルトはバルドル達に「これを」と食堂で使える食券を渡した。それは無料券という、
それで美味しい物でも食べろということだろう。時間的にはデザート辺りか。
「ああそうそう。バルドルとシン君は少しだけ残って欲しい。同じ立場の者としてな」
その言葉にエルトリーアとユニは首を傾げたが、「男同士の話」と受け取り「失礼します」と先に部屋を出た。
シンはシアと離れることに渋ったが、「お兄ちゃん、言うことは聞きなさい」どうやら立場が逆転しているようで、シアがそう言いつけペコリと頭を下げ、生徒会室を後にした。
残った二人は顔を見合わせるが、バルドルは少しだけ頭を回し、「ああ、例の件ですか」とレオンハルトに尋ねた。
「例の件って何だ?」
シンはシアを助けてくれたバルドルに苦手意識が消えたらしく、普段の彼らしい様子を見せていた。
「それは……」
「俺から話そう。実は……」
「実は?」
王子を前に微塵も緊張してない平然とした顔でオウム返しする。そんなシンに面白いものを見るように微笑み、口を開いた。
「妹の可愛さを伝える会という
そして、シンの意識は固まった。
まるで全知全能の賢者でも理解不能に現実に直面したように、「はっ?」と呆けた声を上げ、目をパチパチと瞬かせた。
そのことおよそ一秒、首を捻ること二秒、眉間に眉を寄せること三秒。青いお空を眺めたこと五秒。
(空は青いなー……て、こんなこと考えてる場合じゃねぇ!? 何て言った!?)
我に返ってきたシンは戦々恐々とした内心でバルドル達を見つめる。シンが放心している間、二人は話をしていた。
「やっとですか?」
「ああ、説得するのに随分と時間がかかった」
(説得したのかよ!?)
「確かに随分とかかりましたね」
「醜聞になるとかで5日もかかってしまった」
(一週間も耐えれてねぇ!?)
「怪しいですね」
「その通りだ」
(馬鹿なの? 実は馬鹿なんじゃないのかコイツラ……!?)
「何か条件でも出されたんですか?」
「そう、最低で二人は集めろと「そんなサークルに人が集まるか、俺は仕事をした」といった感じでバーンズ教師に条件を出された」
(その先生はよくやったよ)
「……失礼ですが、馬鹿なのでは?」
「すぐに集まるのにな」
(集まるか!? 馬鹿なのはお前らだろ!?)
「ええ、ここには3人いますしね」
「まあそのお陰で顧問を速やかに確保することができた」
(俺もカウントされてる!? その顧問の先生も可哀想だろ!? 絶対に引き受けるつもりなかっただろ!?)
「ちなみに部室みたいな物はあるんですか? サークルって何なのかイマイチよく分からなくて」
「あるぞ。顧問の承諾の時にもしも作れたらという条件で本校の一室を借りることに成功した」
(嘘だろ!? 普通は部活棟に纏められる所を!?)
「距離が近くでいいですね」
「休みの日は他の生徒もいないから存分に話し合えるしな」
(何を話し合うんだよ!? 嫌な予感しかしねぇ!!)
「さて、シン君が戻ってきたみたいだし、話の本題に移ろうか」
雑談が終わりレオンハルトは、「妹の可愛さを伝える会」の入部届の紙と筆記用具を二人の前に置いた。
バルドルは「ありがとうございます」と言いながら名前を書いていく。そして最後に魔力を流すことで、本人の意思を決定させる。
(……この入部届、お偉さんに使われると言われている契約式じゃねえか)
ダンジョン探索系の部活に所属しているシンは、部活仲間から聞いたことがあった。その友人曰く、その入部届は金貨……これ以上は精神衛生上よろしくないと思考を止め、レオンハルトの視線が向けられ、反射的に筆記用具を握ってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いや、その……」
正直、シンはこんな頭のおかしいサークルに入るつもりはなかった。何を目的とするのかは名前からなんとなーく予想はついているが、もしも、もしもシアに知られてみろ? 封印から解放されて二回幼少期をやり直した妹の精神は結構熟成していて、昨日から反応が冷たいのだ。……嫌われないか?
だがしかし、自分の妹と似た対応をされている兄がそこにはいた。
(知識を得るためにはいいかもしれない、か?)
バルドルには恩もあることだし、と建前を心の内側で述べるシンは、段々と思考が入部する方向に傾いていき、気づけば名前を書いて魔力を流していた。
「よし、これで我がサークル妹の可愛さを伝える会が結成された!」
「──はっ」
レオンハルトの声で正気に戻ったシンは、手元の入部届を見やり……レオンハルトに掻っ攫われたそれをもの悲しげに見つめていた。
(もう、どうにでもなれー……)
その後、入部届を顧問のテクノ=バーンズに渡しに行くレオンハルト、バルドル、シンの三人を見た先生が卒倒し、泣きながら部室に案内する一幕もあったが、そうして三人は新たな拠点を手に入れた。
この世界で一番頭のおかしいサークルに所属したシンは、何だかんだで妹の可愛さを伝える場がこれまでなく、その「第一回誰の妹が一番可愛か選手権」で、如何にシアが可愛いかのエピソードを披露するのだった。
ちなみに結果は、全員自分の妹に投票という結末を迎え、同率優勝となった。兄達曰く、「3位は絶対に有り得てはならない!」だそうだ。
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